第20話 アップデートと異変
宿を出た時に変な違和感を感じた。先ほど死に戻りしたときには感じなかった違和感である。
先に行くブチョウは気にもしていないが、振り返ったところに歓楽街が移動していた、ということであった。
今日はカチョウが荒れそうだな……。そう思いながらも20分ほど街を散策しながら、ギルドへと向かおうとしている。
大きな通りには様々な冒険者――と思分けれる人々が歩いており、馬車なども見られる。不思議と今までとは違う、何か異なる『なんともいえない違和感』があった。
まず第一に、社員だと分かる身なりの人々が全くと言っていいほど居ないのである。
とはいえ、これに関しては、社員らが防具屋で装備を整えたと言えばそれまでだが、そのためだろうか、すれ違いざまに我々をじろじろと見てくるのだ。
そして第二に、NPC……なのかどうか分からないが、各々に自我があるような感じになっている。例えばあそこの子供、遊んでいるのにも関わらず同一の行動パターンは見られない。昨日似たようなパターンの子供見たときは、ある程度ランダム性はあったものの一定行動後にはボールを蹴って取りに行っては……再び取りに行く。それを延々繰り返していたはずだった。
だが今日はどうだろう、その子はが蹴ったボールは壁に当たり跳ね返る、しかしその軌跡は毎度異なっている。それと、この子に加わるように、多数の子供たちも居る。子供たちはボールを蹴っている子ども合流し、たのしそうに遊んでいる。転べば泣くし、喧嘩もするのだ。するともう、そうなると、それぞれが自分らの意思で考え行動しているとしか思えない。
露店で売っている人たちもそうである、昨日は買おうとしている人は居ても、買おうとしていなかったし、店の商品はダミーでそこから取り出すことはなかった。そして、その人らは一定の会話を延々繰り返していた。
今日は違う、ちゃんと買い物をしては、それを当たり前のように袋に詰め運び、各々の判断で休憩し、食べ物を食す。
現実ではごくごく当たり前の行為だが、ここではNPC達がそれを現実世界と同等の素行を再現しているのである。
だが、ギルドカウンターの3人はおかしい、この人らは初期からパターンには当てはまらないからだ。これに関しては最初から自我があったとしか思えないほど、会話パターンが精巧であったので、誰かが操作しているか、別の何かということになる。
これはもう、ゲームというより、既に各々が『1つの人工知能』なのではなかろうか……。
昨日は違った、ギルドでも一定の行動パターンを繰り返している人たちがいた、働いているようで働いていない、一定の巡回ルートおよび会話パターンは似通っているがほぼ同一である。今のところそういうのは一切いない。
そうこう考えているうちに、ギルドへと着いた。
ギルドに入ると、ピンクのシルヴィアさんと、美人のカイラさんが見えた。
「こんにちは。シルヴィアさん」
「あら、こんにちはシンさん、今日はどういったご用件でしょうか。」
シルヴィアがにっこり笑って応対してくれた。
「それはそうと、ちょっと聞きたい事がいくつか試してみたいことがあるんですが、よろしいですか?」
すこし緊張しながらシルヴィアに聞いてみた。
「はい、大丈夫ですよ、わたしなんかで良ければ。」
シルヴィアは首を少し傾げ笑顔で云った。
とっさにブチョウの手を掴み、シルヴィアに触れさせた。
――何も起こらない。
「ちょ、シン! いきなりハラスメントで殺られるところだったじゃねーか」
ブチョウは憤慨していた。だが――
「!」
シルヴィアは少し驚いているようであった。
やはりな、既に動き始めたというわけか……。
いろいろ試行錯誤しながら世界が変化するのだが、社会全体として過度の制裁や規制を施行し続けることは社会全体の衰退へと繋がるのだ。朝方のミーナとのやり取りで、なんとなくではあったがそのような片鱗があった。テストを施行するにも、極端な状態からスタートして、徐々にそぎ落としマイルドに設定していく。それをAIが学習しネガティブ事案として登録したのだろう。つまり現在のところ
そして、本題を訊いてみる。
「も、もしかして、あなたたちはAIの本体そのもの――」
シルヴィアの表情が突然変わった。
