2.収監

 どこか静けさを増してきた黄昏時、僕は取り調べを受けていた。

 薄暗い部屋。ただ一つだけのランプのともしびが光るだけ。

 「なんでこんなことをしたのかな?」

先ほどの警察官、帽子を脱いで僕に質問をかける。神妙な顔をして聞いてきた。

 「何度も言っているはずです。僕にはやった記憶がありません。」

 「じゃあ、この証拠たちは全部でっちあげとでも言うのかい?」

そう言われちゃキツい。身に覚えのない二つのスナック菓子がこの状況下の中で一番厄介である。

 僕がしていないことは十分には証明できない。認める演技をしたらそっちで罪を食らう。警察官にあきれてもらう他ないと思った。「市販のウソ発見器は使えない物なのか」とも思った。

 この後、30分は取り調べが続いたが、僕は頑なに容疑を否認し続けた。家には帰れないという。「刑務所の飯はどんなものか。不味いのか。」をちょっと楽しみにしていた。

 出てきたのは鯖の塩焼き定食。可もなく不可もない味だった。


 刑務所で越す一晩は長かった。夕食が終わったと同時に黒の長ズボンと半袖ワイシャツを着せられた。よくある白黒ボーダーの囚人服より全然マシでよかった。

 夕食後から就寝までは自由時間だという。まだ甘いほうなのかな?

 適当に入浴を済まそうとして、浴場に向かう。広かった。黒やグレーを基調とした単調な造りで、ホテルの浴場よりかは全然シケていたが、十分特別な感じがした。話のネタが作れたのでそこは良かったと思う。

 体をふき、髪を乾かし、さっぱりしたところで部屋に戻る。

 僕には二人用の部屋が与えられたっぽい。何もしていないのに。

 ただのワンルーム。天井から吊り下げられたランプ、二段ベッドとトイレが備え付けてあった。

 まだ僕一人だけなので、広い思いはできる。見知らぬ罪人と暮らすのは正直かなり抵抗がある。嫌だなー。

 就寝時間の22時頃には周りの音がほぼなくなり、静かな空間が広がった。

 看守が見回りに来る。夜の修学旅行の先生vs生徒をかなりレベルアップした感覚であった。

 僕はすぐ寝た。こんなにも情報量の多い一日は初めて。何があるか分からないものだ、と今更痛感したのであった。

 

 明くる日の午前七時。外は既に日が昇り、周囲の木々は新しい一日の始まりを歓喜していた。

 部屋に明かりが差し込み、僕は起きた。朝食の時刻まで部屋でボーっとする。

 適当に朝食を済ませた後、面会に呼ばれる。

 「まさかアンタがやるとは思わなかった。」

いやいや、やっていないんだが。僕はそう思ったが言わなかった。というか、言っても無駄だ。父親も来ていたが終始黙っていた。

 両親の他に、中学の同級生も来た。

 「俺は信じない。お前がやっていないことは分かっている。」

友人は言ってくれた。僕は何も言わず、ただ泣いてしまった。

 先生も、

「過去は変えられない。未来をしっかり変えていけ。」

とだけ。今までの出来事が笑い話になる日が来ればいいのに。

 正午。一連の面会が終わり、部屋に戻る。しばらく過ごしていると、看守が扉を開けた。僕は前を見上げた。その光景に僕は驚きを隠しきることが出来なかった。


 「和也かずやー!」

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