3.現れたのは……

 「和也かずやー!」

そこにはいるはずのない僕の同級生、茜坂椿あかさかつばきがいた。

 短髪ショートヘアーの黒髪に、僕と似たような服装をしている。

 看守が去っていったことを確認し、僕は椿に聞く。

 「お前、なんでここに?」

 「なんで、って和也に会うためだよ。」

 はい?僕は理解が及ばなかった。

 「君が捕まる理由なんてないことを証明したかったのに、ポリ公に捕まっちゃって。」

 椿は笑いながらに言った。ますます理解が及ばなくなった。部屋には少しだけ光が差し込んでいた。

 「万引きとかいうヘンな失態で和也が捕まるわけないでしょ。」

 「そういうものなのか?」

 「やらかすなら盛大にやらかしてくれるじゃん?」

 「なんの励ましにもなってないぞー。おーい。」

椿は目を逸らして苦笑いしていた。僕は少し考えて、

「逆に椿が捕まった理由って何なの?」

面に向かって聞いてみた。

 「住居不法侵入罪?だっけか。」

 聞かれても困るのはこっちだ。と思いながらも、

「わりかしヒドい罪だな。はっはっは。」

静かに嘲笑してやった。椿は頬をプクーッと膨らませた。

 「も、もちろん冤罪だからねっ!」

焦って訂正をいれる椿。頬が少しだけ赤くなっている気がする。

 

 しばらく彼女の話を聞くと、僕が知らなかったことが少しだけわかった。

 「捕まった」ということが公には出されていなかったこと、風の噂と虫の知らせで一部の友人に広まったこと。そして一番驚いたこと、それは椿が僕のことを不振に思って、面会を希望したらここに連れてこられたということ。一体どういうことなのか。考えることすらもが嫌になる。

 昼食を椿と一緒に食べているが、今のことで頭がいっぱい。味が脳に刻まれてこない。


 「働け。」

 「はぁ?」「?」

 午後は看守に言われるがまま、作業をする。こういうのって未成年は基本しないものじゃないのか、とは思ったが言わなかった。現実のところは知らんけど。

 いざ作業場に入ると、すでに先客がいた。はんだごてを使って回路基板の作成をしている。慣れた手つき。きっと工学系に詳しいに違いない。

 「こんにちは、お二方。」

 「こんにちは。」「どうも。」

一人の女性がはんだ付けを終え、こちらに向かって話しかけてきた。

 20代後半くらいのスラっとした体格。僕らが着ているものと同じものを着ていて、手入れがよく施された金髪が嫌ほど目立っている。

 すると彼女は頭をに右手をつけ、かわいそうに

「なんでこんな若い子ちゃんたちが、こんなところに連れてこられるの……」

女は言った。

 「あははは……」

椿は愛想笑いをするしか手立てがなかったのか、そうしている。

 女は喉を鳴らし、

「私は水川みなかわサキよ。」

自己紹介をしてくれた。その時、なにやら学校のチャイムと似たようなBGMが流れた。少し経つと、作業場の奥のドアから七人入ってきた。

 「ハイ、みんなちゅうもーく!今日新しくきた二人だよ!」

サキさんが大声で言った。場内によく通る声のあと、

「ほら、自己紹介して。」

とささやいた。

 「西田和也にしだかずやです。よろしくお願いします。」

サキさんの声とは対照的なボリュームで言った。一方の椿は、

 「茜坂椿でーす。よろしくお願いしまーす。」

 うん。軽い。殺されないことを祈ろう。

 「じゃあ、紹介していくね。左の老夫婦は、太郎さんとホシヨさん。あの細い目の人はカクちゃん、男ね。その隣の長身、長尾さん。3K(高学歴・元高収入・高身長)らしいわ。右の長椅子に座っている姉妹は櫻さんと鈴蘭さんよ。そしてこの男、いつもグラサンをかけている怪しいひt」

「怪しくなんかないわっ。」

紺碧アージャニキだよ。」

その言葉を聞いた瞬間、僕ら二人は静かに驚いた。かなり大層な名前だ。“こんぺき”さんならカッコいいけれど。

 「さあ、午後も始めるわよっ。」

サキさんがまた通る声で言うと、各々作業を始めていった。

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ケードロ・ゲーム 紺崎濃霧 @noumu28

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