第50話 デート 茨城春香part 前編

【春香side】


  弟くん。 あなたは恭介は忘れたかしら。

  私たち姉妹と弟くんの出合いを……

  ある日、突然にお母さんが弟くんを連れて来た。

  弟くんのお母さんは、私のお母さんのお姉さん。

  つまり私と弟くんは従姉弟だった。

  弟くんの両親は遠い国に行っているらしく、弟くんだけが日本の私の家に住む為に帰って来たらしかった。


  妹の冬香は、小さかったこともあり、新しいお兄ちゃんが出来たと喜んでいたけど……私は反発した。

  お母さんっ子だった私は弟くんに、お母さんを取られた気がしたのだ。


  さみしそうにしていた弟くんに優しくしているお母さんに反発した私は家出をしてしまった。


  知らない町、知らない公園隣町の公園だったでブランコに揺られながら泣いていた私。


  クゥゥー、お腹が鳴った。


「お母さんのバカ……お腹が減ったなぁ~ 」


  何も考えないで家出した為にポケットには、10円玉が数枚あるのみ。

  これでは、お菓子さえ買えない……

  落ち込んでいる私を見つけたのは弟くんだった。


「お姉ちゃん、見つけた……」


  意地に成って無視しようとした私に差し出した弟くんの手には大福餅があった。

  子供だった私は食欲に負けて、弟くんの手にあった大福餅をペロリと食べてしまったのだ。

 

「もしかして、魔法で出したの ? 」


  その頃の私は、お父さんのアニメDVDを見ていた影響からか、弟くんが手から和菓子を出す魔法を使ったと思ってしまった。


「違うよ、お姉ちゃん。

  僕のオヤツを持ってきただけだよ 」


  ハニカミながら笑う弟くんにドキドキした。

  そう、私の初恋は弟くんに成ってしまっていた。


 ◇◇◇


  今日は弟くんとのデート、ついつい昔のことを思い出しながら弟くんの部屋をノックしたが……返事が無い。


  静かにドアを開けると、お布団が膨らんでいる。

  しょうがないなぁ~、と思いながらお布団をめくると弟くんと一緒にお隣のさくらちゃんが寝ていた。


 ピキッ 💢

 

 さくらちゃんが弟くんの布団に潜り込むのは、これが初めてではないのだけど……弟くんを抱きしめているのを見た途端、


「二人とも起きなさい !」


 寝具を剥ぎ取り、有無を言わさぬまま二人並んで固い床の上に正座を強制した。

 さくらちゃんの幼児体型、ヒョウ柄のビキニのような露出の多い服を纏った10歳ぐらいの幼女にしか見えないけど、そんな弟くんとさくらちゃんが、同じ布団の中で抱き合って寝ている所を目撃してしまった。


「……それで、何か申し開きはあるのかしら、弟くん?」


「い、いや、だから言っているじゃないか。さくらちゃんが僕の布団に潜り込んでくる事は、昔からよくあった事で何も特別な事じゃないんだよ、春ねえも知っているでしょう !」


 弟くんの弁解を聞いた後に、さくらちゃんにも理由を聞いた。


「もう、中学生なんだから自覚を持って欲しいわ、さくらちゃん。

 いつまでも子供じゃ無いのよ。

 さくらちゃんも困るでしょう、変な噂とかが広がったら ! 」


「ん、……ちがうよ。ボク、お兄ちゃん恭介のこども、ほしかった」


 


「「「はあッ!?」」」



 私達に等しく衝撃が走った。それは、私が想像だにしていなかった答えだった。弟くんは大きく目を見開き、口に手を当てて固まってしまっている。


 


「ちょっ、さくらちゃん? な、何を言っている――」


 


 狼狽えながらも発した弟くんの言葉を遮るように、さくらちゃんが


「お兄ちゃん、好き。こども、欲しい」


 と続けて更に爆弾を落とす。



 あっけらかんとした態度のさくらちゃんを弟くんが唖然として見つめている。


「さくらちゃんはまだ子供じゃないですか。子供なんて、まだ早いですよ」


 いつの間にか部屋に入って来た冬香が反応していた。


 そのごく当然の反応に、さくらちゃんは更に燃料を投下した。


 「ん……、はやくない。お兄ちゃんとのこども、出来たよ」


 と、正座をした状態で心なしか胸を張るようにどや顔を決めるさくらちゃん。


 


「「「はあッ!!?」」」


 そのさくらちゃんの放った核爆弾のような言葉に、弟くんばかりか再びフリーズを起こす私と冬香ちゃん。しかし、すぐに再起動した弟くんが ガバッと振り返り、



「よし、ちょっと落ち着こう、二人とも。いくら何でもそれはない。ほら、証拠もここにあるだろう?」


 


 弟くんは正座の姿勢を崩し、背後の寝具をめくり、その白いシーツに何も汚れも付着していない事実を示す事で、身の潔白を訴えた。


 弟くんが何を言わんとしているかを理解して、私と冬香ちゃんも身を乗り出すようにしてその真っ白なシーツを見つめ、そっと頷いた。


 

「た、確かにそうね。その……汚れはついていないし」


「そう……ですね。いくら何でもさくらちゃんは初めてでしょうし」


 弟くんが分かってくれたか、とホッと息を吐くのと、私と冬香ちゃんが、


「「何を言わせるのよ(んですか)!?」」


 と言う罵声と共に両頬をはたいたのは同時だった。



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