第39話 アーサーの違和感
私はマチルダの病室で一夜を明かすことにした。
もしかしたらマチルダを狙う誰かがくるかもしれないと考えたからだ。警備兵は信用できない。
なので私が直接見張るしかないという考えに至る。
警備兵ではなく何故私なのだろうかとマチルダは不思議に思ったかもしれないが、私が「眠っている間に見張りをします」と言ったときにはすんなり受け入れてくれた。
勿論マチルダは女性なので、私が同じ部屋にいてもいいかどうか確認して、許しをもらった。
なるべくベッドから離れた扉の前で、私は座ってマチルダを襲ってくる女性がいないかと夜通し見張ることにした。
「私は扉の前にいますので、用事があったら声をかけてください。私が見張ってますので、安心して眠ってくださいね」
そう言って私は扉の前に座った。
病室の明かりを消すと、外の光がカーテンに透ける程度でほぼ真っ暗だった。目が慣れてくればうっすら見える程度。
眠くなってしまってはいけないので、私は持っていた目の覚める薬を飲んだ。
30分もすれば効いてくるだろう。
――しかし、夜通し一人でこうしていると時間が長く感じるな……
とはいえただ呆けている場合ではなく、アーサーのことを考えなければならない。
考えると言っても実際は何があったのかは詳しく知らないし、アーサーの様子からも推測していくしかできない。
「あの……ユフェル……」
私が考え始めた頃、マチルダは私に話しかけてきた。
「なんでしょうか?」
「何があったのか、聞かないの……?」
「…………」
――話せる状態には思えないが……
「話してくれる気になったらでいいですよ。無理に話すことはありません」
「でも……話さない訳にもいかないわ……アーサーのことなの……」
そこから暫くマチルダは沈黙した。
私は急かさずに、話してくれる気になったマチルダの言葉を待った。
言う気がなくなったのかと思う程マチルダは沈黙していたが、やっと彼女は話し出した。
「私は……アーサーともう旅ができないかもしれないわ……」
気持ち的な問題でそう言っているのであろう。
それはマチルダの気持ちなのか、アーサーの気持ちなのかは分からないが。
「無理に旅を続けなくても大丈夫ですよ。死にかけるような思いをした訳ですし」
「……でも……アーサーは旅をする人数は4人であることにこだわってるから……」
――また「4人」か……やはり、4人であることに何か意味があるのか
「その理由は知っていますか?」
「アーサーが言っている意味が分からないけど……4人で旅をするのが普通だって言うの……それが勇者の条件だって」
「勇者の条件?」
そもそも“勇者”というのは最近できた言葉であるはずだ。
誰が言い出したのか分からないが、アーサーがそう言っているのならアーサーが言い出したのかもしれない。
「分からないでしょう? 私も分からないの……トムと一緒に5人で旅すればいいのに、そう言うと……アーサーは凄く怒るの……“5人は多すぎる”とかなんとかって……4人も5人も大して違わないと思うんだけど……」
「………………」
マチルダにどのように怒っているのかは分からないが、私は部分的にしかアーサーを知らない。
アーサーのあの裏の顔をマチルダは知っているのだろうか。
私もマチルダから聞いても、4人でなくてはいけない理由は分からなかった。
「マチルダ、答えたくなかったらいいのですが……アーサーのおかしな点と言いますか……違和感があったら教えていただきたいです」
「違和感……思い当たることは沢山あるけど……」
「どんな些細な事でもいいんです。話せる範囲だけでいいので」
私はアーサーのことを良く知らない。
私よりアーサーと共にいた時間が少しでも長いマチルダの方がアーサーのことを知っているはず。
「そうね……そもそも、魔王を討伐するって言ってるところからずっと違和感があるわ……」
「魔王が人間を奴隷にしようとしてるとアーサーに聞きましたけど」
「でも、魔族にそんな素振りはないわ……今までの町でも魔族と人間はそれなりに上手くやっているし……人間に悪意を持っている様子はないと思うの……それに、魔王は人間に色々協力してくれてる……悪い魔族には思えない」
国王からの情報というが、それがどの程度信憑性のある物なのか疑問が残る。
この件に関してはずっと疑問だった。
「私も妙だと思っていますが……でも、水面下で動いている可能性もあります」
「そうは見えないけど……それに……今の魔王を打ち取って新人間派の魔族が魔王になっても、結局人間と魔族の関係ってあまり変わらないと思うの……人間を奴隷にしようとしているなら、魔族も魔王もかなりの実力者なのだから……無理やり従わせることもできると思うわ」
それはどうだろうか。
人間と魔族は戦争をしていた時期もある。しかし、戦争で決着はつかなかった。
確かに今、魔族の技術進歩は目覚ましい。昔とは違い、今なら武力制圧もできるかもしれない。
「アーサーのような強力な魔法使いがいる限り、それはないと思いたいですが」
「……それに、1番変だと思ったのは……クロス家の使用人や執事の人に聞いたのだけど…………」
「?」
マチルダはまた暫く沈黙した。
そのまま数秒時間が過ぎていく。2秒、4秒……あるいは10秒かもしれない。
余程言いにくいことなのか、マチルダは一向に口を開こうとしない。
「あの……信じられないかもしれないけど……」
「信じますよ」
その後、更に私の頭を混乱させることをマチルダは言った。
「アーサーが魔王を倒すと言い出したのは……生まれてすぐだったらしいの」
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