第4話 設定確認と震える壁
俺は暫く歩いたところで、気がついた。
「そういえばフルVRなのに、なんでこの持病の腰痛が治らないんだ?」
首をかしげながら高橋さんは言った。
「なんでかな? そういえばわたし、酷い腱鞘炎だったのに今は痛みがないよ」
黒田もつづけて言い放った。
「極度の痛覚はゲームとしては不要なので遮断されているハズだと思うんだけど、個人差があるのかも……」
説明している黒田をよそに、日野が腰をつねる。
「あいたたたた! 何をするんだ日野くん!」
日野は笑いながら黒田にあやまっている。
「ゴメンゴメン。実際に痛みがあるのか確認してみたかったんだよ」
そこにすかさず佐藤さんが突っ込んだ。
「日野はそうやって乱暴しないの!」
(そういえば一気に死ぬときは、ビリッときただけだったな。ある程度のリアリティを出すために弱い痛覚はそのまま伝わり、死ぬほど酷い痛みは遮断されるのか? 試したくはないが、後で自分を使っていろいろ試してみることにしよう。)
「まぁまぁ、痛覚関係は俺も黒田も死にまくったから後で試してみるとして、今のうち設定のショートカットを再設定しておこうか。またあんな動きしたくないし」
そう言うと、各々は奇っ怪な動きをして設定を出したのである。
ふむふむ。
設定値的には、コントラスト、ブライトネスがおかしかったぐらいで他は問題は無かったみたいだな。
言語も被写界深度、各設定値も正常。あとはショートカット関係か……。
なるべくは腰に負担をかけるような動きをやめて、別の項目にしておくか……と。
で、なになに。アイテム欄を出すときだと……
「かかとを付け90°につま先を開き、頭に両手を大きく上に上げ、手の先を頭頂部につけるようにして、腕でハートを描くようにした状態で、腰から45°にお辞儀……か……」
設定の出し方と同系統なところに部長の適当さと悪意を感じるな……。
とりあえず、適当に変更しておくか。
佐藤さんが突然苛立った声を出して叫んだ。
「あー、もう! クソ部長にあったらぶっ飛ばしてやる!」
黒田はあきれ顔で呟いている。
「きっと、コンソール前でほくそ笑んでるんだろうよ……」
そして、愚痴をこぼしながら相談して出来上がったのが――
メインメニューは『人差し指と中指で空間をタッチしたのち、薬指を加え三本にしてタッチしたらそのまま下に下ろす』という手段だった。
アイテム欄は、いちいちジェスチャーを使うのだが『右手でグーを作り親指を立て、左手でパーを作りそこに右手の親指を押し当てる』という手段にしてみた。
スキルや魔法はそもそも非表示になっているため設定すらできなかった。
とりあえず、一部の項目を含む残りのどうでも良いものは、全てメニューにぶち込んで、 そこから直接選べるようにした。いきなり複雑な動作覚えられないし。
大きくため息をつくと疲れた様子で言った。
「ふぅ……。行動にも干渉しないし、これでいいんじゃないか」
日野は、右手を口元までもっていくと首をかしげて言った。
「そういやさ。さっきから探してるんだけど肝心のステータスウインドウとか、チートとかいう項目が無いんだけど、どうやってテストしてバグ報告していけば良いんだろうなこれ……」
確かにそうだ……と、設定を眺めながら呟いた。
「そういや名前や職業、現在の状態とかないな……。今あるのはマップのみか」
高橋さんが呆れながら言った。
「まず、例のギルド行ってから、職業とハンドルネームを決めるのよ。まったくもう、みんなちゃんと仕様書くらい読まないとダメだよ」
そうだったのか……。
俺を含む男連中は全員仕様書を見てこなかったらしい。
「とはいえ日野くんの言うとおり、チートコマンド自体が存在しないのは不安でしかないんだけど、ギルド? とかいうところまで行けば復活するんかね。早く行ってみようよ」
そう言うと、高橋さんが歩き出した。
遠くの山からはサラサラと流れる大きな川が流れており、途中から分岐したかと思うとそれは街の中へと続いているようだった。
そして、その街の上空には景観ぶち壊しの『赤い下向きの発光している矢印』が上下に揺れていた。
これは部長の親切のつもりなのかもしれんが、せっかくの景色は台無しだな。
一応、報告しておくリストに入れておくか……。
心の中で呟いた。
そして5分ほど歩くと、街を守るであろう大きな壁と門が立ちはだかった。
入口には門兵らしき銀色と赤のラインの入った甲冑を着用しているNPCが立っていた。
少し近づくとこの門兵の異変を感じた。
1人だけ半身壁の下側に埋まっており、なんだかガクガクしている。
さらに近づくと、埋まっていない兵士が声を掛けてきた。
「ようこそ。私は『エーギル』、ここは、『エーテルヴィル』冒険者の街だ」
RPGにあるまじきよくあるセリフである。
もう一人の兵士がいない。そう思った矢先、上から声が聞こえた。
「わわワ私は、『ヨーゼフ』みみみ見たところお前らは初心者のようだな。矢印の下にいけケ……」
行動しようとすると、上方向に引っ張られていくらしい。
一言一言言葉を発するたびに上昇していく。
みんな顔を青くしながら不安そうに立ち尽くしている。
とりあえず、上でガクガクカしている門兵の方を見て声をかけることにした。
「だいじょうぶですかー!」
壁の兵士ヨーゼフは喋るたびさらに加速するように上昇していく。
「わわわわワ私はだいじょうブだ、速くギルドに行くといいイ!」
そう言うと、アーチ状の天井部分で一旦固まったようだ。
「マズいよ藤井くん! あまり声を掛けすぎると大変なことになっちっちゃう!」
黒田はそう言うと、門にの壁に掴まった。
その時であった、壁と周辺の地形自体も地震のようにガタガタし始め、立っているのも困難な状態になりつつあった。
一向に収まらなそうなガタガタ震える地形に皆しゃがみ込み耐えている。
その時であった。壁に掴まっていた黒田が徐々に壁の中に吸い込まれようとしている。
「は、早くこの状態をとめてくれー!」
黒田はそう叫ぶと、壁に半身が埋まり、ガタガタしていた。
俺は黒田を心配しながらもとっさに動いた。
「まってろ黒田! 今すぐギルド行ってなんとかしてくるから!」
そう叫ぶと、黒田を残し、高橋、佐藤、日野とともに走り始めた。
――
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