第9話いざ戦闘開始
「ガアッ!」
威嚇してくる野良ゴブリン。咆哮とともに右手に持っている短剣を振りかざしてきた。
少しビビりながらもそれを躱し、右ストレートをゴブリンの右腕に放つ。拳にゴブリンの硬い皮膚の感触が伝わってきた。
人生で初めての右ストレート。少し不安だったが効果はあったようで、ゴブリンは短剣を手放しよろめきながら後ずさりをした。
戦闘に慣れるために勇者と一緒に森へ野良モンスターを倒しに来て最初の敵。
ひとまず「至近距離で氷結を使ってはいけない」ということは学んだ。凍った指先がそれを訴えかけている。
私の足元に転がっている短剣を目掛けて駆けてくるゴブリン。
咄嗟に短剣の柄の部分を蹴って遠くへ蹴り飛ばした。
「いい判断だ!」
後ろで見守っている勇者が嬉しそうに言う。
「ありがとうございっ…ます!」
言いながらゴブリンを殴る。ゴブリンは1メートル程先に吹っ飛び倒れ込んだ。
「よし!あとはスキルでとどめを刺せ!」
「はい!氷結っ!」
手元にひし形の角張った氷塊が現れる。腕を斜めに振り上げそれをゴブリン目掛けて飛ばした。
結果は命中。小さく断末魔を上げたあとゴブリンはピクセル状になって消えた。
「スキルの使い方はわかってきたようだな」
「はい。ですがもう少し開拓が必要そうです」
遠距離攻撃がしたければそれ相応の形になる。自分がしたい攻撃方法にふさわしい形に変化するようだ。
「基本的にモンスターは固有の武器や能力を持ってる。素手で戦うのは危険だ。まぁ、ゴブリン程度なら素手でも戦えるな。…よし、もう少し森の奥を探索するぞ」
そう言って森の奥へ向かう勇者。私も後を追い薄暗い空間へ歩みを進めた。
数分歩いたあと、やけに開けた空間に出た。勇者はアイテム回収のため背負っていたバックから木製の剣を取り出し私の前に立つ。
――なんだか嫌な予感。
「俺と戦うぞ。それが一番手っ取り早い」
「え?」
「安心しろ。剣は木製だ」
いやいやそういう問題じゃ――
「始めるぞ。俺に攻撃を一発当てたら勝ちだ」
「えっ、ちょっ――」
勇者は姿勢を屈め一気に私の足元へ。振り上げた剣をのけ反って躱した。
「悪くない反射神経だ」
勇者は次の一手を準備する。このまま近接戦をするのはマズイ。
すぐに後ろに下がり、氷結を発動する。
「氷結!」
氷塊を勇者目掛けて3発飛ばす。しかし全て剣で弾かれた。遠距離攻撃は意味がない。
遠近どちらも対策される…弱点がない。
――いや。弱点は探すんじゃない。作るものなのかも。
そうと決まれば。
「氷結!」
目の前に氷の壁を作り出す。その後氷塊を扇状にばらまいた。だがそれを放つのではなく、その場に留まらせる。
「おいおい当たってないぞ?」
勇者が剣で壁を叩く。ヒビが入り音を立ててバラバラに砕け散った。
今。
氷塊を放つ。剣を振り下ろしたばかりの勇者はそれをギリギリで守った。
「ハハッ!面白いことするじゃないか!」
クソッ。防がれると思ってなかった。
間髪入れずに氷塊を数発放ったがすべて無惨に砕け散っていく。
まだ。まだもう少し――
「痛ッ!」
限界か…
「それじゃあ無理だな。勝負は引き分けだ」
勇者は剣を下ろしバックからマッチ棒を取り出すと、それに火をつけ私の腕に近づけた。
雫が地面を濡らす。勇者は解けて薄くなった氷を石で軽く叩いた。
氷全体にヒビが入り、程なくして砕けた。腕が一気に軽くなる。
「相当キツイデメリットだなこりゃ…どうにか対策法を見つけないと」
赤みを帯びた私の腕を見ながら勇者が言う。数発でこれならどう動けば良いんだろうか…
「前のヨドンナとは明らかに限界までの時間が短い。絶対に何か方法があるはず。それを探すところからだな」
「わかりました。定期的にここで特訓しましょう」
「あぁ、そうだな」
「ッ――!?」
突如、頭に鈍痛が走る。顔をしかめていると、勇者が振り返ってこちらを不思議そうに見つめているのが見えた。
「どうかしたか?」
「いえ…?特に何も…?」
困惑で歪んだ表情を無理やり整え、さも何も起こってないように見せる。
いきなり運動したからかな。
そう自分を納得させながら帰路についた。
『アハハ…!ようやくお前に会えそうだ……」
彼女は喜々としている。
邂逅の瞬間は近い。
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