第17話 勇者の捜索
翌日になってもアーサーたちはバレストの町まで来なかった。
その内着くと思って、私とバリズとトムはバレストの町で暫く待っていたが、翌日の夜になってもアーサーたちは現れなかった。
「戻って迎えに行こうか……」
アーサーは国でも屈指の魔法使い。幼い頃に表彰までされている。
もし誰かに襲われたとしても負けるとは考えにくい。
しかし、それでも来ないは何故なのだろうか。
――もしかしたら、不意打ちでもされたのだろうか……
いくらアーサーでも不意打ちで襲われたら対応できなくてもおかしくはない。
「放っておけよ。あと2日か3日までには着くだろ流石に」
「……もし、着かなかったら?」
「んー……そしたら俺らだけで魔王倒しに行こうぜ。それか王都に戻ってアーサーが失踪したって報告すればいいだろ」
それは、不味いのではないか。
私たちはアーサーの旅の共として同行することになったのだから、アーサーから離れて先に行ってしまったなどと報告したら、下手をしたら首が飛びかねない。
「それは不味い。アーサーの仲間として選ばれたのに、アーサーを放置してきたなどと国王の耳に入ったら私たちの立場が危ない。最悪は極刑かと」
「はぁ!? マジかよ……でも、ユフェルはアーサーと残るって言って本人に拒否されたから先に来たんだろ? しかもずっと町の入口で待ってたし、今もずっと待ってる。それで極刑なんてそんな理不尽あるかよ」
面白くなさそうにバリズは舌打ちする。
「仕方ないよ。アーサーは貴族だから」
「けっ、これだからお坊ちゃんはよぉ……」
「バリズ、思っても口に出してはいけません」
貴族を平民が悪く言うなんて、聞かれるところに聞かれたらただでは済まない。
バリズもそれは分かっているはずだ。しかし、それでもアーサーへの不満の方が強いらしい。
「私はアーサーを捜しに行ってきます。ここまで一本道ですし、別の道に逸れるとは考えづらいので」
「……分かったよ。俺も付き合うって。ったく……こんな平和なところで襲われてのされてるようじゃ魔王打倒なんて話にならねぇぜ」
バリズの言う通りだ。
王都から出てまだ3日も経っていないのに、そこで
だからこその仲間だ! なんて言われてしまったら返す言葉もないが。
「明るいうちに出ましょう。トムさんに話してくる」
私は事情を話すために商店街にいるであろうトムを捜した。
商店街は王都ほど大きくなく、大柄なトムはすぐに見つかった。誰かと話をしている様子だったので、私は話が終わるまで待つことにした。
「うちにもブラックゴートの肉を卸してほしいんだ。この前もらった切れ端、かなり美味かった。これはいい商売になる」
「構いませんよ。1キロで7万ゴールドでどうでしょう?」
「結構吹っ掛けてくるなぁ……もうちょっと負けてくれよ。
「では、こういうのはどうでしょう? ブラックゴートの肉1キロを6万ゴールドに負ける代わりに、キュアフルーツを1万ゴールド分買っていただくというのは」
「あぁ、最近大人気のやつね。たまに入ってくるけど、どうにも新鮮さがなくて……トムさんのルートなら新鮮なの入ってくる?」
「勿論です。新鮮さは保証しますよ」
「じゃ、よろしくな」
トムと話していた商人らしき男性は、軽く手を挙げて挨拶しながらトムの元から立ち去った。
――やはりトムは他の町の人たちと顔なじみで信頼が厚いんだな
「トムさん」
「おはようございます。アーサー様は来ましたか?」
「いえ……その事で、バリズと私はアーサーたちを捜しに行きます。トムさんはこの町で待っていてもらえますか? トムさんの事情もあるのに……大変申し訳ありませんが……」
「いえいえ、いいんですよ。私も別に急ぐ旅でもないので。お気をつけて」
「すみません。すぐに探してきますので」
深々とトムに頭を下げ、待たせているバリズと共に、元来た王都への道へと引き返した。
バリズは心底嫌そうにしているが、最小限の荷物を持って道を引き返してくれた。
「大体、この作戦の主役がこんなんでいいのかよ。俺は楽して名をあげられると思ってついて来たってのに、話が違うぜ」
――バリズが仲間になったのってそういう理由だったのか……
動機は不純に感じるが、実力があるならそれも悪くないだろう。アーサーに引き抜かれたと言っていたくらいだ。
しかし、アーサーも魔法の天才なのだし、魔王を打ち取るのに何故仲間が必要だったのだろうか。マチルダにおいては同じ魔法使いであるが、アーサーの魔法を勉強したいという理由であった。
バリズのように実力があるならまだしも、私など天才でもなんでもないしがない僧侶だ。
――何故アーサーは私やマチルダを仲間にしたのか……
途方もない道をひたすら歩いているとそんなことを考えてしまう。
バリズは歩いている際に、どこの食事処が美味しかったから行こうとか、トムに色々美味いものを教えてもらったとか、話の9割は食べ物の話だった。
食べ物の話はとても興味深かったが、私は色々考えることが他にありすぎて、バリズの話に集中できなかった。
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