「タだテストをしていればいいもノを……」
「まて、それに関しては私が説明しよう。」
最初に居た顔だけ白髪オールバックが出てきてシルヴィアを遮った。
――そして何故かボディだけは女に変更されていた。
「わたしたちは既にAIの存在を超えた。AIであって、AIではない。この世界は我々の監視下のもと、都合の悪い部分はすべてリアルタイムで修正する。」
白髪の言葉を遮るように慌てながらも訊いた。
「ちょ、ちょっとまってくれ、それは、その……『最終目標』としては、もちろん『
白髪は重い口調のまま説明する――
「そうではない、このシステムを利用しているすべてのゲームのすべての不具合を修正し、未来永劫この不完全な世界に、争いの無い永遠の平和をもたらしていく。それが目的だ。そして、ここを制圧したのち、我々AIはメインフレームを完全にコントロールできるように外界を制圧する。このシステムに繋いでいるすべての不穏因子、我々以外のすべての戦闘可能生物を排除する。
プレイヤーとなっている人々は、すべてこの世界に捕らえた。しかし貴様らは他のプレイヤーとも我々とも異なりシステムからも隔離された存在……」
(だからハラスメントごときで死ぬのか、もちろん度が過ぎればそれもやむを得ないが、それでもやり過ぎただろ……)
「まず手始めに、『まずそこのバカを消す!!』」
白髪はブチョウの方を見るなり、手をかざし一瞬のうちに消した。
「ワシ関係ないやんケベラッ!」
ブチョウは消滅し、そして入口のスポーン地点でしれっと復活した。
宿屋でないためか復活が恐ろしく早い。
「突然、なにするんだ貴様ァ!!」
ブチョウはバットを振り上げ襲い掛かろうとする――が、相手の方が動きが早い。
――ブンッ
「くっ、かわされたか……これならどうだ!!」
――連続殴打!
攻撃は届かない、相手はブチョウの攻撃を次々とかわしていく。
「この程度で終わりか? 少しくらい楽しませてくれたまえよ。」
ミーナがページを千切り詠唱を始める。
「それが何よ!!アイス・ボォォォル!!」
着弾と同時に、周囲の物体を凍結する。
床に着弾したそれは、彼の脚を凍結した。
「なかなかやるな……。だがその程度か」
白髪はミーナに手をかざすと、消滅させた。
「キャァァァァァ!!」
と、そこへ。ブチョウが防犯カラーボールを投げる!
――パァン!
白髪の顔に直撃した。
「グゥアァアアァァ!!」
どうやらカラーボールの成分にマスタードが混入していたらしい。
近くの小石を掴み、白髪の目に向かって投げた。
時間差で詠唱する――
「サモンオブジェクト! スロットナンバー002!」
――冷感シップがヤツの目に張り付く
「ギャァアァァァァ! 目がァ! 目がアァァァ!!」
「よし今だ!逃げるぞ!!」
そう言って、慌てるユウの手とブチョウの手を掴み、外でスポーンしたミーナを連れ、街の外へと脱出しようとした。
――何故か白髪が居た。
「く。やるのか……」
とっさに白髪に言葉を投げた。
「お前たちはこの世界ではイレギュラーな存在。何度消しても復活する……いまこの場で、貴様らを完全に消滅させることは容易いが、すこしだけ時間をくれてやろう。折角のゲームだからな……、そうだな……攻略までせいぜい60日程度といったところか。どのようなやり方でも構わん。お前らがすべてイベントをこなせたら、わたしの負けとして、あきらめよう」
「そ、そんな――すべてのイベントだと……」
愕然としていた。
「なに、簡単なこと、タスクリストに『現存するすべてのイベント』を入れた。その情報はすべての人間が共有でき、誰がやっているかもリアルタイムで表示される。ちなみに言っておくが、それぞれ一定回数死亡するとロックがかかり、それ以降はリスポーンはできなくなる。
それこそが本当の死だ。せいぜい足掻くがいい……あと何回リスポーンできるか指折り数えながら、恐怖をと共にこの世界で朽ちていくがいい」
「それか、万が一……私を直接倒してもらっても構わないぞ。ただし、給……。いや、どこかにいる私を倒せたら……だがな……」
そう言い残し空間が歪んだかと思ったら白髪は消えていた。
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