第32話 舞花の想い②

 俺の想いを感じ取るように、次第に舞花も落ち着きを取り戻していった。

 それから呼吸が整うまでの間、無言の時間が流れて……。


「……自由みゆも相楽も心配してたぞ?」


 とりあえず二人には、舞花を捕まえたと連絡しておく。


「ごめん……」


 心配させたことに関しては、申し訳ないと思ったのか舞花は殊勝に謝った。


「それで、なんであんなに怒ってたんだ?」


「わかんない……」


 俺が聞くと舞花はいじけた子供のようにぽつりと呟いた。


「わかんないって……」


「いや、わかってるんだけど、自分でも上手く言葉で説明できないから……だからわかんないの!」


 呆れたように頭を抱える俺を見て、舞花はムキになって反論する。


「なら、わからないなりに話してみてくれ。

 そうじゃないと、俺もどうしたらいいかわからないだろ?」


「……それは……そうだけど……」


「ゆっくりでいいから、話してみてくれないか?」


 あの時、なんで舞花があんなに怒った……いや、悲しそうだったのか。

 その気持ちを少しでも理解したい。

 自分の想いを言葉にするのは難しいことだと思うけど、それが出来れば舞花も自身の考えを整理することもできるだろう。


「上手く話せなくても、いい?」


 心細そうな声で尋ねながら、舞花は窺うような上目遣いを俺に向けた。


「ああ、それでもいい」


「話せるようになるまで、時間が掛かるかもしれなくても?」


「今日は休日なんだ。

 時間なんていくらでもあるだろ?」


「……わかった。

 なら……がんばってみる」


「ああ。

 でもその前に……場所、移動するか」


 人通りが多い場所でないのは幸いだったが、道端でこれ以上、話し続けるのもよくないだろう。


自由みゆの家に戻る、か?」


「今は……二人だけのほうがいい」


「わかった。

 なら……」


 場所をどうするか――と、考えていた時に一つ候補が浮かんだ。

 それは多分、さっき昔のことを思い浮かべたからだろう。


「久しぶりに秘密基地――行ってみるか?」


 俺の提案が予想外だったのか、舞花は目を丸めたあとに、これから楽しいことを始めるような子供みたいな無邪気な笑顔を俺に見せたのだった。

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