第51話 デート 茨城春香part 後編
【恭介side】
頬をはたかれた拍子に流れた鼻血がポタッ、ポタッとシーツに落ちて染みを作る様子を、僕は静かに見つめていた。
どうやら僕は初手で失敗したようだ。
今日の小五郎は、小五郎は小五郎でも、眠っていない小五郎だったようだ。
羞恥に顔を真っ赤にした春ねえの右拳からは煌々とした輝きが発せられている気がする、やはり顔を赤らめた冬香は脇に抱えていた枕をむんずと両手に握った。
「ちょ、ちょっと、さくら(※もう春ねえは、ちゃん付けをやめている)! さくらは、どうして子供ができたって思っているの?」
「そうですよ、さくらちゃん。怒りませんから、正直に教えてくれませんか?」
そのさくらちゃんの回答次第では、さくらちゃんは許しても僕は許さないとばかりに、二人が僕の腕をわしっとそれぞれ掴んだ。さくらちゃんは、詰め寄るに人の剣幕に怯むこと無く、ふふん、とばかりに胸を張ってどや顔で答えた。
「女の人と男の人、同じ場所で寝る。こども出来る、聞いた」
「「「 ………… 」」」
そのさくらちゃんの言葉に二人は一瞬キョトンとした後、すぐに二人は顔を見合わせて深く安堵の息を吐いた。
うん、僕も密かに安堵の息をついた。
さすがにそれは無いだろうと思っていたものの、眠っている間の事だから万が一があるかもと思っていた僕も、その言葉でようやく安堵した。
良かった、どうやら僕の罪状は幼女との同衾だけで済みそうだ。
いや、前世だったらそれでも十分過ぎるほどの社会的制裁を受けた事だろうが、この世界ではそれは無視して良いだろう。 なんせ、まだ中学生、13歳だしね。
僕の腕を跡が残る程強く握りしめていた二人からの拘束が大分緩められた所を見ると、僕はどうやら死地を脱したようだ。
「そもそもさくらちゃん。 同じ場所で寝たら子供が出来るなんて話、いったい誰に聞いたんだ?」
そんな俺の疑問に、さくらちゃんは
「……
と答えた。
……ウッシー、恐ろしい奴……。たったそれだけの刷り込みで、漫画の死神キルバーンに謀られた時以上の絶望的な状況に僕を追い込むとは……。
「え、えーと、さくら。あながち間違っている訳じゃないんだけど、ただ一緒に眠るだけじゃあ子供はできないのよ?」
「お姉ちゃんの言うとおりですよ、さくらちゃん。まださくらちゃんは、子供はできていないと思いますよ」
ようやく俺への疑念が晴れた様子の春ねえと冬香が、まるで背伸びする子供をあやすかのように、さくらちゃんに言葉を投げかける。
その言葉にショックを受けたのは、今度はさくらちゃんのようだった。
びっくりしたような顔をして、二人を見つめ返している。
「わからない。こども、どうしたら、出来るの?」
首をこてんと傾げて、邪気のない顔で二人に対してそう問いかけるさくらちゃん。
「え!? ……そ、それはちょっと、む、難しい質問ね。ね、ねえ冬香ちゃん?」
「は、はい。わ、私も、それはちょっと存じ上げないというか……なんと言うか……」
先ほどのお姉さんぶった所作から一転して、途端に顔を真っ赤にしてモジモジと挙動不審になる二人があまりに可愛いくて、よしたらいいのに僕もその会話の輪に加わる。
「……おしえて。春香お姉ちゃん。冬香ちゃん」
と、無邪気にキラキラした目で二人に問いかけるさくらちゃん。
「僕も知りたいなー。教えてよ、春ねえ、冬香」
と、やはりその隣で無邪気にキラキラした目で二人に問いかける僕。
次の瞬間、羞恥で顔を真っ赤にした二人から僕は再び頬を右に左にと、張られる羽目になった。
……うん、口は災いのもとだな。もういらんことを言うのはやめておこう、と僕は心に誓った。
結局この後、
『子供は、コウノトリという名の鳥が首にかけた風呂敷に包んで運んでくる』
と僕がさくらちゃんに説明する事で当座を凌いだ。
春ねえも冬香も僕のその説明に頭に疑問符をいくつも浮かべていた様子だったが、これ以上話をややこしくするのを避ける事を優先したのか、特に突っ込んでくる事も無かった。
結局、この日の春ねえとのデートは流れてしまい、後日、あらためてデートすることに成ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます