5 マジカルオーロラパレードの怪人

あたりが暗くなり、時間とともに開会の包装が流れ出した。

「…時間になりました。只今より第7回スターシードランド、マジカルオーロラパレードを始めます」

一瞬の沈黙の後、大空に七色の光が走り、大勢のどよめきが走った。

「すごい、正確に再現された、ペルセウス座の流星群だ。最初の七色の光は火球現象だ」

真っ暗な空に、見事に大きな赤と緑の火球が流れ、なん百何全と流星雨が降り注ぐ。

そして流星雨が一通り収まった時、夜空に葉ギリシア神話の星座絵が重なって、星座の神々の物語が始まった。すべての星座が、物語に合わせて愛を語り、怪物と戦い、あるいは羽ばたきながら天空を飛び回った。

そして星座ロマンが終わると、今度は空に次々と光の帯が瞬きだした。

それは、実際にフィンランドで観察された美しいオーロラを再現したオーロラのシミュレーター立体映像だ。この素晴らしい画面が、極地方に行かなくとも、空が暗くなくとも、ネットのバーチャル映像で鮮やかに体験できるのだ。

「それでは、マジカルオーロラパレード第1舞台から出発です」

花火が揚がって、いよいよパレードが動き出した。

オープンに歓声が上がる、このオーロラの空の下、このスターシードランドの正義のヒーロー、アースアーサーの空中神殿がゆっくり進んでくる。この仮想世界では現実世界とは違い、トラックや改造車などは使う必要がなく、山車でも巨大な人形でも、自由に光り輝いて大通りを進んでくる。登場キャラクターは、自動車とは違い、全く揺れないので上に並んでもいいし、舞台でアクションショーをしても危険はない。

今やってきたアースアーサーの空中神殿は、高さ7mの武神像を中心に、アースアーサーや戦闘少年レオン、身長5mの正義の巨人デストロイガー、同じく5mのボクシング巨人ドラゴンフックロックバークレー、神殿の乙女エイナス、光の姫君フローラ、最強の格闘少女カテリーナランディスなど、アースアーサーの人気キャラたちが取り巻いている。7mの武神ヘラクレスはその力強い腕を高く掲げ、全身が宝石をちりばめたようにきらきら光っている。

空中神殿の右前に葉神秘の力を持つ老木の巨人ガスペラメルクが歩き、左前にはつるし張りの術や木の葉手裏剣などの技を使う巨木忍者ヨデルが枝を震わせながら歩いていた。その後ろには水の精霊セルビナやエルラス川の王セイレンデルも従っている。

アースアーサーは、左右に緑の巨人をしたがえ、自然のパワーをもらって強くなるのだという。そしてその後ろには炎と冷気の凶悪なダブルドラゴンが暴れながら続き、グリフォン、オーガ、トロル、悪の巨人たちが従った。そして列の最後には、身長7mの悪魔王ダークカルボラムダーと四将軍が姿を見せる。

台風将軍テュフォン、火山将軍ヴォルカ、砂漠将軍ゾム、竜巻将軍グルグロスが実際に台風や爆発する火山、砂嵐、大竜巻などを背負って登場だ。

そしてパレードが中間地点のイベント広場までたどり着いた時、アースアーサー対魔王軍のボクシングのビッグマッチが予定されているのだ。

そして観客がまた盛り上がる。いよいよ登場、大人気の魔法少女セーラジェネシスとマーベラスガールズの第2舞台の発進だ。

5つの尖塔を持つゴージャスな魔法の城プラチナパラベルが、白事大通りを進み、大きなベランダには、麗しく知的でゴージャスな魔法女王メリルマルベル、愁いを含んだ魔法界最高の美少年、カリスマ貴公子ケインロベルト、料理上手の魔法発明家マダムメアリロズウェルが手を振り、その隣には12人の高度な魔術師で構成された女王親衛魔法隊が顔をそろえる。そしてその後ろには、魔法使いや魔術師たちをのせた魔術舞台がゆっくりと進んでくる。

「あれ、魔法少女セーラジェネシスは私も知ってるけど、あのおじさんは…」

舞台の上にずらりと並んだ魔法使いや魔術師たち、1歩進み出て手を振ってるのはセーラだけど、その隣にいる、ぎょろ目で口の大きなおじさんは…?

