第2章 それぞれの職業と一日
第6話 味噌汁と復活の部長
再び目を開けると、何故かごく建物内の椅子に寝ていた。
ゆっくりと立ち上がるとあたりを見渡した。
先ほどの建物のようではあるが、様子がおかしい。
何故か建物は総木製、築数十年のログハウスと場末の飲み屋みたいな感じである。
吹き抜けは相変わらずで2階だけが出現しているが、天井だけが恐ろしく高い。
バグを入力するコンソールの跡地には、デパートのサービスカウンターみたいものがあり、天井からは電子機器がぶら下がっていた。
それと、多数の人々が忙しなく働いているようであった。
――みんなはどうなったんだろう。
そう思いながら、周りに目をやると、椅子に横たわる高橋さんと、佐藤さんがいた。
高橋さんは頭を押さえながら起き上がった。
「いたたた――。急に頭を何かで叩かれたような感じ……」
佐藤さんも朦朧としながらゆっくり体を起こした。
「いったいなんなのよもう……」
それと何故か部長が居た。
何故かスーツを着ているようだが、上着とワイシャツの両腕はすっぽり抜け落ち、肩のところがバサバサにほころんでおり、肌が露出している。ズボンはというと、裾ところだけがボロボロになっており、穴の空いた革靴を履いていた。
「何があったんだろうこの人……」
思わず呟いた。
そんな部長であったが、入口の横側、階段のすぐ横の薄暗い場所に、横たわり暗い顔で地面を見つめながらブツブツ言ってる。
「994470……、994472、994473、994474……」
「ぶ、ぶちょう! 山田部長ですよね?」
部長に近づき声を掛けた。
「99454……、あ、アあァァ……。ふ、ふじい?! 藤井か? よかったあぁぁ!」
泣きながらすがりついてくるなり、部長はこれまでの経緯を話し始めた。
被験者たちをスタートさせる時に、デスクにあった味噌汁入りの水筒に肘が当たり、コンソール上にこぼしてしまったそうのだ。塩分控えめということを必死に強調していたがそんなことは関係ないだろう。
後被験者達は、急いで隔離されバックアップ回路に逃がし、システムをロックして中断。その後機械を洗浄して導通テストをしたうえで、システムを何度か再起動したのち、我々をもとの回路に接続するなり、責任を感じて部長自ら予備の機械でログインしたのだという。
だが、ログインしてみたものの、草やオブジェクトは完全に位置が固定化され、柔らかい草の葉の上をや、水の上などが歩ける状態であったという。
街にたどり着くもやはり全てが停止しており、NPCやオブジェクト、社員に至るまで全てが停止しており、これはマズいかなーと思いながらメニューからログアウトをしようとしたけどメニューが表示されなかったらしい。
そのうち復活するかもと、筋トレや素振りをしては時間を過ごし、いろんな動きをしてメニューが出せないか試してみたり、街を寝そべった状態で転がったり、高いところから飛び降りてみたけど、痛いだけでログアウトできる気配もなかったそうだ。
そうして街を転がってはいろいろな建物内を観察していたら、最初に行く場所を思い出し、うちらを見つけたらしい。だが、例のごとく全く動かないので寂しくなり、ここでずっと素数以外を数えて過ごしていたのだという。
「と、とりあえず動き出したようだし、これでログアウトできるんじゃないですかね?」
そう部長に語りかけた。
部長は安堵した様子で『設定画面』いとも簡単に出した。
それは、我々が幾度となく苦労しながら出さんとしていた『設定画面』をたったの1回で出しのだ。
やはりこのクソ設定は部長の仕業だったか……。
湧き上がる怒りをグッと抑えながら俺自身もログアウトを探した。
「おっ。あったあった!」
はしゃぐ部長。
「悪い悪い、ちょっとログアウトして外の様子を見てくるわ」
言い残すと体が消え、ログアウトをしていった……かのように思えた。
良かった良かった。そう胸をなで下ろしていると、外から部長の叫び声が聞こえてきた。
「……ォォオオオオオ!」
観音開きのドアが大きな音を立てながら開き、ログアウトしたであろう部長が凄い見幕でで入ってきた。
「ログアウトできないぞ藤井ぃィ!」
「うわぁ、ビックリしたぁ!」
変な声が出た。
部長が必死になって説明する。
「ログアウトを実行したら、目の前が急に赤くなってな、気がついたら、すぐそこのスポーン地点に立ってたんだわ……納得いかないからもう何回か試してくる……」
そう言うと、部長は再びログアウトを実行し、外のスポーン地点から再出現した。
呆然と立ち尽くしている我々をよそに、そのままスポーン地点で繰り返しログアウトを試している部長。何度も体が消えたり出現したりしている。
そんな部長の様子をじっと目をこらしてみていると、
その度に小さく[-1]という数字が、表示されては消えていっているのが見えた。
「ぶ、部長ォ! 頭から謎のカウンター出現してますって! なんだか嫌な予感がするんでその辺で辞めておいた方がいいかもしれませんよー!」
はっとした表情になりとっさに叫んだ。
「えええ!? 俺何か出てるの?」
部長は驚いた表情で、見上げると幾つもの[-1]が空へ登りそして、消えていった。
「俺のマイナス1がああぁ!」
部長から良くも分からない叫び声があがった。
そして、一同に深い沈黙が走る。
「こ、こうしててもしょうが無いんだし、バグ報告したら元に戻るんじゃない? 装置のあったカウンターに行ってみようよ!」
そういうと前向きな高橋さんがと言うと、佐藤さんも続けて言った。
「そうよね。こんなところで突っ立っててもしょうが無いし」
そうして、良く分からない状態になっている部長を無理矢理連れ、バグを報告する端末があったと思われるカウンターに行った。
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