第3話 得体の知れないドーピング剤




 バリズと一緒にキュアフルーツのパフェを食べた私は、その美味しさに舌がとろけてしまった。

 あっさりした味だが、舌触りがまろやかになるように加工されており、大変美味であった。


「美味しいですね」

「だろ!? もう俺、魔王退治終わったら王都に住もうかなって思ってる」

「ははは、すっかりこのパフェのとりこですね」


 かくいう私も、こんなに美味しいキュアフルーツの調理方法があるとは思わずに、大変驚いた。


「あと何日ここで待機していればいいのでしょうか……」


 他の同行者の選別の為に、まだ私は待機せよと言われており待機している状態だった。バリズもそれは一緒であろう。


「アーサーに直接聞いてみれば?」

「面談でお忙しそうですし……」

「何言ってんだよ。俺らもう一緒に旅する仲間なんだぜ? そんな気を遣う事ねぇって。俺が軽く聞いてきてやるよ」

「それなら、私も一緒に行きますよ。まだ食べ終わっていないので少し待っていてください」


 キュアフルーツのパフェをまだ食べ終わっていない私は、バリズに少しばかり待ってもらった。「まだ食べたりない」という様子のバリズは、私がまだ食べているパフェをジッと見つめていた。

 あまりに物欲しそうな目で見ているので「食べますか?」というと「いいのか!?」と遠慮なく私の分のパフェを食べていた。バリズは味わうというよりは、ひたすらに喉に流し込むような食べ方をしていて「勿体ない」と私は思った。

 そして、私のパフェはあっという間になくなった。

 勘定はバリズが全部払ってくれたので、私が損をした訳ではなかったものの、もう少しゆっくり食べたかったという気持ちは残った。




 ***




「よう、アーサー。今日の面談はもう終わったのか?」


 バリズと一緒に王宮内に入って、今日の面談が終わったアーサーに話しかけた。

 流石に1日中ずっと面談をしていたアーサーは流石に疲れの色が見える。


「ええ、今しがた終わりました」

「どうだった? 他に連れて行けそうなやついたか?」

「いえ……今日は女性の方が多くて……」

「おいおい、アーサー様ともあろう御方が女性蔑視は不味いぜ」


 旅をするのに女性かどうかというのは無関係な事柄のはずだ。差別的な発言ではなく、女性に危険な思いをさせられないという気遣いの可能性もある。

 だが、アーサーの言葉だけ聞けば確かに女性蔑視のようにも聞こえた。


「いや、そうじゃないんです。旅に出る仲間というよりも、私に対する求婚の女性が結構おりまして……」


 確かにアーサーのような美しい容姿をしており、貴族の家の出で、しかも実力も伴っているとあれば引く手あまたというものだろう。

 多くの女性に求められる男の感覚は私には分からなかったので、素直に羨ましいと感じるばかりだ。


「モテ自慢かよ! で? アーサーの嫁さんとして相応しい女はいたのか?」

「ははは、そういう目的の面談ではないですからね。国王様の御前ですので、失礼があれば衛兵に摘まみ出されておりましたよ」


 これだけの好条件男性だ。アーサーを放っておかないのも分かる。

 そういった要素もあって旅に出るのが遅れているのであろう。


「そうか。で、あとどのくらい俺たち待っていればいいんだ? 暫くかかるなら俺たちは観光に出ちまうぜ?」

「そうですね。あと5日、6日くらいかかりそうですので、その間は自由にされていてください」


 爽やかな笑顔でアーサーはそう言った。

 アーサーの笑顔は太陽の陽に眩しい。私と並んで歩いたら、私なんてその辺の何の変哲もない雑草のように存在感がなくなってしまうと感じる。


「俺たちと飯でもどう? 色々話も聞きたいしさ」

「バリズ……アーサーさんは疲れているようですから、休ませて差し上げましょう」

「いえ、私もこれから旅をする方々と話したいですし、1時間程度になってしまいますが、それでもよろしければ」

「じゃあ決定!」


 強引にバリズが決めてしまったが、本当にアーサーはいいのだろうか。ここ数日ずっと応募者のほぼ全員と面談していて相当疲れているはずだ。


「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です。これもありますし」


 アーサーはポケットから何かの液体が入っているガラス瓶を取り出した。中身は薄い透明な緑色の液体だった。少しばかり泡立っている。


「それはなんですか?」

「これは、一時的なドーピング剤です。疲れがとれる飲み物ですよ」

「それ、どこで売ってんの? っていうか美味い?」

「王都ではどこでも売っていますよ。美味しいかどうかは個人の感覚ですが……私は美味しいと思います。少し飲んでみますか?」


 もう1本持っていたようで、アーサーはそれをバリズに手渡す。バリズはフタを開けて見た事のない液体の匂いを嗅いでみたり、瓶をのぞき込んだりしたが、それを一口飲んでみると顔をしかめた。


「なんだよこれ、薬みたいな味……すげー甘いけど、その甘さに隠し切れない薬感がある」


 それ以上バリズがその液体を飲むことはなかった。無言で「もういらない」と私に手渡してくる。渡して来られるまま、私はその得体の知れない液体を受け取った。


「…………」


 私も何でできた液体なのか知りたくなったので、バリズが口をつけていない瓶の面から一口飲んでみた。

 確かにバリズが「薬」と言ったのも頷ける。苦い訳ではないが、わざと甘く味付けされている子供用のシロップの薬のような味がした。アーサーもドーピングと言っていたし、これは娯楽用品ではなく薬に近いのかもしれない。シュワシュワとした不思議な口当たりがして、なんとも形容しがたい。


「これを飲むと一時的に疲労がなくなって、目が冴えて元気になるんです」

「でも、それを飲まないと持たないのであれば、やはり休まれた方が良いのでは……」


 私がアーサーを気遣うと、持っていたドーピングの液体を一気に飲み干した。


「大丈夫です。これを飲むのは慣れっこですので。庶務手続きが終わったら食事に行きましょう。王宮の待合室の方で待っていていただけますか」

「分かった。食いたいものがあれば考えておいてくれよな。俺は何でもいいぜ。王都の食い物は何でも美味いからな」

「分かりました」


 そうして私とバリズはアーサーと一度分かれて、待合室でバリズと話をしていた。

 バリズの故郷の話を聞かせてもらったり、他愛のない話をして時間を潰してアーサーを待つことにした。



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