第28話 卵フルスイング

 無事に、巨大植物を倒し、その強烈に最後の攻撃をかわした一行。

 ブチョウはスポーン地点から復活した。


「ちょ、なんで俺だけ……」


 ブチョウは落胆していた。せっかく買った盾が実戦では結構重く、些か使い勝手が悪かったのである。シンたちが戦っているなか、盾を脱ぎ地面に叩き付け、急いで氷壁の内側に入ろうとした時、事もあろうに置き去りにした盾が種子を反射し、弱点である腰と松明に直撃しバラバラになったのである。


「盾の呪いかな」

 ぽつりと言った。


「ものを粗末にするからですよ。しかし、この盾意外と頑丈ですね……あの攻撃食らってもバラバラにならないんですから……」

 ユウは盾を手に取り、ブチョウに渡した。


 松明は粉砕されてしてしまったため仕方なく、その盾を使うことにした。

 パチパチと燃えさかる盾、それを左腕だとやけどしそうなので、仕方なく左手で盾を遠ざけるようにして持つブチョウ。

「あつ……、あ、熱いんですけどミーナさん……、か、髪が……髪が燃えそうなほど火力が強いんですけど……」


「ブチョウが選んだんだから、文句言わず責任持って最後まで使い切ってあげなさい。また中途半端で投げ出すと呪われるわよ」


 ――――

 ――


 倒した地点からは更に奥へと続く洞穴が続いており、脇道などはなかった。

 燃えさかるブチョウを先頭に、狭い洞穴を抜けると、少し広い空間が広がった。その場所は40m四方の程よい地底湖と、それを囲むように青々と茂る草が群生しており、地底湖の底には苔のようなものが生え、それはうっすらと水色に光っており、それはそれは幻想的であった。


「どうやらここで合っているみたいですね……」


 そういって辺りを見回すと、屋根の付いた小さな薪置き場があった。側にはたき火の後がもあり、休憩場所として使用していたようであった。天井はかなり高く、穴みたいなのがうっすら見えるとおもうと、盾松明の煙はそこへと吸い込まれていった。


「今日はここで休憩しますか……なんだか、緊張して余計に疲れましたよ」

 水が染みこまない様加工されている布地を地面に広げていき、岩と薪を利用して椅子を作っていく。


「さっきの所とは違って、ここならゆっくり休めそうね」

 そういって、座り込むミーナとユウは全員分のパンと干し肉、ミルクで固めたバターを取り出した。

「でもこれだけじゃちょっと物足りない気がするよね……」

 そういって、ユウは口に手を当て考えている。


「とはいえ、それほど長持ちする食べ物は持って行けないですからね……、現地調達といってもある程度知識が……、って、そういや調べられましたね……俺は」


 と、そんな空気を破るようにブチョウが、立ち上がった。

「じゃじゃーん。実はそう思って実はいいもの用意してあるんだよ」

 いつになく得意げなブチョウ。大体こういうテンションのときのブチョウは危険なことしかしてこない。

 ブチョウのぞく全員は嫌な予感を感じた。


「実は、この食料専用袋に入れておいたんだよ……」

 ブチョウはそっと道具袋に手をかけた……。


ブチョウはちらりとこっちを見るなり言った。

「言っておくけどチーズとかではないぞ」


 ――ブンッ


 という、音と共に一瞬なにか虫のような物が見えたようであった。

 飛蚊症でもないのに。


 そのあと立て続けに『何か』が横切った。

 幻覚でもない、飛蚊症でもないリアルがそこにはあった。


「ぶ、ブチョウ!! ちょ、それを閉じて下さい」

 とっさに叫んではいたが、あまりの出来なので思考が追いつかず、固まってしまった。


 老眼なのかボケているのか解らないが、かつての何かを彷彿させんとする雰囲気から『どす黒い何か』を取り出そうとしてる。

 ブチョウは袋に手を入れてはいるが、這いずる何かと飛び出す何かに気づき、とっさに手を袋から抜いた。


 その異変に気付いたミーナはとっさにブチョウからその袋を奪うと、無言で投げつける様に薪にくべた。


 ――バサッ……ボウッ


 ……ジ……ジュウ……


[ミーナは熟練度が上がった]


「ワシの『ゴブリロッツォ・マオット』があああアァァ!!」

 叫ぶブチョウ。


「なんすかその食い物……」

 シンの顔は暗い。


「村で買ってきたんだよ。なんかこう表面に幾つも白いつぶつぶが付いていて、さわるとモチモチしているまんじゅうみたいな食べ物で結構好きだったんだがなぁ……、やっぱりダメだったか」

 得意げに身振り手振りで説明するブチョウをよそに『一応』訊いてみた。

「一応……、ほんと一応……訊きますが、いったい何がダメだったんですか……」


「いやさ、店長がさ、『消費期限は〈常温になる前に急いで食べろ〉だから注意しろよな』って言ってたんだよ……。店主はそれ以外何も言ってなかったけど、食べた当時はクリーミーで美味しかったなぁ……」


「それってもしかして……」

 ユウは青い表情でプルプルと震えている。


「少しくらいイケると思って袋に入れて置いたんだけど、やはり排水ドレーン付きの冷蔵袋にするべきだったか……」


「どういう道具袋ですか……、というか、たぶんそれ、何かの卵か卵の集合体だったんじゃないですかね……、それも飛ぶヤツの……」

 少し引きつった表情でブチョウから距離を取った。


「冷たい時は美味しかったんだよ?」

 ブチョウを目をぱちくりさせ下から可愛くのぞき込んできた。


「いや、そう可愛い顔して顔をのぞき込まれても……」


 横からミーナの指示でユウのフルスウィング・ヒールが飛んできたと同時にブチョウが吹き飛び視界から消えた。


 ――ズバーン!

「マゴッ!!」

 ……パアァァ(回復音)……


 ――――

 ――

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