第16話:再び蛾非。

佐奈は子供の頃、情緒不安定の上パニック障害を患っていて学校でもよく発作に

襲われたりした。

急に不安が襲ってきて息苦しくて動悸がはげしくなって立っていられなくなる

のだ。

自分はこれで死ぬんじゃないかと言う恐怖感を感じていた。


だから、今回の一件は彼女にとってかなりショックな出来事だった。

しかも子供の頃から知ってる神羅の本当の姿・・・化け物と戦う少女。

平和な日常とは懸け離れた出来事に気持ちが追いついていなかった。


神羅は佐奈のことは小学生の頃から見てきた。

だから、正直に今までのことを佐奈に包み隠さず話した。

そうすることによって少しでも佐奈の不安を取り除いてやりたかった。


佐奈は神羅が思ったより強かった・・・子供の頃に泣き虫だった佐奈は成長

していた。

神羅の話を、ちゃんと受け止めた。

また本調子ではなかったが、しばらく家で養生していたらきっとよくなるだろう

そう神羅は思った。


そして神羅は学校の帰りにはかならず佐奈の見舞いに行った。

ちゃんと見守ってやるのが自分の責任だとそう思った。


さて、阿加流姫が匂いをつけたことで蛾非の居場所を探り当てた神羅とアカルは

蛾非を追ってビルの上を飛んでいた。

神器を手にすることによってふたりの身体能力は人の何倍もあがっていた。


今夜は満月・・・空中を飛ぶふたりの姿が月のあかりを受けて浮かび上がった。


「アカル、いたぞ・・・あのビルの屋上だ」


「しつこいね」

「いつまでも逃げていてもキリがない」

「ここで決着をつけるために出てきてやったわ」


「もう、どこに逃げても無駄よ、その匂いは絶対落ちないから」


「くそっ、生意気な小娘・・・ここで殺してやる」


「お前たち、出ておいで」


すると暗闇の中から傀魔が五体次々に現れた。

四体は同じくらいの大きさだったが、残り一匹は他の傀魔とどこか

違っていた。

四体のカイライに比べて倍以上、図体が大きかった。


「五匹もでききやがった」

「しかも、一体は他のカイライと違わないか?・・・」


「そうですね・・・信じられないくらい大きいですね」

「あんなのは初めてです・・・」

「しかたがありません、一体づつ倒していきましょう」


そう言ってアカルは一体のカイライに向かっていった。

今回もなんなく傀魔の首が飛ぶと神羅は思っていた。

だがアカルの三日月丸は傀魔の硬い皮膚に弾き飛ばされた。


「くっ・・・三日月丸が弾かれた・・・」

「神羅この傀魔たちは、今までのやつらと違うようです」


「やっかいだな・・・」


「ば〜か・・・こいつらの皮膚は鉄くらい硬くできてるんだよ、お前らの

なまくら武器じゃ倒せないね」


「アカル新月丸でも無理か?」


「おそらく・・・」


「こうなったら、一気に倒しますか?」


「一気って?・・・どうやって」


「私に任せて」


アカルはそう言うと、向かいのビルの頂上まで飛び上がった。

そして三日月丸を垂直に高く掲げるとなにか呪文を唱えた。

しばらくすると、にわかに空模様が怪しくなって雷が鳴り始めた。


その間、地上にいた神羅は傀魔の一匹と戦っていた・・・新月丸でも歯が

立たない傀魔の皮膚に新月丸を弾かれて苦戦していた。


おまけに蛾非の放った弓矢をよけながらの戦いで万事休すだった。


「しんら〜・・・そこから、はなれて〜」

「ここまで飛べるならすぐに私のところへ来てください」


阿加流姫にそう言われて神羅は彼女のいるビルの屋上まで飛んだ。

地上にいたカイライは、神羅がいなくなったので上を向いて咆哮を上げながら

うごめいていた。


「アカル・・・なにをしようっての?」

「うん、まあ見ててください」

「あ・・・神羅、ちょっと耳を・・・耳をふさいでいてください」


阿加流姫はそう言うと三日月丸を天に翳した。


すると一閃の稲光が走ったかと思うと三日月丸の刃先をめがけて雷が落ちた。

その雷は三日月丸の穂先を通って傀魔がいる場所に一気に落ちた。

耳をつんざくような激しい雷だった。


「な、なんだこれは?・・・」


神羅はびっくりして耳を押さえたままビルの屋上で伏せた。


しばらく地響きが続いて静かになったあと見ると傀魔たちがいたあたりから

シューシュー音がして四体の傀魔が黒こげで倒れていた。


つづく。


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