何と設定では、魔法界からやって来た4人のマーベラスガールズは、普段はフリントピットマーベラス魔術弾でショーをやっているということになっているらしい。

「それであのおじさんがいるのね…」

マーベラスガールズは、魔法女王メリルマナベルの1人娘である。セーラジェネシスと、ミス魔法界グランプリの優勝者ルビーとサファイアのコランダム姉妹、この姉妹ははなんと瓜二つの双子の美女姉妹だ。メガネの魔法使いレイチェルローズウッドは、知的で向学心に燃える実験魔法の大家だ。寝ることと食べることが好きなミランダホイップスは、眠るほど魔法パワーが上がる強力な魔法使いだ。

この5人の少女たちがパレードしながらあちこちに花を咲かせたり、色とりどりのスカーフを出したりする。イベント広場に着けば、全員でド派手な魔術ショーをするのだという。

いよいよモリーのいる第3舞台も出発が近づいてきた、イベント広場ではそろそろアースアーサー対魔王軍団の派手なバトルショーが始まったらしく、遠く歓声が聞こえてくる。

「…それではこれより、アースアーサー軍対魔王軍の対決としてジャイアントヘビー級タイトルマッチ、ザ・タワーサンダーボルトテュフォン対ドラゴンフックロックバークレーの世界タイトルマッチを始めます」

アーサーの軍団のボクシング王と魔王軍の嵐の四天王の対決だが、実際に操縦するのは厳しいトーナメントを勝ち抜いた腕自慢で、モリーの同級生のロックバークレーが、めでたく勝ち残ったのだ。

チャンピオンの四天王のサンダーボルトテュフォンは、基本性能が高く、必殺技は少ないものの、カウンターパンチも非常にうまいので、攻撃も防御に無駄も隙もない。攻めあぐねているうちに、連打から雷が直撃するような高い位置からのサンダーハンマーパンチでノックダウンを奪うのだ。それに対して肩幅が広く筋肉モリーモリーのロックバークレーは、多彩な連続技からの必殺パンチが持ち味で、低い位置から空に舞い上がるような連打とアッパードラゴン攻撃、閃光のようなジャブとストレートでスピード連続技のソニックドラゴン攻撃、相手のバランスを崩し、のけぞらせたところに最強のフックを決めるドラゴンブレス攻撃と、3匹のドラゴンを操ってノックダウンを狙うタイプなのだ。前評判は6対4でチャンピオンの嵐の四天王テュフォンだが、ロックバークレーの勢いと人気も凄い。

そして2人とも身長が5mはある巨人ボクサーなので、リングも20m四方アリ、とにかく何もかもデカい!

入場の時のズシンズシンという足音だけでももう違う、パンチが空を切るバシュッという音、相手に命中するドキューン、ドゴンという音だけでも、ものすごい振動と迫力で圧倒される。

この巨人同士のボクシングを体験すると、もう普通のボクシングには戻れないと大評判なのだ。いよいよ魔王の四天王の仲間に送られて

ザ・タワーサンダーボルトテュフォンのそびえたつ巨体が赤コーナーに入場、青コーナーにもドラゴンフックロックバークレーの脈打つもりもりの筋肉がアースアーサーたちに、囲まれて入ってくる。いよいよ試合開始だ。異様な緊張の中運命のゴングが鳴る。

カーン!大地震かと思われるほど盛り上がる観客席。

最初から連打、連打で突っ込んでいくロックバークレイ、慎重にパンチを封じながらカウンターを狙っていくサンダーボルトテュフォン。全世界に配信された世紀の一線がついに幕を開けたのだ。

その時、鳥かごのそばにいるファンタリアにあの探偵が話しかけていた。

「ファンタリアさん、因縁のあの怪人がまたパレードに近づいて来たみたいですよ。観客の中に忍び込ませている私のマリオネットが、その姿をちらりと目撃したようです」

その言葉を聞いてファンタリアさんは思いっきりおびえていた。

「そんな…うそでしょ…あんな怪人が着たら、せっかくのパレードがめちゃくちゃになっちゃうわ」

いったいどんな怪人なのか聞いてみると、名前はシャドーピエロ、身長が2m近くある大男で、特に周りの人に危害は加えないらしいが、その衣装はピエロのように派手な色を使っているのだが、どこかドクロや骨を連想させる不気味なもので、そいつと目が合うと夜でも昼でも恐ろしい悪夢にうなされるのだという。

