第8話 身体中が痛くなる病
他の患者も診たが症状は様々だった。
身体中が痛いと主張する患者は複数人いて、やはり足腰が弱って歩くのがやっとの状態になっていた。
中には、まったく動けなくなった家族の代わりに来ている人もいた。身体中が痛いと主張しているらしい。横になっていてもその痛みは治まらず、眠れない状態が続いているとのこと。
詳しく身体の状態を調べなければ分からないが、痛みが酷いようなので対処療法として痛み止めを出すくらいしか私にはできない。そもそもその痛みに対して、私の調合した痛み止めが有効かどうか確認する為に、最初に痛み止めを飲んでもらった男性の元へと確認しに行った。
「痛みは治まりましたか……?」
と、聞くまでも無く、男性はまだ身体を抱きしめるようにして痛がっている様子だった。
少しは和らいだと言うが、数値にすると10段階で10痛いのが6か7になった程度で
初めは弱い鎮痛剤をと渡したが、弱い鎮痛剤では改善しなかった。
強い鎮痛剤は内臓を傷める可能性がある。男性の身体の状態を魔法を展開して調べると、胃腸の動きは問題ない様子だったので、少し強めの鎮痛剤と胃腸薬を渡して飲ませてみる。
「また30分くらい待ってみましょう」
「はい……」
それから30分後。
それなりに強い鎮痛剤を飲ませたが、それでも男性の痛みは10段階中の5くらいにしか収まらなかった。
これ以上強い鎮痛剤は男性の身体を傷めてしまう。
……と、考えていた際に私は思い出した。
私のポケットに商人からもらった怪しげな薬が入っていることを。
確か「鎮痛作用がある」と商人は言っていた。
しかし……何が原料なのか分からない、効果の不確かなものを男性に渡していいものか私は随分悩んだ。
「助けて……痛い……助けて……」
男性があまりにも苦痛を訴えるので、私は覚悟を決めて商人からもらった錠剤の1つを半分にして男性に飲ませた。もしこれが危険な薬ならすぐさま嘔吐剤を飲ませて吐かせようと考える。
「もし、これで不調が強まったら私の責任です。私がすべての責任を持ちます」
私がそう男性に言っていたが、男性は痛みで話など全く聞いていない状態だった。
そして10分、20分と経つにつれて、徐々に男性の苦悶の表情は和らぎ、平静を取り戻した。
「今、どのくらい痛いですか?」
「全然。全く痛くなくなりましたよ!」
そう言って男性は私に感謝して両手を掴み、涙ながらに感謝を訴えた。本当に痛みが亡くなっている様子で、男性は立ち上がって元気であると私に主張した。
「もう少し様子を見ましょう。異変があるかも知れませんので」
「その薬、貴方が作ったんですか? 売ってください」
私の話は聞かずに、男性はポケットから有り金全部を出して来て薬を譲ってほしいと言って来た。
「待ってください。受け取れません。それに、あと何時間か経過を見なければ……」
「お願いします……その薬を売ってください! 家族も同じ病気で苦しんでいるんです! お願いします!」
あまりに男性が必死に訴えるので、私は「これは王都の商人から買ったものです」と白状すると、男性は私が制止するのも聞かずに商店街の方へと走って消えてしまった。
「…………」
――大丈夫なのだろうか……
一抹の不安を抱えながらも、私は商人からの錠剤を再びポケットへとしまった。私たちの会話を聞いていた、他の同じ症状の患者たちは杖をつきながら同じ商店街の方向へ移動を始めた。
一応、副作用などの効果がはっきりしていないものなので、私は止めたものの「この痛みから解放されるなら」という強い意志を無下にすることはできなかった。
――僧侶としてあるまじき行動だっただろうか……
私はそう考えながら、ポケットに入っている錠剤を握りしめる。
どうしていいか分からなかったが、私は宿泊している場所へと戻った。
怪しげな錠剤を取り出して見て、魔法を展開して調べてみるが、私の知らない成分が含まれているようで、結局明確なことは分からなかった。
――明日も時間があるなら、商人に会いに行ってもっと詳しく聞いてみるか……
そんなことを考えながら、私はシャワーを浴びて食事を済ませ、眠りについた。
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