第29話 旅の友
バリズは余程空腹だったのか、私の作った
「ゆっくり食べてください」
本人は嫌そうだったが、バリズの口に私はスプーンで食べ物を運ぶ。
もっと早く食べたいと私から皿を奪おうとするが、バリズは力が入らないらしく奪い取るには至らなかった。
「駄目ですよ。私が看病しますから」
観念したのか、バリズは私が口に運ぶ速度でゆっくりと食事をとった。
嫌そうに食べているが徐々に血色も良くなり、元気を取り戻した。
だが、すぐに動くには無理があるので私はバリズに安静を求める。
「アーサーは明日出発とのことでしたが、延ばしてもらいましょうか」
「駄目だ。俺は……同じようになった奴を見たことがある。ラフェテンではこの病気が流行ってたんだ……」
――また違う種類の奇病か
「こうなったら治す手段はない……これ以上悪くなる前にさっさと任務を遂行しねぇと。まだ初期段階だからな」
「……その病は、どのくらいで進行していくのですか? 今が初期なら、最終的にどうなるんです……?」
「詳しいことはわからねぇ……ただ、発病したら3年以内には死ぬ。治せない」
「そんな……! アーサーに話して、病院に入院させてもらいましょう」
「無理だって言ってんだろ。王都の有名な医者でも治せないんだ」
バリズの言葉を聞いて、私は絶望した。
ラフェテンで流行っているというが、こちらも原因が分からないなら、いずれこの病は広がっていくだろう。
「だ……大丈夫です。私が魔族の領土に入って、魔族の高等な治療技術を勉強して、原因を解明し、必ずバリズを治しますから」
「魔族の領土に入るって……トムはまだしもユフェルは無理だろ」
「これを見てください」
私はフレイジャにもらったパンデモニウムへの紹介状を見せた。
「この町にいる天使の医師にパンデモニウムの紹介状をいただいたのです。これで私は堂々とパンデモニウムに入ることができます。奇病の研究も魔族の方が進んでいるらしく、私はそこで病気の治療方法が分かるかもしれません」
「…………」
驚いた表情をして、私の見せた紹介状をバリズは見ていた。
「すげぇなユフェル! 天使に紹介状書いてもらえるなんて。いくら親人間派が多いとはいえ、パンデモニウムはトムみたいな顔が効くやつしか入れないぞ!」
アーサーと打って変わって、バリズは紹介状を手にした事を称賛してくれた。
「アーサーのような貴族は簡単に入れるのでは?」
「そんなわけねぇじゃん。貴族だって観光でふらっと入れる場所じゃないぜ。まぁ、そもそも貴族が魔族の領土に入りたがらないけどな」
バリズに喜んでもらえて、私は多少なりとも救われたような気がした。
褒めてほしかった訳ではないが、そう言ってもらえると私も嬉しい。
「他にも奇病に苦しむ人たちはいます。必ず原因を突き止め、治療法を見つけてみせます」
「頼もしいぜ。ユフェル、恩義は必ず返す……まぁ、生きてればの話だけどな」
「何を弱気なことを……しっかりしてください」
私がそう言うと、バリズは苦笑いで弱く笑った。
「…………頼みがある」
「なんですか……?」
やけに神妙な顔をしているバリズを見て、私は嫌な予感がした。
「俺が手後れで助からなかったら、俺の身体を使って原因を調べてくれ。ラフェテンの俺の家族も……きっと同じ病気になる。せめて、家族だけは助けてくれ」
やはり嫌な予感は的中した。
私に旅の友の身体を使って原因を調べるなど、そんなことはしたくない。
バリズのその弱気の言葉に、私は涙が込み上げてくる。
「そんな……弱気なことを言うのはやめてください! 必ず私が助けますから!」
「へへっ、そうかよ。なら頼んだぜ」
拳を突き出してきたので、私はコツン……とバリズの拳に自分の拳を軽くぶつけた。
「今は……明日の備えで療養してください」
「あー……わりぃけど、食い物持ってきてくんね? 足りねぇわ。食ったら元気出るだろ」
いつもの調子に戻ったバリズに少し安心して、私はバリズの為に買い出しをしてきて、バリズに届けた。
一緒に食べようと言われたので、私はバリズの状態を観察しながら一緒に食事をした。少し元気は戻った様だったが、やはり少しばかり元気がないように見える。
病気を発症した精神的なショックもあるのかもしれない。
「大丈夫です。魔族の研究所でその病気の進行を遅らせる薬がないかどうか、トムさんを通じて探してみます」
「そんな都合の良いもんがあったらとっくに流通してんじゃねぇの?」
「開発段階かも知れませんが……この病気はいつ頃発見されたものなのですか?」
「さぁなぁ……でも、ここ数年だと思うぜ」
「数年経っているなら、薬の開発が進んでいてもおかしくないです。流通するまでに安全性のテスト等をしますから、試薬はある可能性が高いかと」
私はバリズを元気づける為にそう言った。確信はないが、そうであってほしいと願う。
ただの可能性の話だが、けして低い可能性ではない。
仮になくとも、私が必ず作り出す。
そう、自分の中で再度誓いを立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます