第8話 林檎

眠れなかった。

早朝、5時。

光は、3日ほど前から寝付きが悪くあまり眠れていない。

ぼんやりとしたまま、なんとなく空腹になりキッチンに行った。母親は、まだ眠っている。もうしばらく経てば、母親は仕事に行くために起きる。苦労してると思う。

自殺を図った娘。学校に行けない娘。将来どうなるかわからない娘。

食器を洗ったり洗濯をしたりはするが、良い娘になれないでいることに申し訳なさがある。

記憶がない期間のせいで、光には母親に対して少しぎこちなさもある。

親が子を育てるのは、義務であるがお世話になっているという気がしてならない。


テーブルの上にリンゴが3つカゴに入っていた。

ひとつもらうか。

光は、リンゴを洗ったあとシンクの下の扉を開ける。包丁を収納するスペースがある。

が、包丁は1本も入ってなかった。

洗った食器が入ってるカゴを覗く。

ない。

そして、やっとわかった。

包丁が隠されている。

また、自殺を図らないように母親は、どこかに包丁を隠してしまったのだ。


「そんなことしなくてもやらないのに……」

光は、仕方なくそのままリンゴをかじった。

思ったより甘い。

外が明るくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る