今までパレードやイベントなど、人が大勢集まるところを狙って出没し、今では、警戒すべき不審者として本部にもマークされているのだという。でも、警戒しても警戒しても、なんらかの方法でどこからか入り込み、人々に悪夢を見させて、そして忽然と消えていくのだ、ファンタリアがおびえるわけである。だがもうパレードは動き出し、イベント広場ではタイトルマッチも始まっている。

「もしもそいつが現れたら、どうやってやっつければいいんですか」

モリーが効くと、探偵は考えながらこう答えた。

「ぼくがそばにいれば、ぼくのマリオネットが撃退するでしょう。まあでもやつは悪夢を見せるのが攻撃だから、とにかく目を合わせないようにして、大声で叫ぶといいでしょう。騒ぎになるとどこかへ消えていくようですよ。

そんな話をしているうちに、次の花火が上がり、モリーたち不思議動物のパレードも動き出した。大通りに物語に出てくる、冒険船ポーラースター号が霧笛を鳴らしながらゆっくり進んでくる。仮想世界だから、船が大通りを進んでも全く問題ない。

船首にアルパカ、フタコブラクダ、ヘラジカの3本の首が付いていて時々妙な鳴き声を上げる。と、集まってきていた大勢の子供たちが喊声で答える。

「おお、アルパカ、フタコブラクダ、ヘラジカの聖珍獣が聖なる声を上げたぞ、わあ、バッキーがヒレを振ってくれた!コロルちゃんもいるぞ」

船の先頭でヒレを振るのはカバペンギンのバーグバッキー、頭がカバで体がペンギンで、よちよち歩くのが大人気のキャラクターだ。隣でちょこちょこ動くのは、ドングリスのコロルモリーソン。お尻にドングリそっくりの殻が付いていて、ドングリに擬態して身を守るという。その横で長いひげを立てて周りをうかがうのは、ナマズカワウソのムームージャスパーだ。そして大きな目玉がくりくりとかわいい、アルパカダチョウのアマロハウディが大きくはばたいて観客にアピールする。その後ろでは体が大きくて重量級のカブトリクガメのアルタマッハとクワガタリクガメのキースブレードが角を振り上げ、子供たちに大アピール。

そして船の後ろには舞台に置かれた4つの彫刻のついた立派な椅子に4人の長老が座って手を振っている。

亀の甲羅の中から賢いイカが頭や手足をだす、ハコイカビトのシバシグマ。

緑の葉のような羽毛で木に擬態するハガクレフクロウテナガザルのジャングルマーカス。

怪力の持ち主、バクの長い洟が音楽を奏でるオクトバクウータンのファゴットメアリ。

ケラの前足、ダンゴムシの体とツチブタの頭、ケラダンゴツチブタのミックモービー。

この4人の長老たちは動物界のことをとても詳しく知っていて、みんなにいつも楽しいお話をしてくれる人気者だ。

そして長老たちのそばの鳥かごで、行進曲に合わせて見事にさえずっていたのが鳥人間のモリーラプラスだったのだ。

イベント広場では大喝采の中、アースアーサー対魔王軍団の世紀のタイトルマッチが終わりを告げようとしていた。

最初から連打連打で攻勢をかけていたロックバークレーが、ドラゴン必殺技を2つ決め、ついに今まで1度もダウンしたことがなかったサンダーボルトテュフォンからダウンを奪ったのだが、テュフォンはカウンターパンチを的確に決めながら態勢を整え、なんと必殺サンダーボルトハンマーパンチで逆転ノックダウン勝利をものにしたのだった。早くも名勝負と声がかかり、無敗のテュフォンからダウンを初めて奪った男としてロックバークレーの株もうなぎのぼりだ。

興奮冷めやらぬイベント広場ではあったが、アーサー軍団と魔王軍団が引き上げると、こんどは魔法少女が入場だ。

魔法少女のイベント、フリントピットマーベラス魔術弾の大魔術賞が幕を開けようとしていた。

「それではまず全員で光のマジック100連発!」

魔法少女セーラの涼しい声が響く。

フリントピットマーベラスのシルクハットの中から、赤や青、黄色などのマジックキューブの中から、マーベラスガールズのコスチュームの中から、花瓶の中から、金魚鉢の中から、宝石箱の中から、キラキラ光る光の粒子とともに、花束が、色鮮やかなスカーフが、トランプのカードが、派手なワインボトルが、ワインの揺れるグラスが、ハトが、ウサギが、金魚や色鮮やかな熱帯魚が、宝石やアクセサリーが飛び出してくる。

