第33話 思い出の場所
※
初めてここを見つけたのは小学校二年生くらいの時だった。
舞花や
そんな時に見つけたのがこの場所だ。
誰が所有している物件なのかはわからない。
でも、人が住むには狭い、でも子供が数人集まれるくらいのスペースがあって、俺たちはここを勝手に借りて、秘密基地と称して集まるようになったのだ。
「まだ……残ってたんだね」
「入れそう?」
扉を開くと、当時のままの光景が広がっていて、時間が止まってしまったような錯覚に陥る。
「すごい……ねえ、優雅……何も変わってないみたい」
舞花は目を輝かせて、無邪気に笑っている。
そんな彼女を見て――俺はまだ小さかった時の舞花を思い出してしまった。
「本当に、あの頃のままだな」
ここには色々な思い出が詰まっている。
置かれている物は、自分たちの家から持ってきたものや、その辺りに捨てられていた物だった。
ソファや椅子なんかも含めて全部そうだ。
「なんか、思っていたよりも綺麗じゃない?」
「そう、だな。
もしかして、誰か定期的に来てたのか?」
長年使っていない割には埃もほとんどない。
まるで綺麗に掃除されているようだった。
「とりあえず……座るか?」
言いながら、俺はソファに腰を下ろした。
なぜか遠慮するように、少し俺と距離を置いて舞花が隣に座る。
さっきのことがあって、まだ気恥ずかしいのかもしれない。
「ほんと……懐かしいな」
ソファから室内を見回しながら、俺は独り言のように呟いてしまう。
「あの頃は、楽しかったよね」
「そうだな」
今だって、楽しいことはある。
舞花も勿論、それは同じだろう。
だけど、あの頃のほうが楽しいと思えることがあったのも間違いない。
子供の頃は全てが新鮮だったからこそ、難しいことは考えず純粋に楽しめたのかもしれない。
「不思議なもんだよな。
たった数年で色々と変わっちゃうんだからさ」
「……何も、変わらなければよかったのにな」
その舞花の言葉には、色々な想いが含まれている気がした。
「ねぇ、今とあの頃……優雅はどっちが楽しかった?」
「……どうなんだろうな。
あの頃と今じゃ、楽しさの質が違う気はする。
でも純粋に楽しめたのは、子供の頃かな」
「そうだよね。
今みたいに……迷うことも、悩むこともなかったもん」
言って舞花は、バタッ――と、ソファに首をもたれさせた。
「何も考えずに、楽しいことだけして、生きていけたらいいのにな」
「でも……できない、よね」
それは、当然俺も舞花もわかっていることだ。
「大人になるつれ責任が増えていく。
自分の人生に責任を持てるのも自分だけ――だから、迷ったり考えたりして、生きていかなくちゃいけない」
「……優雅は、大人だね。
なんか、置いて行かれちゃうみたいで……やだ」
「そんな、我がまま言うなって」
「置いて行かないって、言ってくれないの?」
舞花は身体を起こすと、窺うような上目遣いで俺を見た。
「舞花なら大丈夫だよ。
俺がいなくてもさ……」
「大丈夫じゃない。
優雅が傍にいてくれないと、私……全然大丈夫じゃないから」
「我がままなのは変わらないな」
「そういう風にしたのは、優雅だから」
確かに、そうかもしれない。
でも、あの頃の舞花は放っておけなかった。
それだけの理由があった。
「ああ……そっか。
わかった気がする」
「うん?」
「多分、ね。
……私、寂しくなったんだと思う」
「寂しく?」
「ワーズが解散しちゃったら、何か変わっちゃう気がしたから」
ゆっくりと、自分の考えを整理しながら舞花は話し始めた。
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