第27話 湿布と砕ける腰

 フレイム・プラントを倒したが、あたりにはそれらしい薬草や苔などはなかった。

 ユウは、倒した植物を調査している……。

「うーん。なんか薬草やそれらしい苔も無いですね。種子も飛ばさなかったし……」


「ただの前座って訳か……。って、おいあれ見ろよ、今度はそれっぽい植物らしいな」

 ブチョウは、先の方を指さして言っている。


「なんか、通路が完全にふさがっていますね。それと今までのような壁ではなく、ここから先は完全に洞窟ですね、岩肌も見えてます……」

 警戒しながら岩肌の方によって、巨大植物から見えぬような位置に陣取った。

 見えぬ……という表現が適切かどうかは分からないが、花弁の中心には目のようなものがあり、ゆっくりとあたりを窺っていることから、そういうことなのだろうな……と思ってしまった。


「しかし、まぁ植物にしてはでか過ぎだな……。2mはある通路に1輪のクソでかい花が咲いているだけじゃねーか」

 すると、ブチョウはそう言いながら壁際からジリジリと距離を詰めていく。


「わたしちょっと休憩しないと魔法打てないみたい……、ちょっとブチョウを攻撃し過ぎたかも……」

 ミーナはそういうと、後ろの方で座り込んでいる。

 たしかに、彼女のMPは『もう一歩』となっている……というか余計な事に使わないでほしい。


「とりあえず、盾を構えながら近づいてみてはどうです? 一応サポートできるよう事前に盾に細工はしておきました。目が潰されそうに……そう、スリットを種子が通過すると反応し、ちゃんと目を防いでくれる機構を追加しておました。」

 そういって、ブチョウに提案した。


「おっ。やるじゃないかシン! これで安全だな!」

 背中にある盾を左腕に装着していく。

 盾は、ベルトで腕に固定し、左手でグリップを持ち、構えると左側面の上側にシャッター、つまりスリットがくるようになっており、対象を確認しながら近づけるようになっているのだ。


「さすがの自分も少し熟練度が上がりある程度は耐えられるようになってきたのと、これの機構はリソース消費が少ないので大丈夫です。安心して突っ込んできてください」

 そういって、親指を立ててブチョウを応援した。


「よしわかった。ちょっとシャッター開けて、行ってみるわ」

 シャッターを開け閉めさせてスリットを確認しているブチョウ。


「何かあったら、サポートしてくれよシン。ユウも回復できるよう頼むわ」

 ブチョウはそう言うと、ユウは暗い表情で静かに頷き、地面にピンを刺すと、ゴルフボールを乗せた。


「ちっょとまて、ユウの行動の意味が分からない!! そのボールで俺を殺す気か!?」

 ブチョウは彼女らがカチョウと会ったことを知らない……。


「回復……遠距離回復……遠距離回復魔法なんだよぉぉぉぉ! かわいくない……かわいくない……」

 うつむいたまま暗い表情で錯乱しているユウ。


「なんでもその玉に魔法が乗るので、それで回復するらしいですよ……し、死なないといいですね!」

 俺はブチョウから不意に視線を不意にそらした。


「おい、大丈夫なんだろうなこれ! 大丈夫なんだろうなこれ!」

 ブチョウは慌てながら大事なことなので強調するように2回言った。


「とりあえず、サポートはばっちりです。さぁ、死んだと思ってどうぞ」

 ブチョウの背中を押して、敵の方へと押していく。


「くっ。なんか縁起でもないなぁ……」

 そういって、奥へてジリジリと歩き出した。

 そして、ブチョウは盾のシャッターをスライドさせ、スリットを再び確認すると盾を構えた。

 盾は左腕に固定されており、右手には逆手で持ったバット。一応即座に全体重を乗せて攻撃できるという訳だ。あくまで攻撃が通じればの話だが……。


 近づきながらスリット越しに対象植物をみる。植物からはコキコキという何か硬いものがぶつかる音が聞こえてきた。


 ジリジリと近づくブチョウ――足元にある石と石が擦れ音が鳴った――


 ――すると次の瞬間、そり物体はブチョウをめがけ発射された。


 異変に即座に気付いた、発射されるや否や、ブチョウは横に飛びその種子をかわした。だが、それもつかの間、慣れない動きをしたため腰に激痛が走った。


「くっ、こんな時に腰痛が……!」

 そういって、スリット越しにその植物を見た瞬間であった。種子がそのスリットギリギリまで迫っていた――そして


「ぎゃあぁぁぁ目がァ! 目に冷たい湿布がァ!!」

 ごろごろと転げまわるブチョウ。


「名付けて、自動湿布パッチ・オブ・オートメーション、対象の目を冷たい湿布でやさしく保護するぜ……!」

 眼鏡をくいッと上げると人差し指でブチョウの方を指さし、ポーズをとった。


「『するぜ……』じゃないだろ!! いきなりびっくりしたわ!!」

 ブチョウは湿布を引きはがすと、地面に叩き付けた。


「だめでしたか……、ちょっとカッコつけたかったんですよ」


「あっ。ブチョウ危ない後ろ!!」

 ユウがとっさに声を上げ、クラブを構える。


 植物の触手がブチョウを襲う――


 ――ピシっ! ピシっ!!