マーベラスガールスたち全員の手によって、また違うもの、また変わったものが次から次へと飛び出してくる、まさに100連発だ。

ハトやウサギは光を纏い、透き通りながら大きくなり、光の粒をまき散らしながら、羽ばたき、跳びはねて会場のあちこちへと広がって行く。金魚は金色に光りながら大きくなり、パレードの上を何匹も優雅に泳ぎ出す。

数えきれない宝石とアクセサリーが7色の輝きを放ちながら、はじけてクルクル回りながら四方八方へと飛んでいく!

カードは空中でくるくる回りながら静止し、カードのジャックやクイーン、キングなどの絵がゆらりと立ち上がって見えてくる。ジョーカーのカードから不気味な黒い影が立ち上がる…。

「それでは本日の大魔術ショーのクライマックス、美女空中浮遊、剣で串刺し、ギロチン大切断、火あぶりの台マジックです」

フリントピットマーベラスの大きな声が響き渡る。

まずルビーとサファイアのコランダム双子姉妹がふわっとしたステージ衣装を着て前に出る。その2人の前後左右の床からガラスの板がせり出してきて、1人ずつ透明な箱の中に閉じ込められる。そこでセーラジェネシスが「空中浮遊よ、ピコピコポーン」と掛け声をかけると、2人は箱の中でそのまま気を失い、同時にふわーっと透明な箱のまま浮かび上がるのだ。そして2つの箱が空中でゆっくりとグルグル開店しているところへ、

「お次は剣で串刺しのマジックよ」

とメガネのレイチェルローズウッドから声がかかる。すると舞台の魔法道具の中から18本の鋭い剣がカチカチカチッと空中に飛び出し、美女の入った透明な箱に次々と突き刺さっていく。

「うわ、うわ、いったいどうなるんだ」

1つの箱につき9本ずつの剣がランダムに刺さっていくのだが、透明な箱の中で美女たちは体をくねらせ、ありえないような姿勢で剣を1本ずつ交わしていく。そして最後の1本がもうこれは無理だという場所に刺さり始めた時、観客から悲鳴のような声さえ聞こえてくる。だが1人は体をひねりながら折り曲げ、1人は箱の中で片足をまっすぐ上に振り上げるようにしてかわした。

コンピュータグラフィックだからなんの危険もないとわかっていてもなぜかドキドキする。

最後の1本が刺さり、やったー、2人は無事だ、

大拍手の後、今度は剣がどんどん抜けてステージに戻っていく。

「お次は大ギロチンで大切断!ピコピコポーン」

寝るのが大好きなミランダホイップスが魔法をかける。

すると光が吹きあがり、空中に10m以上ある巨大なギロチン代が突然現れる。

9本の剣の抜けた穴の開いた透明な箱に入った美女が2人、空中をふわーっと動いて今度はギロチン台の上に2人とも立ち上がった状態で並んで乗っかる。

そしてその彼女たちの真上に、ギリシア彫刻の大理石の女神像が数千万円もするスーパーカーが、さらに直径2mの超特大ピッツァが浮かんでいく。美女たちとともに真っ二つにしようということらしい。

ところがその時2つの透明な箱の周囲に突然炎が吹きあがる

「おっとっと、最期の火あぶりが先にスイッチが入っちまったらしい」

なんだろう手違いか、自己か、中の2人の美女も炎に不安になったのか、透明な壁をたたき出した。

「大丈夫、大丈夫、すぐスイッチを押し直すから…」

手元の台の上のスイッチを押していたフリントピットマーベラスだったが、急に声が大きくなる。

「あれ、やばい、このボタンはヒェ、ヒェ、誰か止めてくれー!」

その時、上の方で止まっていたはずのギロチンの刃が、3m以上ある巨大な葉がゴオゴゴゴゴと動き出した。

「ひ、ヒイイイイイイイイい」

バッシーン!きらりとステージライトの光を跳ね返し、巨大な刃が振り下ろされる。

大理石の女神がスパッと半分になり、スーパーカーは、エンジンの内部まで見事に切断され、そして超巨大ピッツァもきれいに2つにカットされたのだった。

透明な箱は銀色の光の粒になって、砕けて消えてゆく。美女の2人は見えない。フリントピットマーベラスが、慌ててギロチンの前へと駆け付ける。

すると1人だけが光の粒子の向こう側から倒れるように出てくる。優しく抱き起すフリントピットマーベラス。出てきたのは双子のうちのルビーなのかサファイアなのかと見ていると、その美女が立ち上がった瞬間に体の真ん中から半分に割れていくではないか?!

