第3話勇者、側近ができる

「とりあえずここから外に出れるが…すぐ横が村なんだよな……」

 出口の向こうは明るく、子供の声がする。子供たちの気を引いて外に出る方法……

「悪魔召喚…とか……?」

 私が恐る恐る訊くと、勇者は血相を変えて私を静止した。

「何言ってるんだ!子供たちに何かあったらどうする!?」

「あっいや…すみません……」

 社畜時代の癖だろうか。ビビッてスッと謝れない。


「でも……それしかないか…スキルの使い方はわかるのか?」

「まぁ…なんとなく……」

「召喚した悪魔は俺がどうにかするからな」


「あ、悪魔召喚……!」

 ボウッと音を立てて小さい魔方陣が現れた。淡く紫に光り洞窟内を照らしている。

「ヴァ!」

 現れたのは小さい羽根と角を生やした黒い悪魔。低い唸り声をあげているが…そこそこかわいい。


「えと…あ、うぁ、そ、外にある村に行ってほしいんだけど……?」


「なんでそんな緊張してるんだ…?」


 だって!!社畜時代頼まれるばっかりで自分から頼むなんて!いつぶりかもわからない!!


 心の中で叫んでいると悪魔は洞窟を出て村の方へ歩いて行った。

 直後、子供たちの悲鳴が鼓膜をつんざく。


「うわぁ悪魔だ!!逃げろぉぉ!!」


 子供たちの悲鳴が段々と小さくなり、村へ逃げて行ったのを確認するとすぐ洞窟を出て辺りを見回す。

 すごい…ほんとにゲームのまんまだ……


「ヴァ」

 悪魔が棒立ちでこちらを見ている。そうか。村を襲えとは言ってないから私の指示がないとこのままなのか。


「ヴァッ……!」


 突然悪魔に矢が刺さり、その場に倒れた。じんわりと血が出ている。

 突然の出来事に困惑し勇者を見ると、弓を下ろしている最中だった。


「人の心とかないのですか……?」


「え?俺がどうにかするって言ったろ」


 良くも悪くも彼は勇者。悪魔に情けは無用ってことね……


「俺の家はあそこの森の奥。ちょっと時間かかるぞ」


「わかりました」


 ♢♢♢


 う~ん……気まずい。

 結構歩いたけどまだ着かないの……?


 そういやさっきの悪魔…血が出てたけど、ゲームとは違うんだ……


 ゲームでは効果音が鳴った後ピクセル状になって消滅する。小さい子への配慮だろう。

 ゲームの世界だけどこの世界は現実リアル。血は出るし死ぬ。そういうことでいいんだろうか。まぁ、後々わかるか。


 あ、あと口調。さっきから安定してないんだよな。

 思い出せ……楽しくグラクエをプレイしたときのことを……


 あやばいなんか涙出てくるこれ。記憶が眩しい。


「ちょっ、なんで泣いてんの!?」

 私はボロボロ大粒の涙を流していた。その場にしゃがみこんですすり泣く私。


「すみません…ヒグッ…なんか色々…」


「もう家着くから!がんばれ!」


「はい…」



「あんまり綺麗じゃないけど……」


「いえいえ……」


 勇者の家はごく普通の木造の一軒家だった。あんまり綺麗じゃないと自称していたが全然綺麗だ。私の家が汚かったからこのレベルは全然綺麗なんだよな。服が散らかってるぐらいで大袈裟な……

 壁には武器が何本か掛けられていてその多くはしっかり手入れがされており埃一つついていない。

 散らかった服を雑に一か所にまとめると、テーブルの傍に置かれたクッションに座る勇者。私も急いで座った。

 無駄に豪華なドレスが邪魔だ。また気まずい空気が流れたが、しばしの沈黙は私が破った。


「その……さっきはありがとうございました」


「いいんだよ。あんたは散々な目に合ってる。そりゃ泣きたくもなるだろうよ」


 麦茶をコップに注ぎながら私を労う勇者。


「私はどうしたら…いいんでしょう……」


「あんたの好きなようにすればいい。俺はそれを否定しない。ここにいたいなら居ればいい」


 そう言って麦茶を1口飲む勇者。随分と軽い口調だけど、重い空気にしないための配慮なのかもしれない。


「私の好きなように……」


「こんなありきたりなセリフで申し訳ない」


「わっ、私は!勇者様の側近になりたい……です…」


 もう、ゲームのシナリオなんか知らない。

 また働かされるのは嫌なので、優しい勇者の側近になります。


「よし!わかった。よろしく。ヨドンナ」


「ッはい!よろしくお願いします!」


 あぁ、こんな優しい笑顔、いつぶりに見ただろう。











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