第3話 事件

 本日、2度目の登場。


 オレンジのぼんやりした照明が、彼女の美しい顔を照らしている。


 だが、昼の学ステで一緒にいた、女友達はいないようだ。


 そして、その上で、複数の男に取り囲まれている。


 男の中にはガタイのいいのもいて、みんな彼女に対して距離が近かった。彼女に触れるか触れないかくらいの近さ。


 「あ、あの……」


 ひきつる笑顔の中に、少し、怯えているような、そんな表情が澤北澪に見受けられる。


 「おい、あれ、ナンパって感じじゃねえだろ……!」

 「ああ、穏やかさを感じない……!」


 オレの近くにいた男たちが言った。


 「……」


 オレは周りを見渡した。


 ……他にもギャラリーは、たくさんいるなぁ。


 ここは、大学の構内。


 ……うん、まあ、誰かがなんとかしてくれるだろう。


 「……」


 澤北澪をナンパから助けようとしている、周りから見ている男らを、オレは少しの間、見ていた。


 どうやら、介入するきっかけを待っているようだ。


 ……う~ん。アイツらも、アイツらだ。


 彼女を助けてあげたいという紳士な姿勢の奥に……どこか、怪しく、だらしないものもオレには見えた。


 「……」


 あの感じでは、ナンパしている男たちも、その周りでいいところを見せようとしている男たちも、正直のところ、一緒だろう。


 「……」


 そして、その渦中にいる澤北澪その人が、心底、気の毒に思えてしまった。


 ……美人って、いいことばっかじゃ、ないんだな。


 どう転んでも、あれでは……。


 ……はぁ、仕方ないかぁ。


 俺はスマホを取り出しつつ、その場を離れた。


     ※     ※     ※


 「あの、すみません、急いでて……」


 澤北澪は言うと、むさい包囲網を解こうとして歩き出した。


 「ちょ~っと!ちょっとちょっと!」

 「大丈夫!まだバス来ないって!それに、終電過ぎても送ってくから~!」

 「いやむしろさぁ!」


 男たちは澤北にひっついて歩き、彼女の進行方向に肉壁をつくり、歩き続けようなら男に触れるか止まるかしかできない状況をつくっている。


 「おい!お前ら!」


 とうとう、周りの男たちの一人が前に出た。


 「いい加減、彼女から離れろよ!」

 「あぁ?」

 「んだよお前」

 「その子から離れろっつってんだ!!」


 周りの男たちも殺気立つ。一気に修羅場になってゆく空気感。


 だが次の瞬間、


 「おい!お前たち、一体なにしてるんだ!」


 警備員と大学職員が数人、駆けつけてきた。


 「君たち、ちょっと、教務課まで来てもらおうか」

 「あぁいやなんていうか別に声かけただけというか……」

 「チッ、おい、いこうぜ」


 男たちは澤北から離れ職員と問答した後、逃げるように去っていった。


 「……」


 そしてオレは少し遠め……皆の見えない茂みのところから、事をおさめる光景を眺めていた。


 ……いやまあ、普通、呼ぶでしょ。


 学生間のトラブルなんて、学内なら大体これで解決する。そもそもそれをしてないこと自体、おかしい状態だったのだ。


 しばらくして現場は、何事もなかったように人が行き交う通りとなった。


 いつの間にか、澤北澪の姿もなくなっている。帰ったか、職員の人に同行でもしてもらっているだろう。


 ……おけおけ、問題解決っすね~。


 オレは見届けると、何事もなかったように、茂みから出てそろそろと歩き出した、


 「あの……」


 ――ビクッ!!


 ……ヤバい!!えっ!職員呼んだのバレて……!


 「す、すみません……」

 「……えっ?」


 振り向くと、澤北澪が、オレの目の前に立っていた。

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