第17話 万能タオルと黄色い石臼

(1時間後)

  :

 ――ガラッ


「……っはぁ、はぁはぁ……よ、ようやく戻ってこれたわ……」


 髪はバサバサ、スライムの粘液や草、引っかかった蜘蛛の巣でまみれており、顔と手は薄汚れ、無数の出来立ての生傷が入っており、それはとても風呂上りの人間とは思わない様相であった。風呂はすでに閉まっていたためか、暗闇で着たシャツは前後逆に、ズボンは少し腰のあたりで少しずり落ち、手にはジャケットとボロボロのタオルを片手に持っており、かなり憔悴しょうすいしているようであった。


 部屋に入るなり驚いた様子でユウが訊いてきた。

「だ、だいじょうぶ……? みんな心配してたんだから……って、なんか山賊に襲われたような格好してるよ!」


 そりゃそうだ、武器はタオル1枚、素っ裸で野っ原に放り出されたのだからな……。


「ちょ、ちょっと風呂場でトラブルがあってね……。タオル1枚でスポーン地点に飛ばされたんだよ。リソース消費量限られてるからタオルのプロパティ値変更して硬化させてモンスターと闘ったり、番兵に見つからないようタオルのIDを正面・右側面・背面と服っぽいものに徐々に変化させて裸だとバレないようにして侵入したり、建物の縁の下や裏、屋根を伝ってなんとか脱衣所に入って服を取って帰ってきたってわけさ……」


 ふと、部屋の奥、縁側に目を向けると、巻きにされたブチョウが横たわりぐったりしていた。

「そ、そんなことよりブチョウどうしたん……?」

 ブチョウを方を見て青ざめた。


 ミーナはブチョウの方を親指で指していった。

「ん。あぁ……。アレ?」

「聞き耳立てようとしてたり、覗こうとしたり、脱衣所の入口で裸でゆっくりスポーンしてたり、走って何処かへ出て行ったかと思ったら、突然何を思い出したかわらないけど、叫びだしたりして震えてたからね」


(まぁ前半はブチョウが100パーセント悪いと思うが、後半に至ってはすべてミーナの仕業のような気もするので、こればっかりは、同情するがな……)


「ま、まぁ、まぁブチョウもいろいろあったからしょうがないんだよ……。」

「そりゃまあ聞き耳とか覗きはダメだけどさ。腰洗い槽に顔面から飛び込んだり、スポーンしたかと思ったら何度もゆっくり出現させられるしと、そりゃあ突然叫びたくもなるだろうよ……」


「ん? そういうば、設計時にプールのパーツを流用したんだけど、腰洗い槽いらないからってんで、避けておいたんだけど、まさか男子の方に行っていたとはね……」

 ミーナは顔をしかめていた。


 やはりミーナの仕業であったか。


「さて、今日は疲れたし明日も早いから寝ますか。」

 そう言って、ユウとミーナは俺の方を見ている…。


「うっ、お、おれは縁側の方で良いよ…。」

 そういうと布団を引きずり簀巻きにされているブチョウのそばへと持って行った。ブチョウは疲れていたのか涎を垂らし寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。


 ユウが壁のスイッチに手を掛けた。

「じゃあ、電気消すよー」


 ――パチッ


 あたりは暗くなり月明かりが窓辺に差し込む。ぼんやりと藍色にそまった部屋には、人の苦労も知らんと、気持ちよく寝ているブチョウ、そんなブチョウを横目に窓から見える夜景を楽しむ。『ゴリゴリ』と聞こえる歯ぎしりの音と共に…。


 ――ゴリゴリゴリゴリ……ギ、ギギギギ……ブッ……ゴリゴリ……


「臭いし、うっさいわー!」


 ――バァン!

 俺は起き上がるとそのままブチョウを抱え布団の入っていた押し入れにぶち込んだ。

「これで少しは寝やすくなるだろ…」


 かすかに押し入れから聞こえる歯ぎしり。

 ――ゴリ……ゴリ……


 部屋側を見ると、体をくの字に折り曲げすーすーと寝息を立てるユウと、布団の裾をぎゅっと握って刮目したまま天井を見上げるミーナの姿がそこにはあった。


 ――ゴリゴリ……ギギギギ……ブッ……ゴホッ、ゴホッ……ブッ……ギギギギ……


 ミーナは苛立ちが隠せない。


 ――バァン!

 無言のまま勢いよく押し入れを開けるミーナ。


 そういって、俺とユウはブチョウを押し入れから引きずり出すと、部屋の外、廊下にゆっくりと放り投げた。


「うっさいのよブチョウ!自分の屁でせてんじゃないわよ!!」

 ミーナはそう吐き捨てるとドアが壊れんばかりの勢いで閉めた。


 そうして夜は静かに更けていったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る