第3話
「う……う~ん……」
俺は薄ぼんやりとした意識の中、頭に響く激しい痛みに苛まれていた。
「く……っそ……」
本当に最悪だった。
最序盤で経験値の肥やしにされる悪役モブキャラに転生したと思ったら、いきなり追いかけ回され、最後は頭突き攻撃食らって気を失うとか、どんな羞恥プレイだよ。
「はぁ……なんだかなぁ……」
俺は相変わらず朦朧とした意識の中、軽く後頭部をさすりながら目を開けた。
「うん?」
目の前には何もなかった。
ただ真っ暗。
どうやらうつ伏せに倒れているということだけはわかったけど。
暗黒街であっても、多少なりとも差していた日の光すら見えない。
当然、周囲の景色なんかわからないし、空も地面も見えなかった。
「ま……さか……。さっきの頭突きで、失明したのか……?」
俺は最悪の事態を想定して、頭の痛みを忘れるぐらいに血の気が引いていった。
目が見えないとか絶対に嫌なんだけど……?
「く、くそっ」
俺は吐き捨て、立ち上がろうと思って両手を地面についたところでそれに気がついた。
「うん? なんだこれ? なんか、むにゅって柔らかい……あれ?」
そう言えば、地面に倒れているはずなのに、心なしか、なんだか顔が温かくて柔らかい何かに包まれているような?
しかも、右手も左手も妙に弾力があって柔らかい何かをむぎゅむぎゅしているような……?
そこまで考え、俺は勢いよく、がばっと顔を上げた。
「あ……あ~~!」
俺は思わず叫んでしまっていた。
「う、う……ん……?」
「な……に……?」
俺と同じように地面に倒れ、気絶していた少女と金髪くん。
二人は仰向けで横に並ぶようにしてぶっ倒れていたのだが、
「こ、こ、これは……!」
どうやら俺は視力を失ったわけではなく、単純に、魔法少女の胸に顔を埋めていただけらしい。
顔を上げた俺の目の前には、しっかりと暗黒街が顔を覗かせていた。
そして何より、そんなことなどどうでもよくなってしまうぐらい、ショッキングな光景が目の前に展開されていたのである。
「ま、マジかよ……」
思わず絶句してしまう俺。
さっきから両手で握々していたもの。
それは、二人の少女の胸だったのである。
――そう。二人。
魔法少女はいいとしてだ。
ずっと残念イケメン野郎だと思っていた金髪くんの胸鎧が、どうやら、先程すっ転んだ衝撃で壊れてしまったようで、思いっ切り外れていたのである。
しかも、なんか知らないけど、俺がそのぺちゃんこの胸を揉み込んだからなのか、徐々にミシミシ言い出して、気がついたときには服のボタンがぼ~んと弾け飛んで、デカい胸へと急成長していった。
「ま、まさか……お前、女だったのか……? しかも、これ、どう考えたってさらしとか巻いて胸潰していたよな……」
呆然と呟く俺。
しかし、相変わらず彼女たちの胸は触ったまま。
そんな俺の言動で目が覚めたのだろうか。
「……いてて……」
「う、うう~ん。痛いですぅ……」
寝ぼけたような声を出して目を開ける二人。
そして、彼女たち二人に馬乗りになるような形で胸をタッチしていた俺と視線が絡み合う。
彼女たちは徐々に視線を下へと下げていき、自分たちの胸の位置でそれが止まった。
そして次の瞬間。
「きゃぁぁぁ~~~~!」
「ぃやぁぁぁぁ~~~!」
二人して顔を真っ赤にして絶叫するのであった。
――それが合図となった。
いきなり俺の手が青白く光り輝く。
「「あ……あぁぁぁぁああっぁぁ~~!」」
少女二人が急に身もだえし始めた。
「な、なんだ……?」
その光景を見て一人呆然とする俺。
慌てて手を離そうとするのだが、吸い付いたような感じになっていて、まったく引っぺがせなかった。
そして、一際強く光り輝いたときだった。
俺の全身に得も言われぬ強烈な刺激が突き抜けていった。
「ぐおおおおおお~~~~~!」
思わず天に向かって絶叫する。
俺たちの叫びに気付いた貧民街の住民が窓から顔を覗かせていたが、速攻で引っ込んで窓をピシャッと閉じた。
その瞬間、俺の身体中を駆け巡っていた快楽に似た刺激が大きく弾け飛んだ。
俺は呆然とした。
全身に信じられないぐらいの活力が漲っていた。
そして、俺は自分の掌を見つめながら、朧気ながらに理解するのだった。
少女たちからドレインタッチで大量の経験値を吸い取ったのだと。
◇◆◇
「ねぇ、モヒカン」
「誰がモヒカンだ! 俺にはバッコロリー・ジョニー・ギアスという名前がある! まぁ、メチャクチャ気に入らないがな!」
朝の活気に満ちあふれた市場。
様々な露店が建ち並ぶ朝市。
俺は今、そんな場所を歩いていた。
「なんかダサいよね、その名前」
「だよねぇ」
「うるさいよっ」
溜まらず、俺は傍らを歩く少女二人に文句を言った。
