第23話 悲鳴を上げる本と駄目人間
「こ、ごめんなさいミーナさん……。ちょ……なんか身体が痛くて感覚が無くなっていくんです……勘弁して下さい……」
凍ったブチョウの体力は『やばめ』となっていた。
「バット振り回したり暴れたりしてるから、ゴブリンさん達怯えてるじゃないの! 少しは反省しなさい!!」
(おれから見ればミーナの方によっぽど怖がってるんだが、これを言ったら間違いなく何回か殺されるな……)
慌ててミーナを止めに入る。
「ミーナ……、ほ、ほらブチョウの体力『間もなく乞うご期待』なんで、その辺で勘弁してあげて……」
「まったくもう! スポーン回数決まってなかったら全力でぶっ放したのに……! 回復して良いわよユウ」
苛立ちを隠せないミーナ。
仕方なしにゴルフクラブをブチョウの頭上にかざし、詠唱するユウ。
「もう……。ブチョウはちゃんと確認してから行動して下さいね。ヒール!」
ブチョウの氷が溶け、血色が良くなっていく。
「お、おお……。さ、さすがはユウくん。回復できるなんて流石だねぇ。天使かな? なんつって……」
――!!
ブチョウの背後で分厚い本がギリギリと音を立てている。
「はッ!」
ブチョウは振り返るとミーナから視線をそらすように、壁際に後ずさりした。
ミーナは半笑いで歯ぎしりをしながら、ブチョウにゆっくりと近づき、その手に持つ分厚い本は、なんとも言えない悲鳴を上げ歪んでいた。
「か、……私も
あまりの怒りにミーナの言葉は震えていた。
「い、いやぁ……。あまりの心地よさに魂まで昇天させられそうだし、まま、また今度にしようかな……なんて――」
ブチョウは、壁際に追いつめられると両手をミーナの方へ向け必死に振っている。
「あはははっ仲が良いんだね! まるでうちのかーちゃんととーちゃんを見ているみたいだよ!」
ゴライが腹を抱えて笑っている。
「ぶ……ブチョウのことなんて、なんでもないんだからね!!!」
ミーナは耳を赤くしてうつむいていた。
「さて、それじゃあ少し準備しておいでよ。おいら洞窟の入口で待ってるからさ」
そう言うとゴライは
「じゃあ我々も行きますか!」
そう言って、長老に挨拶すると
とりあえず、洞窟へ潜るべく準備をしていく。
長老曰く、フェイスシールドは割れると危ないから、シャッター付きの盾は必須とのことでそれは用意した。それと松明セットとして松脂とそれを染み込ませる布も必要らしい。
あとは、万位が一のために、少々日持ちする乾燥させた食糧と、水、塩、砂糖。
ナイフ、回復ポーション、あとは
これを全部用意して潜る……のだが、幸いにもアイテム入れる袋というものがあって、その袋に入る大きさであれば何でも入れられるらしい。だが、入れるときにしっかり畳んで広がらないようにしないと、取り出せなくなるので注意が必要と説明された。
そういうわけで、2人に分かれて材料の買い出しに向かっているところである。
――ミーナとユウのペア――
村のメイン通りにある服が売っている通りに来ている二人である。
「ショッピング楽しいよねぇ。延々見てられる……いろいろなコーディネート試していたいなぁ……ほらっ、あれとかブーツとかもいいよね……」
靴屋を指さし、ウインドウショッピングを楽しんでいるようである。
「ゴブリンの村っていうから、どうなのかと思っていたけど、ごくごく普通の村だよね。武器も道具も売ってるし、少ないけど服もあるし……。わたしまだまだページあるけど、さっきユウが見てないときに予備の魔導書買っちゃった。表装が赤くてキレイなのよ。あと、ちょっと独特な紙の匂いとページを捲ったときのこの吸い付く感じが、なんとも言えず病み付きになるのよ。」
そう言って、赤い魔導書をペラペラと捲っている。
「あー。いいなぁ。私もこんなゴルフクラブ売って何か買ってこようかしら……」
赤いヘッドカバーとクラブを見ながら、少しうんざりした様子であった。
「貴様ァァ!! 何考えてるんだアアァァァ!!!」
