第26話 演出と兵器

 洞窟に潜って、暫くしたころ……。

「意外と快適ですよね。心地よい今度って言うんですかね。寒すぎず暑すぎず」


 パチパチと音を立て燃えさかる松明。

「ちょっとその辺で休憩しますか……」

 ちょっと広めの小部屋みたいな場所に出たので、状況分析も兼ねて休憩することにした。


 あたりを見渡しながら状況を確認している。

「なんか想像していた洞窟とかなり違うんね……洞窟っていうと鍾乳石と複雑で入り組んだ地形、全身水に浸かるような通路、そういうのを想像していたんだけど、なんというかその……。

 ただの巨大迷路よね。しかもご丁寧に薬草までの最短ルートが記されてる……」


 ユウはそう言うと看板を指さした。

「そして、壁に掘ってあるのよ、矢印が……!」


 座っているブチョウが顔の前で手を組み、こちらを睨み付けた……。

「だが、その矢印が正しいという証明はできるのかね。ユウ君……」


「村の人が迷わないようになってるんだから、それしかないでしょ!!!」

 ミーナが切れた。


 ――ッバゴーン!!

 雷の玉はブチョウの頬をかすめ、背後から忍び寄る謎のモンスターは消滅した!

[ミーナはいかがわしい敵を倒した!]


「ひぃぃぃ……!」

 引きつった表情で後ろを振り返るブチョウ。


「ったくもう、松明の煙で敵が感づいてきたみたいだから、寄り道せずとっとと進みましょ」

 ミーナはそう言って尻の砂を両手で叩くと立ち上がった。


「はぁ!?バカいってんじゃねぇ!! RPGの洞窟ってのはな、目的地まで最速で進んでしまったら、お宝見逃しちまうんだよ!! だから敢えて不正解ゾーンを進む。それが醍醐味ってもんだろ。それと、宝箱あったらドキドキするだろ。何が入ってるんだろうなぁ……って、強い武器あるかなぁ……って、そういう期待と希望に満ちているんだよ。不正解ルートってヤツはな!」

 ブチョウもゲーマーである。ダンジョンと言えばしらみつぶしに探索するタイプである。


「まぁ、そりゃそうですけど、今の我々の目標は薬草周辺の草退治ですよ。あとは、道具屋さんのペンダント探しですが……、探索自体は後でいいんじゃなですか?」

 そう言って、ブチョウに提案した。


「今行かなかったら、後で来るとき面倒だし、忘れてしまうだろ。まぁ……とりあえず、いろいろみて回ろうや」

 そういって、不正解ルートを進み始めるブチョウ。

「って、おっ?! 宝箱があるじゃないか!」


 その部屋は貯蔵庫なのか幾つか宝箱があった。


「あっ。ちょっとブチョウ! せめて開けるときは警戒して慎重に開けてくださいよ!」


 なんの躊躇いなしに宝箱を開けたブチョウ。

 すると、目の前にメッセージウインドウが出た。


[『やくそう』を手に入れた!]


 そして――


 壮大なBGMが聞こえてきた。

 ――デデデ・デーン~♪チャラララーン~♪デデデ・チャラーン……


 あまりにも長いので、ブチョウ以外は横に座って待つことにした。


〈3分後〉


 ……~♪デデデ・デン!



 ブチョウは動き出した。

「く、かはッ……。はぁはぁ……箱を開けたときのBGMが壮大で長すぎだろ……、しかもどういう理屈か曲が流れている時は身体が動かん!! これだけ盛大な曲流してるのに、『やくそう』だけかよ、なんこう金目の物入れておけよ!」


「あぶないですね、このトラップ……いや、トラップなんですかね……。とりあえず、宝箱見かけても、そうホイホイ開けないでくださいよ――って、ちょっとブチョウ!!」


 ブチョウの方からまたしても壮大なBGMが聞こえてきた。

 ――デデデ・デーン~♪チャラララーン~♪デデデ・チャラーン……


〈3分後〉


 ……~♪デデデ・デン!


「くっ、全部こっちもか……! ――ならばそっちも試してみるまで!!」

 そういって、いくつかある宝箱に向かって走っていった。


「もういいや、宝箱はブチョウにまかせて、少し先を見てくるか」

 と、先を進んだ先に、下へと続く階段があった。


 ブチョウはしばらく宝箱を開けているようなので、再び休憩していると、ブチョウが来た。

「どうした、こんなところで留まって」


「いや、この先に階段があるので、さすがに置いていくわけにはいかないと思い、待っていたんですよ。行きます? ブチョウ?」


「行くわけないだろ。こういうのは1層ずつ丁寧に攻略していくのだよ。とりあえず、薬草周辺の植物を退治したら、試しに下に行ってみるか」


「とりあえずここは覚えておくとして、一通り回ったみたいだし、正規ルートに戻りますか」

 引き返して、正規ルートに戻る一行。


 暫くして、なんとかたどり着いた、その問題のエリア。


「なんか火ぃ吹いてんるんだけど、アレ……。じゃ、ブチョウどうぞ。うちら後ろで応援してるので」

 そういって、ブチョウに道を譲る。


「ちょっとまって、ちょっとまって。あんなの盾で防いだら死ぬよ! 俺が!! 盾燃えちゃうよ? 大火事だよ! 薬草も苔も消し炭になっちゃうよ!」

 慌てふためくブチョウにそっと、声をかけた。

「大丈夫です、まだリスポーン数の残ってますよ。たぶん……」

(そういって、視線をそらした)


 出番が来ましたと言わんばかりにミーナが前に躍り出てきた。

「しょうがないなぁ、わたしの出番だね!」


 紙を千切り詠唱する。

 ――アイス……

 そして、白く板状になったものを敵に投げつけた――

 ――カッター!

 すると、着弾……ではなく鋭利な氷の刃物と化して、植物を切り裂く、そして切り裂いたそばから、その植物は凍結する――


 ――ザシュザシュザシュ……

[火を吐く植物(フレイム・プラント)を倒した]


「歩行兵器かよ……」

 ブチョウもシンも青ざめている。


「だてにブチョウ凍らせてないわよ。実はね、こう見えてもすこしレベルアップしてるんだけどね」


 腰に値を当て自慢げに立っている。


「すごーい。ミーナ! そういえばだけど、わたしもその本使ったら、カッコよく火が投げられるのかな? ちょっと試してみたい……。」

 羨望の眼差しでミーナを見ていた。


「どれどれ……」

 そう言いながらビリビリとページを破って、ユウに渡してみた。


 ユウはその紙を……乗せると詠唱した。

「いくよー。ファイヤー!!」


 ――ボゥ……


 燃えるだけだった。紙だし。

 一同は暗い表情でユウを見ていた。


「はっ……。そういえばわたしゴルフクラブしか使えないんだった……」

 四つん這いで落胆するユウ、背中にあるゴルフクラブが寂しそうに光っていた。


「カチョウのアホ―!!!」

 ユウはの声が洞窟内にこだました。


 ――――

 ――

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