第24話 画期的な盾

 一方そのころのシンとブチョウは――。


 とぼとぼと歩くシンとブチョウ。

 ――彼らは金が無かったのである。


「ブチョウ……。寝袋シュラフが高すぎて手が出せぬのですが……。」

 そう言って、値札を見ているシンは道具屋に来ていた。

 ここの道具屋には主に、


「し、シンはいくら持ってるんだよ……。」


「せ、1,500㍱です…」


 カードを見るなり、暗い表情で口を開き、訊き返した。


「そういう、ぶ……ブチョウはいくらあるんですか……」


 ――ブチョウの顔は暗い


「に……いや、60㍱だぞ……」


「盾買ったら消滅しましたね……金が……」


「寝袋4つで、9800㍱だぞ。足りなさすぎるだろ。」

 ブチョウは、値札をペラペラさせながら愚痴を言っている。


「そもそもブチョウが『赤いライン入ってるし、名前カッコいいから欲しい!』って言って、無理やりこんな盾買わなければ買えたんですよ……っと」

 そういって、棚に寝袋シュラフを戻した。

 ブチョウの方をに視線を向けると先ほど買った盾にヒラヒラとタグが付いているのがわかった。


「ん……、あれ? この盾なんかタグが付いていますね……。レッドパインシールドRed Pine Shieldって書いてありますね……。昔、某ゲームにあったような、レッドラインシールドみたいなデザインですね……」


「……。って『赤松』じゃねーか!!」

 思わず店内で叫んでしまった。


「赤松の盾ってことかよ……大丈夫なのかこれ……」

 ブチョウはタグを見ながら成分表を見ていた。


「店員が、『松脂を染み込ませた布切れ』を押し付けてくるからなんか変だなと思ってたんですよ。これ絶対に組み合わせちゃダメな奴ですよね……なんというかほら、テレビデオやファミコン内蔵テレビ同じ香りがするんですよ……」


「でもほら、希望通りシャッター付いてるぞ」

 ブチョウが盾を手に取り突起の部分を動かした。


 ――ジャリリッ

 飛び散る火花。


「ん……? ブチョウ……、ちょっとまって下さい、このシャッター……火打石フリント内蔵です!」

 そういって、ブチョウについているシャッターを動かした。

「ほらっ、ほらほらっ! こうする事で下のギザギザの金属と擦れて火花散るようになってるんですよ!! 画期的ですよね!」


 ――ジャリッ! ジャリッ!

 店内で激しく飛び散る火花。


「画期的って何が画期的なんだよ!! ちょ、おい! 布持って擦るなよ! いきなり道具としての寿命終わらそうとしてるんじゃねえって! っていうか引火して店出禁にされるだろ!!」

 シンから盾を取り上げるなり背負った。


 ……あっ、あぶないブチョウのペースに乗るところだった……。

「ま……まぁ、もう、後の祭り状態なので、あとは寝袋をどうするかですね……」


「どうするかなぁ……。ゴミ箱漁って端切れでも拾ってくるか……」

「あとは紙を丸めて断熱材代わりにすればミーナも……」

 ブチョウは外のうつろな目でゴミ箱を見ている。


「ID変更するにしても、召喚するにしても、体力持ちませんからね……ここはやっぱり謝って、なんとかしてもらいましょう」

 ブチョウの肩をぽんと叩いた。


 ブチョウは口に手を持っていき、考えているようであった。

「いやぁ、でもなぁ。軽々しくそんな事言うとまた、凍らされるよ? 俺が。だから少しは努力しましたって、いう誠意を見せないとダメだろ。」


「んー。しょうがない……ちょっと店主に掛け合ってみますね」

 そういって、入口付近にいる。丸い眼鏡をかけたちょっとインテリ風のゴブリンの店主に話しかけた。


「はいはい。いらっしゃい。何が欲しいんだね?」

 そういって、店主はこちらを見るなり手に持っている本を畳んだ。


「そ、その村の洞窟に潜るので寝袋が欲しいのですが、お金がないので端切れだけでも安く譲っていただけないでしょうか……」

 おそるおそる店主に訊いてみた。


 大抵こんなことを言っても、冷やかしなら帰れとか言われる覚悟を決めていたのだが、意外な反応が返ってきた。


「そうだなぁ……。洞窟に行くなら、寝袋くらいツケておいてやるよ。ただし、これくらいの金色のペンダントを探してしてきてほしいんだよ。見つからなかったら見つからなかったで良いんだけど……できれば、見つけてほしい……」


 そういって、手でペンダントの大きさを身振り手振りで教えてくれた。

 そのペンダントは、今は亡き初恋の人のから貰ったペンダントらしく、中にはその彼女の写真が入っているのだとか。洞窟に摘み取りに行ったとき、足を滑らせた拍子に下の階層へ落としてしまったのだそうだ。


「ありがとうございます! 必ずやペンダントを探し出しますよ!」


「頼んだよ……」

 そういって寝袋シュラフを受け取り、道具屋を後にした。


「ぶ、ブチョウ。よかったですね。でも、引き受けたからにはペンダントは絶対に見つけてあげましょう! 店主のあんな寂しそうな顔見たくないですからね」

 そう言ってブチョウに話しかけた。


「あ、ああ……あぶなかった……。ミーナにぶち殺られることもなく、なんとか寝袋は確保できたな。」

 ぶっ飛ばされたのが相当答えたのか、心底安堵しているようであった。


「じゃあ、いよいよ潜りますか、洞窟とやらに……」

 目的を果たした足取りは以外にも軽かった。


 このあとに惨劇が起こるとも知らずに――

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