わあ、っ二つに切断されたと思った瞬間、右側はルビーに、左側はサファイアにいつの間にか変身して、ぱっとポーズを取ったのだ。

「ルビーコランダムとサファイアコランダム、そしてフリントピットマーベラスでした」

3人は、手をつないで丁寧にお辞儀をすると、大歓声を受けたのだった。

そして今度は残りのマーベラスガールズも入って全員で手をつないでお辞儀、大喝采の中にイベントは終了した。

そのちょっと前、モリーはあのマリオネットケイジを追いかけ、ファンタリアさんに鳥かごから出してもらい、イベント広場を飛び回っていた。

「どこです?どこです」

「こっちだ、こっちだ、さっきのマジック100連発の時に、カードの中から、あのバカでかいドクロ怪人が姿を現し、周りにいた7人が悪夢を無理やり見せられたのさ。そのうち3名は悪夢のショックに意識が戻らず、救急車で運ばれていった」

「あ、悪夢って?」

「この世の終わりの悪夢だったそうだ」

1人は大津波に襲われ自分の街が流されていく夢、1人は逆に緑が消え、街が砂漠化していく夢、街が水の底に沈んでいく夢や、嵐が着て竜巻で家が吹き飛ばされる夢、建物が消え失せ地平線まで荒涼とした荒れ地が広がり、たくさんの行き場を失った難民が重い足取りでひたすら歩いていく夢、人類の愚かさを思い知る夢だったという。

その話を聞いたモリーの頭の中には、昨日テレビで見た地球温暖化のニュース画面が浮かんできた。

探偵が近くにいた若い女性を連れてきた。

中肉中背の知的な美人だ。

「大学生のアンディーライムさんだ。聞きたいことがあったら聞いてみるといい」

話しを聞くと、怪人の不気味さが伝わって来た。

その怪人はひょろっと背が高く痩せていて手足が長く、白塗りの顔に、目の周りを黒く塗ったピエロの化粧、そしてあばら骨を思わせる胸の横縞、紫の口紅や紫の爪などが、死の匂いを漂わせる骸骨のような姿だったという。

モリーはふと思いついて、アンディーライムに意外なことを聞いた。

「その怪人は、あなたに悪夢を見させた時、何かあなたに伝えようとしてませんでしたか」

「…そういえば、よく思い出せないけど、何か言ってました…」

探偵も意外な顔でじっと見ている。

「…ええっと、確か…、こう言ってました。あなたは私だ、私はあなただ」

…あなたは私だ、私はあなただ。その言葉を聞いた時、モリーの頭の中で何かがつながった。

「…もしかすると…。あ、まずい早くパレードに戻らなきゃ」

モリーは急いで元の長老たちのそばへと飛んで帰った。

「…シャドーピエロは悪夢を使って何かを伝えようとしているのでは…」

そして珍獣村のパレードも無事に行程を終え、イベント広場でお楽しみだ。外国人観光客

を意識したことしのテーマは「日本の祭り」だという。

モリーもファンタリアさんにお礼を言って、人間の姿に戻った。

「あ、これファンタリアさんが用意して下さったの、素敵!」

人間に戻ったモリーが着ていたのは、鳥人間の美しい模様のある浴衣だった。

「ふふ、私の目に狂いはないわね、とってもよく似合うわ。私からのお礼のプレゼントよ、鳥人間の派手なワンピースもおまけに着けたからいつか着てね。あなたのさえずりは最高だったわ」

モリーはいろいろお礼を言ってファンタリアと別れた。

広大なイベント広場の真ん中には、珍獣舞台のために巨大な盆踊りのやぐらが立てられ、大きな和太鼓が用意されている。周囲に張り巡らされたロープに葉大きな提灯が並び、歌舞伎や富士山、荒波、美人、力士などの浮世絵が大きく描きこまれぼわーっと光っている。やぐらの周りは前半では人気のお神輿やねぶたが練り歩き、公判では珍獣キャラたちとの花火を見ながら盆踊りが行われるという。広場の周囲には、大掛かりな夜店が出て、夜店は、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、蒸しポテトやかき氷など一通りそろっていて、ただで配られる無制限きんちゃく袋はいくらいれても膨らまないし、重さもない。あとで本物を自宅に届けるサービスもある。

