第19話 バカと生贄

 ……ウォオォォォォォォ!


 ――バァン!!

「15分32秒!!」

 そうさけぶと部屋になだれ込んだ。

 腕輪はアップデートされていたようで何故かタイマー機能が備わっていた。


 部屋のすぐ外にあるスポーン地点では、例のごとく暗い顔のままゆっくりと出現しており、ブチョウがはうっすらと涙を浮かべていた。

 こりゃあもう、ある意味風物詩だな……。


「早かったねシン。さっきはごめんね。ちゃんと帯しておけばよかったね……」

 そう言って、ユウが近づいてくるのだが、さっきのことを考えると少しだけ距離を取った。話題をそらすように、適当な相槌を打ち話題をそらす。


「い、いやぁ大変だったよ……って、そりゃそうと街の様子が少し変わってるのよ。遠めに見たけど、ブチョウの建てた馬鹿な物件も正常に修正されていたみたいだし、歓楽街もそのまま消滅して、何処かに行ったのか更地になってな……。近くまで行って見てみたわけじゃ無いけど、夜間にいろいろ修正されたんじゃないかな」


 そんな折ミーナが口をはさんだ。

「そうそう、修正されたと言えば、何度やっても設定そのものが出ないのよ。昨日までは、ブライトネスとか設定出来たのに……」


 そう云ってミーナが説明しているなか設定を出そうとしたが、相変わらず沈黙したままである。初期設定のあの例の動きもユウの協力のもと試してみたが、全く出なかった。もちろんユウも。


「いやぁ、まいったねこりゃ……こうも色々仕様が次々と変わっていくとうちらもどう対処して良いか解らなくなってくるわ……とりあえず、朝食がてらギルドに向かえばなんとかなるんじゃ無いかな。」


 いそいそと支度をすると、部屋を出た。


 ――ガチャリ


 部屋を出て右に目をやると、ブチョウは苦悶の表情で出現中であった……今はラクダの股引き付近だから、まだ少しかかりそうである。


「もうちょっと部屋で休もっか」

 そう言うと、再び部屋に入った。


 暫くユウやミーナたちと談笑しているとブチョウが泣きながら入ってきた。

「うう……うっ……。なんでおればっかり……」


 ミーナは少し申し訳なさそうな顔になりに、ブチョウの頭に手をあてると珍しく慰めた。それもそのはず、ここの設計はミーナなのだから。

「ほらほら、美味しい朝食でも食べて元気出しましょ、ブチョウ。そうだなぁ……今日はミックスパフェおごってあげるわよ。イチゴ付きの!」


 四つん這いになって落胆しているブチョウはピタリと止まった。

「お……、ほんとか!? よし行こう! 今すぐ行こう!」

 そう言うとブチョウは我先にと部屋を出た。


「なんかブチョウってば、こっちに来てからやる気に満ちてるっていうか、バカにターボかかってるというか……。」

 靴を履きながら聞こえるようユウに言った。


「そりゃあ、普段はあんな狭い会社で延々とデスクに向かって仕事してるわけでしょ。でもさ、それが日々の業務から解放されてこんなところに来られたら、そりゃあテンションあがっちゃうよね。社員旅行みたいだし。」

 ユウちょっと楽しそうな声で言ってきた。


「ユウ……そうは言うけど、確かに最近のブチョウの壊れっぷりを見てるとなんかバッドステータス付いてるんじゃないかって思うワケよ。ねぇシン。ちょっとさ、ブチョウこっそりアナライズしてみてよ」

 そう言ってミーナが顔を近づけてきた。


 ――ブチョウは鼻歌交じりで先頭を歩いている。


「しょうがないなぁ…」

 そう言うとそっと詠唱をはじめた。


 ――(シングル・アナライズ)


「えーっと。なになに――って、見る限り変なバッドステータスは付いてないみたいなんだよなぁ…。昨日あった、『味覚障害』とかいうのも消えたみたいだし、今日は普通に生活が送れそうだよね。良かったねブチョウ……」

 安堵の表情でミーナに語りかけた。


 腕に付いているコンソールを見ているミーナがふと違和感に気付いた。

「あっ、ちょっとまってシン。もしかして、もしかしてだけど、この固有スキル欄にある、この――」

 そういうと続けて、下を向きながら言った。

「『単純バカ』ってのがそうなんじゃ……」


「直球すぎだろ!!」

 思わずその場で叫んでしまった。


 ブチョウが後ろを振り返えった。

「おい、なにが直球なんだ?」


「ち……、直球勝負という、か……缶酎ハイがありまして、どれが呑みやすくて美味しいかなーって……」

 適度に視線をそらしながら言い訳を言った。


「いや、お前酒飲めないだろ。新人歓迎会のときにゲロ吐いてぶっ倒れて、救急車乗ったじゃねーか……」

 ブチョウは俺の方に歩きながら近づいてきた。


「い、いや……。そ、そう! か……カチョウ! カチョウがそんな言をいっていたなって!!」

 とっさにここにはいないカチョウを生贄にした。

「なんだよそうならそうと言えよ……。今度あいつ誘って飲みにでも行ってやるか……。ほら行くぞ!」


 なんとか、難を逃れた。

 例の新人歓迎会ブチョウと飲んだ時、最初はちびちび飲んでいて大丈夫かと思っていたが、ブチョウに酒が入るや否や飲む量が一気に加速、その後浴びるように飲み始めるのだ。そして周囲のやつらに酒を勧めてては飲ませ、同じ戯言を延々繰り返すほど酒癖が悪いのだ。


 ちなみにカチョウも彼とだけは、飲みに行くのを避けているらしい。


 まぁ、この世界で酒で提供れることはないとブチョウは言っていたが……本当なのだろうか……


 そんな不安を抱えながら宿屋を出た。

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