第5話側近、戦う
息を切らしながら街に入ると勇者は剣を構え戦闘態勢に入る。私も息を整え躍動する心臓を落ち着かせた。住民はおらず、全員避難しているようだ。
ドラゴンが咆哮をあげると辺りに小さい魔法陣が出現し、小さなドラゴンが現れた。どうやらあちらもこちらに気づき、戦闘態勢に入ったようだ。
ドラゴン達がこちらに火球を飛ばす。勇者は私の前に立ちそれを盾で防いだ後ドラゴンを数体斬りつけた。
悲鳴をあげて数体消滅したが、依然数は多いまま。
「スキルの使い方!わかるのか!?」
氷結魔法…唱えればいいんだよね!
「氷結!!」
声を上げると魔法陣が現れ体が淡い水色に光った。銀色の髪がフワリと宙に舞い、目の前に巨大な氷の壁が現れた。壁に激突した小さなドラゴンは凍りつき塵になる。
「上出来だ!本体を狙うぞ!」
上空で舞うドラゴンを見上げ、再度叫ぶ。
「氷結!!」
風を切りながら氷の粒が飛んでいく。どうやら空に魔法を放つと形が変わるらしい。
氷の粒はドラゴンの胴体や羽に当たり、悲鳴が耳をつんざいた。
成功したのかと思った矢先、腕に痛みが走る。
「痛ッ――!?」
反射的に腕を見ると、肘の辺りまでが氷で覆われていた。
「一気にデカイ攻撃しすぎたか!一旦下がって――」
「グォォァァッッッ!!」
鳴り響く咆哮。先程とは桁違いの迫力に気圧される。
「攻撃されてかなり興奮してる!マズイぞ!」
次の瞬間、ドラゴンが口を大きく開けると、巨大な火球が現れた。
火球の熱は地上にまで伝わってくる。そのおかげで腕を包んでいる氷は少しづつ溶けてきていた。
だか、恐らく間に合わない。
「クソッ……」
勇者が呟く。今から逃げようとしても間に合わない。
「少しでも遠くへ逃げるぞ!」
ドラゴンに背を向け駆け出した。だが時すでに遅し。ドラゴンはこちらに火球を放った。背中が熱い。みるみる火球が迫ってくる。
「お熱いねぇ!色んな意味で!ハイドロ!!」
突然声が響く。その直後、背中に感じていた熱は消え水飛沫が背中に当たった。
「オラァッ!!」
振り向くと、大きな水の拳がドラゴンを殴っていた。大きなドラゴンは一瞬にして消滅し、崩れたビルの上に何かが落下する。
空から人が降りてきた。空気を階段のようにして1歩1歩進む度、空気中に波紋が広がり、ポチョンポチョンと音を立てている。
「いやぁ〜暑いねぇ〜ここ。2人共お疲れさん」
上空から降りてきた女の人は豪華な水色の装飾がついたドレスを着ており、先の曲がった長い杖を持っている。
えぇと…私の記憶が正しければこの人の名前はカノン。水のスキルを使うキャラクターで
「カノン女王…どうしてここに…」
女王。勇者はそう言った。まぁ…この豪華なドレス、一般人なわけないよね。
「いやぁ〜この規模のモンスターは勇者達だけじゃ無理でしょ〜よ。駆けつけたら案の定ピンチだったっぽいしちょうど良かった〜。普段は勇者に任せるけど、流石に規模がでかいから隣国の私がヘルプでやってきたのだよ。これ、ドラゴンが落とした素材。あ、そうだそうだ。初めまして。私カノン。よろしくねヨドンナちゃん」
「えっ。あ…」
ドラゴンが落とした牙や肉を勇者に手渡す。私の名前を呼ばれた瞬間、一気に焦燥感が背筋を伝う。
「あっ…!」
勇者も気づき声を上げる。
「な〜に何もしないよ。なんか事情あるんでしょ?」
「えっと……記憶がなくなっちゃって…今は勇者の側近として暮らしてます。人を襲うつもりなんて全く無くて…勇者と一緒に人の役に立てたら…と」
嘘と本音が混ざりあった説明をした。
「ふむふむ…今は優しい女の子ってわけね。まぁ、私は何もしないけどさ。他の国の奴らにバレたらマズイよ〜?対策考えときな」
「ありがとうございます。えっと…他の国っていうのは……」
プレイしてたころの記憶を漁ったが覚えていない。
「あら。ほんとにガッツリ記憶喪失なんだね。この世界には5つの国がある。まずはこの国、ロード。5つの国を束ねる国だ。んで私の国ジョーロ。水の国だね。あと風の国のフージン、炎の国のコンロ、そして魔王が巣食う魔王国だよ」
説明自体は少し長いように思えたが、それでも覚えることができる程に覚えやすい名前だ。
「今度うちの国においで。色々教えてあげるよ」
どうやら図書館に行く手間は省けるようだ。
「それじゃ、私はこれで」
「「ありがとうございました!」」
「は〜い」
カノン女王の体が液体になり、地中へ消えていった。
「ふぅ…ひとまず初めての依頼、終わったな」
「でも、街がボロボロ…」
勇者は満足げに言うが、崩れた建物を見ると、「無事終了」ではないように感じる。
「…確かに街は壊滅状態だけど…ロードの兵隊たちが建て直してくれる。人の心の芯は硬い。このくらいで折れるほどヤワじゃないさ」
勇者は街を見つめながら言う。すごく頼もしくて、力強い言葉だった。
いつの間にか腕の氷は溶け、痛みもなくなっていた。
「よし、帰ろう!初任務祝い、なんかしたいことあるか?」
お?これは?ついに?ついについに!?
「お酒が…飲みたい……です!」
「お酒?好きなのか?」
「はいっ!!」
あまりにテンションの高い私に少し引き気味な勇者。そんな顔しないでほしいなぁ。
「まぁ…全然いいけど……」
キタァァァァァァァァァァァァ!!!!
「そ、そんなに?」
溢れる喜びは顔に出ていたらしい。
「えへへぇ」
なんとも情けない声を出す私。
「でも、夜にしような。それまでにしっかり疲れ取るぞ」
「は~い!」
◇◇◇
鎧を脱ぎ、壁にかける。ヨドンナは家に帰るや否やソファにダイブ。
「お~いその服汚れてるんだから――って、そんなに疲れてたのか」
このまま逝くんじゃないかってぐらい安らかで優しい寝顔で、ヨドンナは寝息を立てていた。
「………酒買ってくるか」
強い酒か弱い酒、どっちがいいんだろう。そんな事を考えながら玄関を出た。
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