ゲームコーナーも充実していて、くじ引き、輪投げ、金魚すくい、水風船釣り、ミニボーリング、そしてスマートボールがある。

くじ引きでは、アースアーサーや魔法少女、珍獣などのパレードキャラのお面が当たる。

輪投げの景品は珍獣キャラのフィギアやぬいぐるみで子供たちに大人気だ。

金魚すくいでもらえる金魚は、琉金、出目金、ランチュウなど珍しい種類も含めて17種類、バーチャルペットで、スターシードランド内や自宅のデスクトップなどで飼うことができる。長いひれを優雅に動かして泳いだり、専用のエサをやればちゃんと寄ってきて食べる。

ただ飼うだけなら水槽も必要なく餌もいらないので飼育も楽、でも専用のエサをやったり話しかけたりすれば、そのうちよくなれて簡単な芸もするという。

水風船釣りは珍獣キャラなどの風船に水を入れたもので、ヨーヨーもできるし、たたけばボヨヨンと揺れるし、握れば面白い形に変形もする、これは実際に自宅に取り寄せて遊んでみると子供に大うけだ。

ミニボーリングはストライクを出すと、パレードキャラの本格的なコスプレセットが当たる。サイズはCGなので好きに変えられるし、もともとのデザインも専門のプロの作ったものだから文句のつけようがない。さあ、自分の欲しいコスプレキャラのピンを全部倒せるか?モリーが興味深げにボーリングを見ていると、係の人が寄ってきて、

「ははん、その着物は鳥人間さんだね。君がいるとお客も集まるから、ここで20分だけアルバイトをやらないか」

短い時間だけどバイト料も出ると聞いて引き受けたモリー、さっそくお客さんも集まってくる。しかし驚いたのはピンやボールの扱いだ。倒れても倒れなくても、あっちこっちにピンが散らばっても、ボタン1つで元通りにピンが並び、ボールが戻ってくる。仮想世界だから何かと便利だ。お客さんも大喜び、狙ったキャラのコスプレセットを見事に手にしたお客さんも何人も出た。

そしてモリーは、他の夜店もいろいろ回ってみた。

気に入ったのは珍獣の水風船釣りで、釣ったカバペンギンを、自宅に届けてもらうように手配した。そしてドングリススマートボールもユニークだ。パチンコ台を少し大きくして横に倒した台に、ドングリスの住む森や底に住んでいる風船ナマケモノやチョンマゲオオカミなどの珍獣の絵が描いてあって、あちこちに当りの穴が開いている。それが何台も並んでいて、そこにばねを使ってドングリを打ち込み、転がし当りの穴に入れるのだ。

「ようし、今度はこれに挑戦するわ」

ドングリは楕円形なのでうまく転がらないし、あちこちに釘が出ていて跳ね返るし、チョンマゲオオカミのそばに行くと逃げ回ってとんでもない方向に走り回るし、ナッツに当たるとドングリがナッツをカリカリと食べてドングリスに変身して大当たりの穴に向かって走り出すし、思いもかけない展開が待っているのだ。

「うう、難しかったけど3回、穴に入ったわ」

しかもドングリススマートボールは景品がいい。カラーの珍獣図鑑1~9巻や珍獣トランプ、珍獣占いタロット、珍獣手にしてすごろくも大人気だ。

モリーは珍獣図鑑1と珍獣トランプと珍獣すごろくを自宅配送にして楽しそうだった。やがて神輿が繰り出し、次にスターアーサーや魔法少女、珍獣などのキャラが、巨大なねぶたになって練り歩く。もちろんよくできたCGなのだが、その和紙を見事に再現した質感、伝統的な技法に基づいた筆遣いやデザイン、絵の具の色や電球でぼわっと光る明かりの様子まで実によくできていた。

