第12話 髪とギルドとお金
スライム討伐も終わり、街のギルドに向かう一行。
スライムの粘液は揮発性がなかなか高く、振り払いながら歩いていると思いのほか早く乾いた。
ただし、臭いは残ったが……。
街の門をくぐり、ゆっくり歩きながら街並みを見ていると、レンガ造りや石造りの街並みが並ぶ。
現実世界では無骨なビルばかりで、ゴミゴミしており海外じゃ無ければそういう建物なんて間近に見ることは無かったわけだ。そういう意味ではこうも手軽に(?)旅行気分が味わえるのはいいなと思ってしまった。
ちなみに街の構造などは最初期のころとは違い、変な構造体や景観ぶち壊しの余計なガイドが無いのもグッド。ちゃんと改善してくれたようだ。
そういえば、この辺はブチョウが国外の様々な外注に手配して、点検もせずに無理やり組み込んでたみたいだけど、エリアのつなぎ目も目立つことなく、自然な感じでつながっているように感じられた。
今のところは……。
と、そんなことを思い出しつつ、ギルドに戻ってきた。
ギルドカウンターに行き、ふくよかな女性シルヴィアに話を伺うとするが、
シルヴィアはもくもくと下を向き、何かを記入している様子であった。
カウンターの前に立ち、シルヴィアに話しかけた。
「こんにちは、シルヴィアさん。スライム1,000匹やってきましたよ」
はっ。と顔を上げ、シルヴィアはその手を止める。
「こんにちは、シンさん。スライムの討伐ご苦労様でした。
それでは、各人の職業カードを提出していただけますか?」
と、言ってきた。
全員分のカードをカウンターのシルヴィアの前に差し出す。
「それでは、ちょっと預かりますね」
シルヴィアはそう言うと、横の装置へとカードを入れると、手元のキーボードで何かを入力していく。
「なんだか随分アナログなんですね……」
俺は思わず言葉を漏らした。
シルヴィアはキーをパチパチと叩き、コンソールに目を凝らしながらに言った。
「そんなこと無いですよ。こうしてキーを叩いて入力し確認することで、その数値が適正であるかの確認も行えるんですよ。それにこの方が雰囲気出るじゃないですか」
これはもうAIなんだかNPCなんだか一般人なんだか良く分からなくなってきたな。
シルヴィアは各人のカードをカウンター上に並べられていく。
「これは、シンさん、これはユウさん、これはミーナさん、これはブチョウさんですね」
そう言うと、せっかちなブチョウがシルヴィアがカウンターに置こうとしているカードを手から取った。
「おっ、サンキューね。シルヴィアちゃん」
と、その時、ブチョウとシルヴィアの指と指が少し触れたのだが、ブチョウがビクッと体を震わせると体が崩壊した。
「ブ、ぶべらっ!」
変な叫びを一言言い残すなりギルドの外にあるスポーン地点からリスポーンした。
シルヴィアは両手で口を塞ぎ、驚いた様子で声を漏らした。
「ひぃぃぃ! 。び、びっくりしたぁ……」
カウンターにいる細身でスタイルの良い金髪の女性が、シルヴィアの横からひょっこり現れた。
「これは、アレね。ハラスメント№1192だね」
右手でかき上げたふわっとなびくその波打った髪からは、甘いムスクのような香りとキレイなうなじ……、俺はその白いうなじに視線をやると、ゴクリと息を呑み少し顔を赤らめ訊いた。
「は、ハラスメントとは……いった、ゴバァ!」
叫ぶ女性陣。
「きゃあああぁぁぁ!」
――ドシャア……
崩壊する体、うっすらと薄れ行く意識。
そしてあたりには見慣れたキレイな草原と、草むらからひっそりその影を覗かせプルプルと震えているスライムが居た。
「くっ……、うっ……、うおぉぉぉぉぉぉ!」
俺は叫ぶと、俺はギルドへ向かって全力疾走した。
そして、颯爽とギルドに到着、この間3分である。
