第21話 トグロと発酵食品
こうなった以上、この膨大なタスクをこなすか、ヤツを直接倒すかの2択しか無いわけだな……。
タスクは確かに膨大だ、タスクリスト出しても、底が見ない。しかしこれについては、うちら以外にも『こちらの人間』が居る以上、まだ可能性はあると言うこと。
もう一つは、ヤツを倒す……いや、現時点でなんとか発見しても返り討ちにあるだけだから無理だろうな。倒すにしても、やはりタスクをこなして確実に熟練度を上げていくことが勝率を上げる第一歩となるのは間違いないな……。
「ブチョウ! やはり今はタスクをこなして確実に熟練度を上げていきましょう」
「そんなん俺でも分かってるよ。あいつは無防備な俺をいきなりやりやがった……現実なら……公務執行妨害……!」
くるりとミーナの方を向き指さした。
この時点でマナー違反なので消滅するハズだがそうはならないらしいな。しばらくブチョウの行動を観察するべきだな。
ミーナが突っ込んだ。
「いや、ブチョウ。うちらただの会社員よ……公務員なんて優良企業、うちらじゃ無理よ……」
そういう問題でもないのだが敢えて突っ込むと疲れるので辞めておこう……。
「そりゃそうと、なにからやりますか」
とりあえず、タスクリストを指でスッスッとスクロールさせながら見ている。
「とりあえず、朝食でも食いながら考えるか……パフェ食いたいしな、イチゴの!」
ブチョウは前かがみになり腹を抑えながら言った。
「アンタこんな状況なのによく食欲が優先できるわね……」
もう、既にブチョウのことをアンタ呼ばわりしている人がいる。まぁ、今までの行動から無理もないが……。
「バカだなぁ……こういう時だからだよ。腹が減ってはなんとやらってな」
ここに関してはブチョウに全面同意するわ。空腹ではいい作戦練れぬってね。
「じゃあ、とっとと飯屋行って何からやるか考えますかね」
手をひらひらとさせ、ギルドへ戻ろうとして歩き出した。
ユウが不安そうに訊いてきた。
「そういやこんな状況なのにギルドってやってるの?」
――って、そうだった。我々の脳が衰退しているのか歳のせいなのか知らんが、確実にアホな思考になりつつあるのは間違いない。ブチョウも俺も。
「そ、そうだった……そういや、どうなんだろうな……システムが明確に敵だってのは分かったけど、俺もわからんな……。さっきまで戦ってたし……まぁ、ちょっと覗いてみようか……」
――――
――
例のギルド兼食堂に来た。
ブチョウやユウ、ミーナは死に慣れていないので、代わりに俺が見ることにした。
気付かれないように、ゆっくりゆっくり、中を覗いてみることにした。
――シルヴィアとカイラが居た。
――白髪がおった。
「居るんかい!」
――バァン!
思わずドアを勢いよく開け叫んでしまった。
「ああ。なんだ君らか、こんな公衆の面前で、大声出して叫んじゃいかんよ。通報されて消滅されちゃうよ。」
(あんたが言うのかそのセリフを……)
「そりゃそうと、業務は大事だよ。君らが冒険者たちがちゃんとタスクをこなせるかここで監視してるのさ」
そういいモーニングコーヒーを嗜んでいる。
「くっ。そこのシルヴィアさんとか、カイラさんはどうなのよ! 彼女らも、システムの一部でしょうが!」
残りの彼女たちに突っ込んだ。
「ん。ああ、あれ演技」
シルヴィアはぽつりと言った。
「演技かよ……」
カイラは胸を強調しながらゆっくり近づいてきて言った。
なんとか視界をそらす。
「でもね、あななたちの死ねる回数は決まってるのは事実よ。私たちはその領域にアクセスできないから、何回かはわからないけどね。まぁ十分注意しなさい……」
そう云うと不敵な笑みを浮かべるとカイラはカウンターの後ろに下がった。
「くっ。結局、あいつらの手の上で踊らされてるだけかよ……。ほらブチョウ行きますよ」
「仕方ないな、食堂で行って
ブチョウはそう言うと、足早にギルドを後にした。
この人欲求に素直すぎるだろ。理性はどこ行ったよ。
そうして、席に着くと昨日まであったメニューがない。はて?
