第10話 死にたい

どんな強い睡眠導入剤を処方されたのだろうか。

服薬して、1時間もすれば気を失ったように眠ってしまう。怖いぐらいだが、助かった。

・大丈夫なの?その薬・

コロリと眠りに落ちる光を見かねたように、ある日【声】が話しかけてきた。

あんなに沢山話していたのに、今は、ぽつりぽつりと会話するだけになってしまった。

・大丈夫かどうかはわからないけど、眠れるのは助かってるよ・

光が答える。

・でも、前みたいに元気じゃない・

【声】の言葉に光も同意見だ。

眠れるかわりに、そのあと起きてからも倦怠感があり、再び寝てしまうこともよくある。

おかげで、余計なことを考えないで済むと思ったらそうでもない。眠りすぎると罪悪感のようなものが湧く。

眠ってるだけ。食事はするが、入浴も億劫だ。いつの間にか、ハマってた牧場ゲームも途中で止めたまんまだ。

生産性がない。とでも言うのだろうか。

生きているだけ。とも言えるだろう。

抗不安薬は、あまり効果を感じることができなかった。最初は、少ない量からと言われたのだが足りないのだろうか?


不意に、ざあっと音をたてるように不安が押し寄せる。

・もういやだよ・

光は、【声】に呼びかける。

【声】がすぐに答えた。

・どうしたの?最近あまり話さないし・

話さないのはそっちではないか。と言いたいところだが、光が【声】に言った言葉は、別の言葉だった。

・死にたい・

その言葉に光は自分で驚く。

何を言っているのだ。

考えてもいなかったはずだ。

思いもよらなかった言葉に【声】が言った。


・わかる・


その言葉にも驚いた。

そして、思った。

私が死ねば、【声】も死ぬのだろうか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る