第3話 【声】

夢を見ていたはずなのに、少しも思い出せない。

それどころか、ここがどこなのかさえもわからない。

でも、これは……多分、病院だ。

無機質な白い天井が見える。そして、薄ピンク色のカーテン、点滴のパック。

こんな光景は、映画かなんかで見た気がする。

首を少し動かしてみる。

なんで病院にいるんだろう?

そして、左腕の違和感に気づいた。

厚めの包帯が巻いてある。なんだか、しくしくと痛む気がするのは気のせいなのか。

喉がカラカラだ。

何も思い出せない。

不安になってきた。


・ひかり・

頭の中に自分じゃない声が響き、驚いてヒュッと息を飲む。

・起きたね・

誰かが話しかけたのかと一瞬思うが、耳から聞こえたのではない。

「なに……なにこれ……」

喉がカラカラだ。

何も思い出せない。

さらに不安が加速する。


・ひかり・

「はい……」

あちこちに視線をはわせ、光は返事をした。

・頭の中で話ができる。呼びかけるだけでいい・


呼びかける……?

・名前はないから……【声】でいい・

・【声】……?・

・そうそう・

どうやら、できたようだ。

【声】が言う。

・そんな感じで話せばいいの・


光は、幻聴だと思った。

幻聴とは、こんなにハッキリと頭の中に響くものなのだろうか?


・あなたは誰なの?・

光は話しかける。

しばらく間があき、止んだのかと思った時、【声】が答えた。

・私は・

・気づいたら、ひかりの中にいた・


ひとりでいるのに、まるでひとりじゃないような不思議な感覚だった。





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