「ハァハァ……。地味に遠いんだよこのギルド……」
そんな心の声を漏らしながら、ギルドに入るとすでに崩壊したブチョウが抗議していた。
「少し触れただけじゃ無ないか! 何もやましいことは考えてないぞ!」
良く分からないスイッチが入ったのか更年期なのかさきほどの金髪の女性に再び抗議している。
女性は落ち着いた様子で、ブチョウに説明している。
「決まりは決まりですので、システムがそう判断したのであればそれにしたがっていただかないと……」
ブチョウに駆け寄り後ろから羽交い締めにする。暴れるブチョウ。
「ほらっ! ぶ、ブチョウ! ちょっと落ち着いて下さいよ。ほかのお客さんもみてますよ! 恥ずかしいですよ!」
「くっ。はなせ! シン」
そう言って振りほどくブチョウ。
「こちとらなにもしてないのにいきなりハラスメントとか言われたら、そりゃ抗議もしたくなるだろよ……」
こちらを見ながら嘆いているブチョウ。
「いやね、俺もほんの少し……、その……、うなじに目がいったんですが、有無を言わさずその後崩壊しましたからね」
とブチョウに説明。
「お前のはハラスメントで良いんじゃね?」
ブチョウは呆れた様子で言ってきた。
「うっ。ま、まぁ。ちょっと顔が赤くなりましたけども、そんな卑猥な目で見ていませんよ……きっと」
と、ブチョウに対して自信なさそうに言うと、先ほどの金髪の女性の前に行き、改めて訊いてみることにした。
「さ、さきほどは、すみませんでした。ええと……。その……、ハラスメントの件についてなんですが、詳しく教えていただけないでしょうか」
視線を若干そらしながらそう言うと、金髪の女性はニッコリ笑い口を開いた。
「私は『カイラ』、よろしくね。残念ながら、こうした公衆の面前では、いじめや嫌がらせ、不純な行為や行動、思想を持つだけでペナルティが科せられるの。で、さっきのハラスメント№1192は職員に対して触れるってことね。差し詰めあなたが受けたのは、№794の思想に該当するのかしら。ほかにもいくつも細かいのがあって、視界に入れちゃ駄目だの、あれやっちゃダメだのいろいろあるのよ、さすがに多すぎて全部は説明できないわ」
と、左手を口元にあて考えるような仕草で語り、シルヴィアの頭をポンポンと叩いた。
すると、シルヴィアは自身の髪を人差し指でクルクルと円を描くように触りながら言った。
「実は、ハラスメント自体は普通に接していればそれほど影響ないけど、正直それらにおけるペナルティの方がキツいの。例えば、リスポーンする度に、自身の何かがいろいろ失われていくって事よ。細かく例を挙げるとするならば、熟練度だったり、お金だったり、髪だったり……とかね」
ちらりと横目にブチョウを見ると、顔が青くなっていくのが解った。
ユウもミーナも無言になり、少し表情がこわばっている。
シルアヴィアは、人差し指を髪から離すと、カウンターの下から小さな箱を取り出し言った。
「と、そういうわけで目安箱を用意してみたの。入口横に置いておくから、小さな不具合から、大きな不具合、今回の件でもなんでも良いから紙に書いて入れておいてね。一人の意見じゃダメだけど、同じような事例がある程度集まると改善されるかもね」
シルヴィアはニッコリ笑うと、隣のカイラがゆっくりと、俺の目をじっと見ながらカウンターから身を乗り出してきた。
「へんなことを考えると命取りだから注意してね。まぁ、あなたには関係ないみたいだけど」
と意味深な言葉を発した。
「う、うぅ……」
身を寄せてくるカイラから反射的に後ずさりをすると、ふくよかな胸元が思わず視界に入った。
そして、ビリッとした感覚がしたかと思うと再び体が崩れ去っていった……。
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