ブチョウもユウもミーナも困惑している。
呼び鈴だけはあったので、とりあえず店員さんを呼んでみた。
「フライング・ガーディアンへようこそ。ご注文はなになさいますか?」
大丈夫なのだろうか、なんか何処かで聞いたような店名に変わっていた。
えーと。パフェ……。いちごパフェとかってありますか?
「い……ちご? パフぇ? なんですかそれは」
ライトグリーンのツインテールの店員さんが訊いてきた。
ブチョウはなんとか、
「ビールジョッキみたいな透明の皿というかコップに、トグロを巻いている白色の物体で、茶色の粘液性の汁というかタレが乗っていて、その頂点にパイロンというか、赤い三角錐の表面に1ミリくらいの卵のような種子が埋没している、すごく甘い食べ物なんですが……」
「表現が気持ち悪いのよ!!」
「パブェ!!」
吹き飛ぶブチョウ。それをカバーするようにユウがヒールをキメる。
「ヒール!」
――グッ
ガッツポーズをきめるミーナとユウ。
今ここに、『攻撃回復』というミーナとユウのコンボ技が誕生した。
ちなみにダメージは相殺されてゼロである。
ライフにはやさしい突っ込み技となっている。
「あいたたた……それはそうと、何なら提供できるんだよ……」
と店員に訊く。
えーと、ですね。
「
「ちょ、ちょっとまって。何言ってるか分からないんだけど!」
「ん……? あ! すみません、ニャンジャ語の方読んでました! イノシシの干し肉と、ライムギのパン、黒ビール……あとは……ってあ!メニュー見てくださいね!それではっ!」
そういうとメニューを置いてペコリとお辞儀をし、走り去っていった。
「メニューには、名前しか書いとらんな、よくわからないから、適当に選ぶか……」
ブチョウはペラペラめくりながら首をひねっている。
「ちょっと、ブチョウ! いいんですか、適当に選んじゃって? どうなっても知りませんよ」
不安そうな表情で訊いた。
「いいんだよ、いいんだよ、こういうのも冒険のうちってな」
適当云っているブチョウ。
店員さんを再び呼ぶ。
――チリリン
奥の方から、先ほどの店員さんが駆け寄ってきた。
「おまたせしました! ご注文はどうなさいますか。」
「そうだな、とりあえず、イノシシの干し肉4つ、ライムギのパン4つ。それと、メディテレーニアン・ブリーズっていうサラダ4つと、フォルマッジョ・マルチョ4つ、食後にコーヒーを4つ、うちミルクは2つでよろしく。」
ブチョウは恥ずかしくないようあたかも常連であるかのように振る舞っている。
「フォルマッジョ・マルチョ……。大丈夫……ですか」
店員さんは不安そうである。
「ああん。俺がいいって言ってるんだから、いいんだよ」
ブチョウは不機嫌そうに言っている。
「う、承りました。それではしばらくお待ちください。」
焦りを隠せない店員は足早に奥へと走っていった。
――――
――
ガスマスクを着用した店員が物々しい装備でワゴンを押してきた。
――!?
「コーホー……おまたせしました……、こちらがイノシシの干し肉……、コーホー……ライムギのパン……メディテレーニアン・ブリーズサラダです……コーホー……」
「なんだよ、普通の干し肉と、硬そうなパンとサラダじゃないか……」
ブチョウは少しほっとしている。
「コーホー……それと……フォルマッジョ・マルチョ4つです……」
――!!
――一同の表情が固まった。
これは、こ、この食べ物は食えるのか……これは……!?
