第31話 カースの町に到着
道中はかなり休み休みだったが、なんとか夜までにカースの町についた。
つく少し前から、カースの町が騒がしいことに気づく。
町の入口で多数の女性たちが何かを捜している様子だった。
「私が少し様子を見てきます」
先行していたトムがその女性たちに何をしているのか聞いてくれた。その間、私たちは近くの物陰に隠れる形になる。
「なんだろうな?」
「…………」
トムは私たちが隠れている場所にさりげなく戻ってきて、状況を伝えてくれた。
「アーサー様を追いかけてきた女性たちのようです」
やはり、処罰があってもアーサーを追ってくる女性たちがいることは想定の範囲内だ。
――仮に追ってきたとしても、魔族に目的を知られていなければいいが……
「確か……追ってきた者たちは処罰の対象でしたよね? 警備に突き出しますか?」
「王都に一度戻ったと言って王都へ誘導するか?」
アーサーに意思確認すると、アーサーは自分が何とかすると言った。
「私をずっと探しているのだろうから、私自身が責任をとって説得する」
「説得すると言いましても、町の入口だけで30人はいましたよ。恐らく町の中にもその倍以上はいるでしょう。どうやって説得するのですか?」
トムがアーサーにそう質問すると「上手くやりますから」とだけ言った。
しかし、直々にアーサーが現れたら大混乱になってしまう。ただでさえ、処罰を無視してまで追ってきた女性たちだ。
それだけの人数を上手く説得できるとは思えない。
「ちょっとアーサー、大丈夫なの?」
「問題ない。私が町の外で彼女たちを説得する。そうすれば町での混乱はないはずだ」
心配そうに言うマチルダを他所に、アーサーは自分の変装を解いて彼女たちの前に姿を現した。
「あ! アーサー様!!」
すぐさまアーサーに気づいた女性たちは、アーサー目がけて走っていく。
町の中の女性たちもぞろぞろと出てきてアーサーへと群がった。
「どんだけモテるんだよアーサー……」
「…………行きましょ」
少し不機嫌そうなマチルダはそんなアーサーを
残された私とトム、バリズは顔を見合わせながらも、マチルダを見失わないように彼女を追いかける。
「カースの町は高台からパンデモニウムの夜景が見えると評判なんですよ。その近くの宿を取りましょうか」
「そんないい宿に泊まっていいんでしょうか」
「せっかくですし良いと思いますよ。幸い、国費がでていますし」
国民の血税をそんなふうに使っていいものか悩むが、アーサーの居場所が分かってしまっているのなら、ある程度警備のしっかりしている高い宿の方が安全かも知れない。
「それにしても、王都からこんなところまで追いかけてくるなんてな」
「半分くらいはこの町の女性なんじゃないですか?」
「それじゃどうにもならないですね……魔族に気づかれなければいいですが」
カースの町に入ってみて分かったが、マカバイの町よりも魔族が多かった。
やはり魔族の領土に近づくにつれて魔族が町で働いているようだ。
王都もかなり
――凄い。マカバイの町よりも賑わっている
人間と魔族は半分半分程度で、仲良さそうに生活している様子が見えた。
ミュタとバズズのように、助け合って生活しているようだ。
――本当に人間を奴隷になんてする計画が進んでいるのか? いや……こうして懐に入って油断させる方が作戦として成り立っているか……
そんなことを考えながら、私はトムの先導で高台のある宿の方へと向かった。流石に高台の方向は上り坂で、石段の階段で整備されているとはいえ、相当に疲れる。
トムはやはりかなりの荷物を持っているのに疲れを全く見せない。
「ここは何が有名なんですか?」
「カースの町周辺は涼しい町ですから、リンゴやブドウが有名ですね」
「果物かー……他には?」
ありふれた果物ではバリズは満足できなかったのか、他の名物をトムに問う。
「バリズさん向けの食べ物でしたら、高い場所に好んで巣を作るパティバディバードの卵料理が美味しいかと」
「ぱてぃばり……?」
「栄養価の高い希少な卵なんですよ。巣を作るのは相当高い場所ですし、凶暴な鳥なのでなかなか卵が手に入らないものなのです」
卵では少し物足りないと思っている様子だったバリズは、トムの話を聞いて「それは食いたい!」と興味を示した。
「私が取引で持ってきますので、宿の調理師に作ってもらいましょう」
「相当高価なものなのではないですか……?」
「ははは、得意先なので定価未満で仕入れられますよ。口に合ったら私を
笑顔でトムは商売取引を持ち出してきた。
アーサーのような貴族に気に入ってもらえればトムとしてもかなり利点が多いのだろう。トムはとても強かだ。
「なら、今日はそれを頼む。上り坂で流石に疲れちまった」
「もう少しで宿につきますよ」
私はアーサーがどうするのか心配だったが、トムたちと一緒に高台の宿にチェックインした。
「マチルダ、アーサーにここに泊まるって伝えてきてくれよ」
「分かったわ……」
どこか不満そうなマチルダは荷物を部屋に置いて、町の外にいるアーサーに声をかけに出て行った。
「しっかし、カースの町までわざわざ追いかけてくるなんて、正気じゃねぇな」
「男女の問題は……深く関わると、痛い目を見るかもしれませんね」
――何事も無ければいいが……
そう願いながら、私は宿に自分の荷物を置いた。
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