――そう。
少女二人。
俺は今、なぜか先日俺をぶちのめそうとしてきた、あの冒険者二人と仲良く市場デートしていたのである。
なんでこんなことになったのか。
そんなこと、俺にだってよくわからない。
――あのあと。
この女の子たちから経験値を吸い上げた後、なんだか知らないけど、二人ともぐったりして動けなくなってしまったのだ。
失神したと言ってもいい。
逆に俺はピンピンしていたんだけどね。
そこから考えるに、どうやら俺のドレインタッチは、吸い取った相手にある種の快楽を与えるみたいで、二人とも天国へと旅立ってしまったらしい。
なので、うっとり顔でぶっ倒れていたというわけである。
まぁ、結果的には戦闘不能になってくれたみたいだし、これで安心して逃げられる、そう思っていたら、急に彼女たちが目覚めたのだ。
そして、そのままのろのろと立ち上がった二人は、どこかぼうっとしたような瞳で俺を見つめてきて、いきなりべったりと張り付いてきたのである。
「なんだか……あなたを見ていると……胸がキュンキュンしてくるの……」
「うん……なんか、変な感じですぅ……あんなに気持ちよかったの初めて……」
そう言って、二人がしなだれかかってきて、俺の両腕ががっつりと、彼女たちのデカい胸に拘束されてしまったのであった。
「い、いや、お前ら、それ錯覚だから!」
しかし、俺の弁明が二人の耳に届くことはなかった。
こうして、おかしな出会い方をした俺たちは、うやむやのうちに一緒に行動することになってしまったのである。
「いや、違うよな? つきまとわれているだけだよね!?」
一人叫ぶが、俺の声は空しく空へと響くだけだった。
◇◆◇
「はぁ……」
あれから既に一週間以上経っている。
逃げても逃げても追いかけてきて、べったり張り付いてくる二人。
市場の店先で色んなことを思い出してげっそりしていると、
「あ、ねぇねぇ! 見て! クリエイトポーション売ってるよ!」
俺の神の手によってすっかり女の子になってしまった元金髪イケメン。彼女がなぜ男のふりしていたのかはよく知らない。
だが、ただ一つ言えることは、今は胸が強調された女戦士の格好していて、俺の服を引っ張っているということだった。
「クリエイト……? あぁ、そういやそんなのもあったよな」
あのゲームには、見た目を変えることのできるアイテムが存在していた。
髪型や髪の色、服の色だけだが、それで皆個性を出そうと努力していた。
どうやら、この世界にもそれがあるらしい。
「ね、ね。モヒカン~。その頭私嫌いだから、アレ使って髪型変えてよっ」
甘えたように言う金髪巨乳美少女。
「うんうん。その方がいいよ~」
魔法少女もどこか潤んだ瞳を向けてくる。
「たくっ……勝手なことばかり言いやがって。だけどまぁ、俺もこの見た目嫌いだし、ま、いっか」
「「そうこなくっちゃ!」」
半ば彼女たちの勢いに押される形となって、俺はポーションを買って頭から振りかけてみた。途端にピカ~~んと光り始める。
このアイテムは自分の理想像を思い描くとその通りの髪型になるという便利アイテムらしい。まさしく散髪屋泣かせ。
俺はメチャかっこいい頭をひたすら想像し、そして――
「きゃぁぁ~! モヒ――じゃなくて、ジョニーかっこいいぃ~~!」
金髪少女と魔法少女は互いに抱き合ってキャッキャし始めた。
俺は店の親父から手鏡を借りて自分の頭を確認する。
「お? おおおお~~~! 誰だこいつ! メチャイケメンじゃん!」
――そう。
本来、ゲーム最序盤でただただプレイヤーキャラにボコられて経験値の糧にされるだけの気色悪くてしょうもない悪役モブキャラ。
そんなクソ野郎に転生してしまった俺は、髪型を変えただけで誰もが認めるイケメンに生まれ変わってしまったのである。
「こいつって……あの残念な部分さえなければ、普通にイケメンな悪役になれたんだな」
俺は誰にも聞こえないようなか細い声でそう呟きながら空を見上げた。
もしかしたらこの世界も悪くないかもしれない。
ゲームではただの傍迷惑なクソスキルだったけど、この世界ではかなりのチートスキル。しかも、よくわからないけど、女の子に使ったらハーレムすら作れるんじゃね?
そんなことを妄想しながら、俺は、明日以降どうやってこの世界で暮らしていこうかと、頭を巡らせるのであった。
ゲーム序盤で経験値の肥やしにされるだけの悪役モブキャラに転生した俺。このままだと冒険者たちの餌になるだけなので、ドレインタッチで逆に吸い取ってやることにしました!(笑 坂咲式音 @szk_siroo
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