 って、それほど痛く……


「危ないブチョウ! ヒィィィィル・スウィング!!!」


 ――ドゴォン!!! パアァァァン!!

 ブチョウの腰にクリーンヒットした。


「ぐっはあぁぁあああァ!」

 腰を抑えながら悶絶するブチョウ、身体がピーンとなって硬直し、プルプルと震えはじめると、息絶えた――そして、ブチョウの遺骸は緑色に光った、と同時に、後ろのスポーン地点からブチョウがスポーンした。


「ちょ、ちょっとユウ君……。フルパワーでぶち当てたらおじさん昇天しちゃうから……、次は少し優し目でお願いします……じゃないと命いくつあっても足りないから……」

 そういって、腰を抑えながらトボトボ歩いてきた。


「ごめんなさいブチョウ、つい力が入り過ぎちゃって……」

 そう言ってユウはうっすら涙を浮かべ、上目づかいでブチョウに謝った。


「大丈夫! 大丈夫だよ! ユウ君の放つ玉ならオジサンちゃんと受け止めて見せるさ!!」

 ブチョウは立ち直った。相変わらずちょろい。


「しかし、あれですね。ユウの遠距離回復は、仮に回復自体で全回復するとしても、まず玉のダメージを食らってから回復するから、その玉に耐えられる体づくりをしないとダメですね」

 ユウの回復を分析していた。


「玉を受ける体力づくりが前提なのがちょっと辛いところだな……」

 ブチョウは首を左右に振っていた。


 後ろで休憩しているミーナは一連の流れを観察していたが、改めて近づくことが無理なのが分かってきた。ブチョウのリーチより、触手の方がリーチが長い。仮に近づいて叩くことができても叩くという行為が、あの巨大植物に効くかどうかも怪しい。


 ミーナが立ち上がった。

「ユウ……。あれを試してみて……」


「や……、やるの? あれを……」

 ユウはピンを地面に立ててゴルフボールを乗せた。


「ユウ、ちょっとまって、念のためアナライズしてみるから回復し続けて」

 そう言うと左手を対象に向けた。


「わかった、ちょっとまってて」

 そういうとユウは背中に手を当てて、詠唱した。


 ――シングル・アナライズ


「――。わかった、弱点と行動パターンが――」


 対象の弱点は属性は火、目が弱点である。ある距離まで、近づくと危険を察知するのか触手を出して対象を弱点から遠ざけるよう引き離し、種子をとばして攻撃するらしい。その弱点である目で遠距離攻撃を確認すると、触手を張り巡らせ防御する、駆除するのが厄介なのはそういうことなのである。


「対象の触手防御は俺が防ごう……、ユウは例の攻撃で対象の目を狙ってほしい……、ミーナは、念のため俺の合図で、対象からの少し手前、あの位置にこちらが上になるよう斜めに氷の板を出してほしい」


 ユウはこくりと小さく頷くとクラブを持った。

「わかった。やってみるね」


 ミーナもページを破って準備をしている。

「わかったわ、合図と同時に発動させればいいのね」


「じゃあ、いくぞ……、目の位置は固定されている。ユウは目に向けて放ってくれ」

 そういって、ポケットに忍ばせておいたいくつもの小さな鉄球……、パチンコ玉のようなものを手いっぱいに掴むと、それを対象に投げた。


 対象は防御行動へと移ろうとしている。


「チェンジID スプレー・オイル アンド ワイヤーネット」


 小さな鉄球は短時間ではあるが可燃性オイルへと変化し、植物を可燃性オイルで包み

 鋼線の網が弱点に集まろうとする触手を阻む


 ユウがスウィングの姿勢に入る。


「ファィヤー・ショット!!」

 ――詠唱と同時にスウィングを開始、対象の目に向かって放つ――


 それは高温のためか青く発光する弾丸となって対象の目に到達しようとする。


「いまだ!」

 おれはそう叫ぶとミーナが用意してあったいくつものページを投げた。


「アイス・ウォール!!」

 ミーナの放ったページは対象の手前斜めに刺さり、それは氷壁を形成し――そして、そのままユウの放った玉は防御しようとする触手を無視し、対象の目へと着弾した。


 ――ピギャァアァァァ!

 声帯などないであろう植物から叫び声のようなものが発せられた。


 可燃性オイルが勢いよく炎上し、植物を包み込む。

 同時にピキピキと乾いた音があたりに響き、そして――


 ――パァン!


 種子がはじけた。それは子孫繁栄のためであろうか。360度全方位に散弾のごとく勢いよく射出される。威力は洞窟の硬い岩壁に数センチめり込みヒビを残すほどであり、生身の身体で受けると間違いなく致命傷になるレベルである。

 氷壁はその威力を受け流すよう斜めに作っており、その後ろに居る我々はなんとか難を逃れた。


「あぶなかった……、この手のやつは最後になにかやらかすとは思っていたが、これほどとは……」


「シンの助言がなかったら全滅してたわね……」

 ミーナはそういって辺りを見回していると横たわるブチョウが視界に入っていたが、敢えて見なかったことにした。


 ――――

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