第25話 10cmの暴力
「なんてもん買ってきたのよ!!」
――ブチョウが半身凍った。
ガチガチと震えながらブチョウは、か細い声を絞り出している。
「た、たいま……つ……」
「赤松で作った盾とか、100%燃やせっていってるようなもんよ。ほら、みなさいよ、表面にこんなに松脂付いて……、ってていうか、松脂で過剰コーティングされている感じね……」
ミーナは、盾の表面に回りペタペタと触っていると、盾の持ち手側からユウが分析をしている。
「きっと、ここにあるスリットに、上からその布を差し込んで点火させるのね。盾の形状も、幾つか布を差し込めるようにはなってるみたいだけど……」
「まったく、そんな盾買ってきて、もう……。はっきり言っておくけど、その盾『クソデカい可燃性たいまつ』よ。敵が炎使ってきたら攻撃力が倍になるわよ……」
ミーナは呆れているようだ。毎度のことだが。
「ま、まぁまぁ……とりあえず、松脂染みこませた布をセットさえしなければ、大丈夫だよ。それ以外は一応普通の盾として使えるから……。それに倒すのは悪性植物だから大丈夫だって……。たぶん。」
なんというか、性格性なのだが絶対に大丈夫……とは言い切れない性分であった。
敵が植物だけなら大丈夫……植物は火を出さないし、そう自分に言い聞かせることで、無理にでも心を落ちつけようとしていた。
「あんまり変なの買ってこないでよね。ちゃんとシンも見張ってないとダメよ。ブチョウすぐ暴走するんかだから。」
ミーナはそういって、盾をブチョウに返すと、シンの方見て注意した。
「おーい、おーーい! おにぃちゃんたちこっちー!」
ゴライが手を振っている。
「おぉ……。子どもなのにしっかりしとるなぁ……、大抵の子どもたちは『おじちゃん』や『おじさん』と言うのに……」
ブチョウはゴライの頭をなでている。
「この人は『おっさん』で良いわよ」
ミーナはさらっと言った。
「おいっ。変なこと言うんじゃない。」
ブチョウがそう返すなり、ゴライはブチョウの手を引っ張って、洞窟の方へと案内した。
「こっち、こっち――この洞窟だよ!」
その洞窟は切り立った崖の下にあるような、薄暗い洞窟であった。
入口には清掃当番表というのが掲示してあったが、今は使われている様子はない。
「じゃあ、ちょいと松明に火ぃ付けてくれよ」
そういうと、道具袋から松明を取り出し、ユウに向けた。
「はい。ファイア!」
すっかり便利屋のユウである。
「お、サンキューな。はい、じゃあこれシン持って。」
ブチョウはそういって松明を渡してきた。
「え、俺先頭ですか?」
「いや、お前そもそも武器ないだろ、俺はバットと盾で一杯なんだよ、シンは……俺の後ろかな。ポジション的には」
ブチョウは半ば呆れながらそう言うと、いつになくやる気に満ちあふれているようだ。
「そして、先陣切って俺が植物どもを叩く!!」
そういって、バットをブンブン振り回していた。
「じゃあ、行ってくるわゴライ」
ブチョウはそう言うなり、ゴライに話しかけた。
「あ、そうそう。この『帰り玉』を持って行って、これに強い衝撃を加えると即座に洞窟の入口に帰れるんだよ。」
そう言って、ブチョウに白く表面がつやつやしている玉を手渡してきた。
「さんきゅーな」
ブチョウはそういって、つい道具袋ではなくズボンのポケットに入れた。
そして、歩き出そうとしたその瞬間――
――バシュウ!
ブチョウから落ちていく玉を見るなり慌てて叫んでしまった。
「ブチョウ! た、玉落としてますよ!!!」
「ちょ! おい! 止めろおぉぉぉ!!」
消えていくブチョウ。そしてミーナの顔面10cm手前に再出現した。
「きゃああぁ!! ブチョウが目のまいヤァァ!!」
とっさに手に持っていた本で全体重を乗せながらぶっ叩いた。
「ち、ちょっとまョブルッ!!」
変な声を出して飛ばされるブチョウ。
――ズシャァ……
ブチョウの首が変な方に曲がりかけていたが、ユウのとっさのヒールでなんとか一命を取り留めた。
「はぁはぁ……、なんか前にも似たようなシチュエーションあったわね……気をつけてよもう……せっかく貰ったのにゴメンねゴライ」
前屈みで息を切らせながらゴライに謝るミーナ。
「だいじょうぶだよ、予備があるから。ほらっ。」
復活したブチョウはゴライの方へと歩み寄り、それを見ていたブチョウに渡した。
「すみまんなゴライ。こんどは落とさないようにするからな!」
そういって、ゴライから受ける取ると、先ほどと同じポケットに入れ歩き出そうとしたその瞬間、またしてもブチョウのポケットから玉がぽろりと落ちそうになっていた。
――パシッ
ミーナは地面に落ちる寸前でなんとか、キャッチした。
「って、ちょっと!! また落っことしそうになってるでしょ!!」
「(人間性が失われつつあるから)道具袋も含めて預かりますね……」
そういって、ブチョウから玉と道具袋を預かることにした。
「すまんなシン。って、人間性どうのって聞こえた気がするが」
「えっ、そんなこと言いましたっけ? 気のせいですよ気のせい。ほらほら行きますよー」
そういってブチョウの背中を押していった。
「頑張ってー、おにいちゃんたち!」
ゴライが手を振って見送ってくれた。
――――
――
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