「ラッセーラッセーラッセーラ」

たくさんの人が踊り、跳ねる、凄い熱気だ。

そして次にねぶたが広場から消えていくと、やぐらの上にスポットが当たり、法被姿のカバペンギン、バーグバリーがバチを手にして登場だ。

「ヨッシャードント行くぞ!」

ドドンガドンと和太鼓が打ち鳴らされ、スターアーサー温度、魔法少女がピコピコポーン、珍獣村の夏祭りなど、人気の曲がかかり、キャラたちが浴衣と手ぬぐい姿で次々に現れ、踊りの輪がどんどんと広がって行く。

世界各地から集まって来た外国人ネット観光客が浴衣と手ぬぐいセットを無料レンタルしてどんどん乗り込んでくる。

「あ、サナエちゃんだ」

その時だった。やぐらの上に黒髪の少女が昇って来た。

「みなさま、今晩は。花火師の4代目、ミノヤマサナエでございます。精魂かけて取り組んだミノヤマの花火、火事も出ないし、カーボンも出さない、地球環境を守る伝統の技、ミノヤマの花火をとくとご覧あーれ!」

その時大きな盆踊りのやぐらの真上で見事な花火が連発で光、鳴り響いた。

浴衣姿の観光客も珍獣キャラも、思わず上を見上げてしばしたたずんだ。

「こりゃ、どう見ても本物の花火と一緒だ。流れ星もオーロラも見事だったが、いやあ花火も文句のつけようがない…」

モリーが手を振ると、サナエちゃんも気が付いて笑顔で手を振ってくれた。

盆踊りの音楽が流れる中、花火大会は続いたのであった。

パレードに参加してシャドウピエロの情報を仕入れたモリーは、1歩1歩確実に真実に近づいていた。そしてこの日も終わってさすがに少し疲れて、リビングへと戻って来た。

「あら、蘭ちゃんお帰り、今日はドローン便で、今度は品物が届いたわよ」

「あ、あれが届いたんだわ。ママ、部屋に持って行って包みを開けてみるね」

モリーはちょっと恥ずかしくて、そーっと包みを部屋に持っていくと、中を確認した。

珍獣図鑑1と珍獣トランプと珍獣すごろく、この3つはまだいい。問題は残る1つだ。箱から出してよく見てみる。

「か、かわいい…」

それは思った通り、カバペンギンの水風船だった。

最初はマニュアルを読んでみたが、思ったより出来がかなり良く、指でつつくとボヨヨンと揺れるさまがかわいいし、細かい凹凸までよくできていて、強く持った時の変形も予想以上に笑えてしまった。

「マニュアルには、他にも水鉄砲の飛ばし方やら、体を水の中で引っ張って補助袋を水でいっぱいにすると、水中や水上を泳ぐというお風呂遊びのうらわざがのっているわ。これはお風呂に持っていくしかない」

でも17才の高校生がお風呂にこんなおもちゃを持っていくなんて…。

かなり気恥ずかしく、着替えにしまい込んで浴室に運び込んだ。

「ママ、先にお風呂入ってるね」

シャワーで体を良く洗った後、浴槽に浮かべてみた。

「こ、これは?」

改めて見てみても、よくできている。確かパッケージには、スターシードランドの珍獣キャラのチーフデザイナー、ブライアンランバルディの監修だと書いてあった。、今年の、シードランドのおみやげおもちゃ部門で特別賞を取ったという優れものらしい。

さっそく浴槽に入って説明書に描いてあった通りに後頭部をおして水を吸い込めば、鼻の穴から水がピュッピュッと発射する、体をのばして水を吸い込めば、足の裏から水流が噴射、自力でザバッと進むではないか。

「なるほど、ゴムの伸び縮みだけで、水鉄砲も、自走もする…、よくできてるわ」

モリーはすっかり気に入って遊び、高校生ということもすっかり忘れてけっこう長風呂してしまった。

「…ちょっと、蘭ちゃん、いつまで入っているの?」

ママの声がしてがたがたと音が聞こえた。モリーは急いでお風呂から出ると、体にまいたバスタオルにカバペンギンを無理やりねじ込んで浴室を出た。

途中でママとすれ違ったが、ママは1言。

「胸の間から水遊びのカバさんが笑ってるわよ」

と言い残して去っていった。急いで隠したはずが、無理やりねじ込んだ反動で頭が飛び出て、かえって目立ってしまった。なんだかとても恥ずかしかった。

でもその日は心地よい疲れもあったし、長風呂でポカポカに体が温まり、とてもよく眠れた。

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