そういえばどこかで訊いたことがある。蛆に食わせて発酵させたチーズがあると……、これはまさに『それ』なのであろう……。白い皿に透明の蓋がしてあり、ウジが逃げないようになっている。通はそのまま食うらしいが……。
店員が一歩引きながら説明している。
「コーホー……、食べるときはウジが跳ねて目に入る恐れがありますので、慣れないうちはゴーグルを付けて食べてください……」
「これでは、お楽しみください……コーホー……」
そういうと物々しい店員は去っていった。
「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ、ブチョオォォォォォォォォォォォォオ!!!! なんてもん頼んでくれたんですかコレはアァァァ?」
思わず叫んでしまった。
――ブチョウはフリーズしていた。
ミーナがブチョウの延髄を軽くチョップした。
「うッ。ハァ! な、なにが起こったのだ!」
ブチョウが
「しっかりしてくださいよブチョウ。こ、これちゃんと責任もって食べてくださいね……」
ミーナは怯えている……。
ユウはブチョウの隣でまるで汚物を見るような軽蔑の眼差しでブチョウを見ながら青い顔で小刻みに震えている。
「わ、わかったよ! おれが責任もって食うからちゃんと見とけよ!!」
そういって、ブチョウは透明の蓋を外した。慣れない人はウジを取ってから食すらしいのだが、ブチョウは見栄を張ったのか、無謀にもゴーグルなしで、口に運ぼうとする……。
――ピンッ
ウジが跳ねた。
ブチョウはとっさに、顔を引きまぶたを閉じた。幸いにも目の中には入っていなかったが、まぶたの上には
「た、たすけてくれユウ!! 目にウジが! 早く早くとってくれー!」
隣でぶるぶるとふるえるユウだったが。
「ふ……ふふふふ……ファィヤー!!!」
手のひらの中心から火が噴き出す。
――ゴウッ! シャァ――!
ウジを倒した。
「ぎゃあああぁぁぁぁ目がぁあぁぁぁあ!」
「ヒーーーール!!」
[ファイヤーの熟練度が上がった]
[ヒールの熟練度が上がった]
こうしてユウは、コンボ技ファイヤーヒールを習得した。
対象を焼くがその後何もなかったか状態に戻せるのだ。衣類以外は。
「こ、こんな危険なたべものがあるなんて……」
そういってユウは震えていた。
「あ、あぶねぇ……。ユウ危ねぇ……」
心の声が漏れた。
「これあれだろ、火で焼きながらたべれば安全なんじゃね……? ちょ、ちょっとさ。ユウ。火出してみてくれない?」
そういって、ブチョウが提案してきた。
「ち……、ちょっとだけですよ……。あまり、あまりィ!そのチーズ近づけないでくださいよぉぉぉ!!ファィヤー!!!」
下がりながら業火が噴き出した。
――ゴウッ!ジュワァ……
ウジを倒した。
ウジを倒した。
ウジを倒した。
滴り落ちる、チーズにパンを漬けた。そして、ブチョウは口にした――
――もぐ……、もぐもぐもぐもぐもぐ……
「うまいぞ、コレ!! うまいぞ、コレ!!」
ブチョウは2回も言った。
「ちょ……、ちょっと俺にもその火くれない?」
そう言って、ユウにお願いした。続けてミーナも言ってきた。
「わ、わたしもお願い!」
「い、いくよ……ファィヤー!」
――ゴウッ!ジュワァ……
ウジを倒した。
「んんん! このトロっとした何とも言えない濃厚な味わい。ちょっと匂いがきついけど、それをカバーするだけの旨味があるわ!!」
大絶賛である。
……。
「わ、私も食べる!!」
そういって、自分で火をおこし、口へと運ぶ。
「んー! ほんっと、これこんなに濃厚なのね!! このライムギのパンとすごく合うよ!!」
そういって、干し肉にも浸して食べてみる。
「このただしょっぱくて辛いだけの干し肉が凄くマイルドに感じる……! これならいくらでもいけそう!!」
そうして、一行はすべての食事を終了した。
結局嫌々運ばれてきた、ウジ入りチーズもきれいさっぱり平らげられたのである。焦げたウジを残して――。
そうして食後のコーヒーを嗜みながら、作成会議を始めた。
「さて、ここからが本題だが、タスクリストを……って、あれ? うちらなんかタスクリスト完了したんだけど……これって……」
✓ フォルマッジョ・マルチョ 完食
「ま、まさかとは思うけど、こんなのが他にいくつもあるんじゃないでしょうね……!」
ミーナの表情に苛立ちが抑えられない。
「……あんのクソシステムがああぁぁぁぁぁ!!!」
ミーナの声が食堂にこだました。
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