第11話ソーン村へ

「氷結!」


 腕を前に突き出す。氷塊は勇者の剣に命中し砕け散る。

 今日も今日とて私は勇者と一緒に特訓をしている。


『距離を詰めろ』


 あぁ…あとこいつもね…


 偉そうな言い方には腹が立つがこいつの指示は非常に的確だ。

 だがまだ勇者の反射神経には追いつけない。距離を詰めて突き出した拳はヒラリと躱され、振り上げられる剣を見上げる。


「ッ…」


 私の負けだ。木製の剣は私の頭にコツンとぶつかる。少しの痛みと悔しさが込み上げ、それを流し出すために溜息をついた。


「大分戦えるようになったな。初めて戦った時と全然違う」


 4回の特訓で、私は4回褒められている。


「もう少し柔軟な判断が出来ればかなり良くなるぞ」


『は?私の判断が柔軟じゃないだと?』


 キレ散らかす️もう1人の私をシカトして、「わかりました」と一言言うと、突然やかましい鳴き声が空から聞こえてきた。


「ユウシャ!ユウシャ!イライ!!オネガイ!」


「インフォバード!」


 アレがインフォバード…色はカラスそっくりだが大きな羽に見合わないボールのような丸い胴が目立つ。

 黄色いクチバシをパクパク動かしやかましく叫ぶインフォバードは、音を立てながら勇者の足元にちょこんと止まった。


「ソーンムラ!ドロボウ!サクモツガトラレル!ガァ!ガァ!!」


「はいはいソーン村ね。了解」


 やかましく鳴くインフォバードの頭を撫で落ち着かせる勇者。

 インフォバードは満足したのかバサバサと羽音を立ててどこかに飛び去って行った。


「よし、行くか」


「はい!」



 何十分か歩き、小さな村に入る。

 勇者の姿を見て目を輝かやかせる子供たちに、私を指さして何かを話している大人たちが見えてきた。


「お〜い!」


 声の方向に目を向けると、畑の方から麦わら帽子を被った中年男性がこちらに走ってくるのか見えた。恐らくあれが依頼主だろう。


「いやぁありがとうございます!えぇと、最近作物が――見てもらった方が早いですかね。畑に向かいましょう!」


 ペコペコと頭を下げながら早口で話す依頼主は、くるりと背を向け、畑の方に歩き出した。


 カノン女王が国々へ私は悪者じゃないと伝えてくれたおかげで、直接攻撃されたり避けられたりすることは無くなった。

 だがいい事ばかりではなく、やはり一部の人達は槍のような視線を私に飛ばしてくる。信用してもらうには時間が必要そうだ。


「ここが畑です。見ての通り畑はモンスターに荒らされ、作物が1つもないのです。このままでは食料もじきに無くなり、ソーン村は壊滅の危機に…!ということわけです…」


 作物が埋まっていた部分は乱雑に掘られており、葉っぱや土が辺りに飛び散っている。


「こりゃひどい…爪で掘り起こされてますね。モンスターの仕業で間違いないです」


 掘り起こされた部分を見つめながらそう呟く勇者。依頼主はやはりそうか。と息を漏らした。


「モンスターは僕達で対処します。あとは任せてください」


「わかりました。…あ!自己紹介がまだでしたね。私はこの村を管理しているノギーと申します。普段はあの集会所にいますので、何かあれば言ってください」


 ノギーさんが指を刺したのは大きめの木造の建物。倉庫らしきシャッターは閉まりきっておらず大きなクワがはみ出している。


「今日は村の宿に泊まってください。モンスター討伐、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げるノギーさん。私達は一礼した後宿に向かった。


「お、いらっしゃいませ!」


 中はオレンジの照明で照らされており温かい雰囲気を感じる。

 受付からこちらを見ている細身の男は明るい笑みを浮かべて私たちを待っていた。


「お待ちしておりました!お代はいりません。1番良い部屋を取っておきました!」


「おぉ!ありがとうございます」


 勇者が礼をする。私も頭を下げて感謝の意を伝えた。


「鍵はこちらです。ごゆっくりおくつろぎください」


 渡されたのは2本の鍵。これがもし1本だったらカノン女王はさぞ喜んだことだろう。



「ヘックショイ!」


「女王様!風邪ですか!?」


「いや、大丈夫だよ…」



 鍵を差し込み、回す。カチャリと音を立ててドアが施錠された。


「それじゃあ夕飯までゆっくり休もう」


「わかりました」


 ドアを開け部屋の中に入る。中は綺麗に整えられており、壁には金色の豪華な装飾が施されている。

 これが1番良い部屋。テレビでしか見たことの無い光景を目の当たりにして歓喜の息を漏らした。


「うへへ…」


 素でだらしない声を漏らす。掛け布団が綺麗に畳まれた上品なベッドへ歩みを進める。


 いち、にの、さん。


 ボスッ。


 こりゃたまらんですわぁ………


「スピー…」


 ベッドに抱かれ、私は夢の世界へと落ちていった。






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