第6話Let's飲酒!!!
「んぁ……」
「あ、起きた」
寝起きでまだぼんやりとした意識の中、長時間の睡眠で重くなった身体を持ち上げる。
「顔洗ってきます…」
「あぁ、そこにある着替えも持っていきな。顔洗うついでに着替えておいで」
机には綺麗に畳まれた部屋着が置いてある。それを抱え洗面所に入りドアを閉め、冷たい水で目を覚ました。
閉めたドアの向こうからガタゴトと音がする。その次にカランコロンと軽快な音と共に何かが机に置かれる音が聞こえてくる。
物音は脳内で「冷蔵庫からお酒を取りだし氷の入ったグラスをテーブルに置く音」に即座に変換された。
用意周到。私が寝ている間に色々準備してくれてたのだろうか?
勇者の良心を噛み締めながらサッと部屋着に着替えリビングに戻った。
「お酒に強いのかわからないからとりあえず弱いのと強いの買ってきたけど、どっち飲む?」
言っておけばよかったと少し後悔を感じながら「強い方で」と即答する。
勇者はテーブルに置かれたロング缶――ロング缶!?ゲームの世界にロング缶!?
「ど、どうした?」
驚きは顔に出ていたらしく、勇者が不思議そうに訊いてきた。
「あ、いやその、そんなに大きい缶があるんだなぁ…って……」
「あぁ、普通のサイズいっぱい買うよりこっちの方がいいからな」
「なるほど……」
私は嘘が下手だと勝手に思い込んでいたが…そもそも記憶喪失なんて嘘を突き通せてる時点で下手ではないのかもしれない。
「あ、おつまみ買ってない」
「それはマズイですよ今すぐどうにかしないと」
「いや…うん。ほんとに」
私にとっておつまみがない飲酒など言語道断。早口で捲し立てると勇者もさぞ困った様子で腕を組んだ。
どうやら私と同じタイプらしい。
「店もこの時間閉まってるしな…あ、ドラゴンの肉あるじゃん」
「え」
ほう…異世界生活最初の飲酒のおつまみはドラゴンの肉。なんだこの字面。
「え、ドラゴンの肉っておつまみになるんですか?なんかこう…ステーキとかにするイメージが……」
「まぁ、ドラゴンの肉だけじゃおつまみにならないな…なんか他に……」
一旦お酒を冷蔵庫に戻してから冷蔵庫の中を漁る勇者。どうやら何か見つけたらしく、袋に詰められた緑の何か……アスパラだ。あの緑で細長いフォルムは間違いなくアスパラだ。
「これをドラゴンの肉で包めばそこそこなおつまみになるだろ」
そう一言言うと勇者はササッと準備をし料理を始めた。
◇◇◇
「よし、完成」
「おぉ…!」
1口サイズのアスバラに薄く切ったドラゴンの肉が巻かれ、艷やかな茶色のタレが電灯の光を反射し輝いている。
「割と時間かかったな。申し訳ない」
「いえいえ」
飲酒の為なら30分なんてあっという間よ!
箸とロング缶をテーブルに置き、グラスに氷を追加して椅子に座る。
「「いただきます」」
缶のプルタブに指をかける。ワクワクしながらそれを持ち上げるとあの気持ち良い音が鼓膜に届く。
それに続き勇者もプルタブを開け快音を響かせた。
さ~てグラスに注ぎ――!?
わわ!勇者が!お酒を氷に当てて注いでる!?
「あちょっとストップ!」
「え?」
勇者は手を止めぽかんとした様子で私を見る。自覚していないのかッ…
「その注ぎ方はタブーですよタブー!ちょっと借りますよ。注ぐときはこうして――」
グラスを傾けて氷に当たらないように注ぐ。私の唯一の特技だ。
…うん。唯一の。
「こうしたら炭酸が抜けずに最初の一口が最高の状態で飲めるんですよ」
「へぇ~!ありがと」
あれ?ちょっとウザがられるかなぐらいの覚悟だったんだけれども。
「じゃあ飲むか!」
「はい!」
私もグラスにお酒を注いでいざ1口目。
ゴクッ。
あ〜すっごいこれ。
爽やかなレモンの香りが鼻を抜け、アルコールが全身に染み渡る。
ハイボールだこれ。あ~最高。
「味どう?」
「めちゃくちゃ美味しいです…」
「よかった」
アスパラの肉巻きを口に入れる。味の濃いタレが味覚を支配し、唾液が溢れる。
ドラゴンの肉は以外にクセは無く、少し硬めの豚肉って感じ?
――それは豚肉なのでは?
まぁいいやとりあえずアルコールに溺れよう。
久しぶりのハイボールに味の濃いおつまみ、そして独り寂しく酒を飲んでいたあのときとは違うこの温かい雰囲気。
まぁ…酔わないわけないよねぇ…
◇◇◇
フワフワする…なんかいつもより酔うの早いような……
「…酔ってるな」
「はい…勇者様お酒強くないですかぁ?」
「よく言われる」
勇者はまだ少し顔が赤い程度。呂律も正常…なんか敗北感……
私はすでに呂律が不安定。体温が上がっているのを感じる。
「久しぶりだから飲み過ぎちゃいましたね…」
「眠たくなったら言ってよ」
「はぁい」
すでにちょっと眠い…まぁおつまみ食べきったし……未練はないかなぁ…
「もうだいぶ眠いです……」
「じゃあ自分の部屋に――」
わかりました。そう言おうとしたが……すでに視界は真っ暗だった。
「ちょっ――」
ヨドンナが寝た。机に突っ伏したまま。
あまりにもいきなり…強い酒選んだってことはそこそこお酒強いんだよな?
とりあえず俺の部屋にあった毛布を被せる。気持ちよさそうに寝息立ててるから身体異常はなさそうだ。
ふとキッチンに置いてあるまな板を見る。ドラゴンの肉を切ったまな板だ。
――ドラゴンの肉。途端に嫌な予感が脳内を駆け巡る。
自室にある食材の図鑑を開いた。五十音順でドラゴン肉を見つけ、すぐにそのページを見る。
『ドラゴン肉は主にドラゴンから手に入れることができる肉。非常に危険なモンスターのため値段は高く入手は難しい。だが食材としては扱いやすく様々な料理をワンランク上のものにしたい時有用だ。特徴として酒と一緒に食べた場合酒が回りやすくなる特徴がある』
……やらかした。
リビングに戻る。空の皿に付着したタレは綺麗に輝いていた。
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