第2話 ヤスとの会話/夜の大学の情景

 「……」


 オレはヤスを見た。


 ヤスの黒い髪の毛には、金色のメッシュ。染めたてらしく、かなり明るい。加えて服も黄色と紫を基調とした謎に派手な井出立ち。


 そのため実際のところ、ヤスには視線がよく集まる。もちろん、澤北澪のような視線とは違うものだが……。


 ……ヤスの髪の毛が、なぁ。てかこんなんで、新聞記者勤まるのか?


 「ど、どうする?」


 オレが金色に染まった髪の毛の部分を見ていると、ヤスが言った。


 「えっ、ごめん、どうするって?」

 「んなもん決まってるだろ!澪ちゃんを助けるかどうか、だろ!」

 「澪ちゃんて……いやいや、お前さ、ちょっと考えてみろって」


 オレはヤスに言った。


 「お前も新聞社なら、分かるだろ?美女って、その周りで嫉妬とか妬みとか奪い合いとか、そういうのが渦巻いて大変なんだぜ。もしヤスがそれであの人にアプローチしてうまくいったとして、そしたら、いまナンパしてる男はどうなるよ?」

 「なんだよお前、分かったふうな」

 「ネット情報だ」

 「ネット情報を鵜呑みしてはいけません!」

 「出た、高校で一度は聞くヤツ。……あっ」

 「あっ」


 ヤス話していると、彼女は友人に連れられ、行ってしまった。男は頭をかきながら、別の方向へ。


 「行っちまった!」

 「あぁ、フラれちゃったかな~」

 「おい!そんなこと言ってる場合かよ!」

 「えぇ?」


 若干興奮気味に、ヤスが言う。


 「こっち見てたんだぞ!コッチ!」

 「いやまあ、たしかに見てたな。ああいう視線のほうが、かえって分かりやすいな。あと、確実お前のこと見てたと思うよ、ヤス」

 「えっ!あるの?これ、ワンチャン、あるの!?」


 ……お前というより、髪の毛が派手なだけだと思うけどなぁ。


 「まあ、オレとヤスだったら、ヤスを見てたのは、間違いないと思う」

 「……決めた。今度、澤北澪とすれ違ったら、俺も、声かけて……!」

 「いや、え……まったく、勘弁してくれよ……てか、買おうぜ、パン」


 レジへ。


 「230円になりま~す」


 オレとヤスはそれぞれ、思い思いの品を購入。


 学生ステーションを後にした。


     ※     ※     ※


 夜。


 ――ブゥゥウウウン……。


 白塗りの建物の、出入り口の大きな自動ドアが開いた。


 「終わった終わった~」

 「ねえ、お昼どうする?」


 学生たちが、続々と出てくる。


 「学ステ2階のレストラン、どう?」

 「いいよ、いこいこ」

 「たぶん混んじゃうだろうから、ちょっと急ごっか!」

 「オレ、ちょっと自主練してくるから、ここで~」

 「うん、じゃね~!」


 皆、それぞれ、思い思いの道をゆく。


 「……」


 そしてその中に、オレもいた。


 講義を終えたオレは、今いる学部棟が建ち並ぶエリアから、クラブハウスのあるエリアのほうへと、歩いていった。


 その先に、下宿している男子寮がある。


 ――ブォ〜。


 吹奏楽系の、なんの楽器かは分からないが、誰かが練習している音が聞こえる。


 ――ドドド……。


 大学の敷地の丘陵を利用してつくられた、すり鉢状の野外音楽堂のほうからは、ドラムの鼓動。


 「……」


 少し進んで、街灯の下、キャンバスに向かって、絵を描いている女子がいる。


 その横のベンチでは、男子が寝転んでいる。


 ――タッタッタッ……。


 かと思えば、スポーツウェアを来た数人の男子が、俺の目の前を通りすぎる。そのまま、照明光るグラウンドへと走っていった。


 大学内を歩けば、いろんな景色が次から次へと変わってゆく。


 皆が活発に活動している光景が、そこにはあった。


 「……んっ?」


 ふと前方を見ると、通りの先で、人だかり。


 視線は、一方向に集中している。


 「なんだ?なにかあるのか……あっ」


 やはり、澤北澪がいた。

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