背後から何者かの叫び声が聞こえた。
「うわぁぁ!! びっくりしたぁ!!」
ユウは振り返ると、クラブを落としそうになった。
「か、カチョウがなんでこんなところにいるのよ!!」
ミーナもびっくりしていたようで、カチョウの方を見るなり突っ込んだ。
「そんなの決まってんだろ……。はぐれたんだよ……あいつらと!」
カチョウは暗い様子で、ぽつりと言った。
「だって、朝一から泥酔して馬車に乗せられていったんじゃなかったの?」
ミーナはそんな落胆するカチョウに訊いてみた。
「はぁ? クロウとカツヨシとタスクこなしに行こうってんで、フライング・ガーディアンで打合せしてたらさ、ビールが飲めるって気づいてな。打ち合わせ中ずっと飲んでたらそのまま意識がなくなってこのザマだよ。くそー、朝から仕事もせず飲める酒はウマかったなぁ……」
「だめだなこの人間」
ユウは冷徹な表情で言葉を漏らした。
「それよかオマエ、ユウ……とか言ったな、このゴルフボールを持っ……」
カチョウがポケットからゴルフボールを取り出し、渡そうとしてきた。
「いやよ!」
カチョウが言い終わる前に拒否した。
「いや……、ゴルフボールをだな……」
ふたたび渡そうとしてくるカチョウ。
「いやよ!」
ユウは速攻で否定する。
「人の話を最後まで聞けえぇぇぇぇ!」
ゴルフボールをいくつも持ちながら近づいてきた。
「きゃあああぁぁ!」
思わず目を閉じて、1番アイアンで殴ってしまった。
「ゴブルッ!!」
謎の声を出して、吹き飛ぶカチョウ。
例のごとく体が「く」の字で飛んで行った。
――ズシュァ……
「はっ!! ご、ごめんなさい……つい……」
近づくカチョウに謝りながらヒールをかけていた。
「ふっ……、強くなったな……。それはそうとだ、このゴルフボールはそこで買ってきたものだ……。で、なにが言いたいかと言うとだな……」
カチョウはむくりと起き上がると説明しだした。
「魔法が乗るんだよ、魔法が! この玉に……! 例えば、ファイヤーを詠唱しながら、これで打つとだな、魔力がクラブを伝って、ヘッドからその対象に乗る。その玉は炎の弾丸となってヒットした対象物を焼き尽くす! あとはヒールだな、これは遠距離で回復させたいやつがいたとするだろ。さっきと同じで対象にぶち当てれば、対象は若干の痛みと引き換えに体力が回復するのだ!! どうだすごいだろ!!! しかも玉は回収再利用可能ォ、環境にも優しい!!」
興奮するカチョウ。
「し・か・も、お前が使ってるクラブはEXレア、誰にも譲渡できないし、捨てることもできない、ついてるオプションは詠唱速度向上、魔力上昇、回復力強化、スウィング修正が付いてる逸品ものなんだぞ!」
ユウはその説明を聞いてはいるがなかなか頭に入ってこない。
「途中までは良いけどスウィング修正て……」
カチョウはプルプル震えながらこぶしを握り締め感激の涙を流している。
「素人でもそれなりに打てるということだ……。素晴らしい……。」
「とはいえ、カチョウがなんでそんな情報しってるのよ」
ミーナがユウとの会話に割って入ってきた。
「タスクリストを見ていたらクエスト報酬がゴルフクラブって名前で登録されていてな、そいつを発見して挑もうとしたんだが、いかんせんビールがウマくてな……。で、その後見てみたら入手済みになってて、お前らの名前と共に、タスク報酬情報が公開されててたって訳」
カチョウは、二人にゆっくりと説明した。
「ということで、同氏が増えたことを祝し、足長おじさんからのプレゼントって訳よ……さーて、せっかくだから『フラガ』行って飲みなおすことにするわ。じゃあ頑張れよ!」
そういって、ゴルフボール2ダース(24個)を渡すと立ち去って行った。
「ちょ、その略し方はいろいろ誤解招くからやめなさーい!!」
ミーナは立ち去るカチョウに大声で突っ込んだ。
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