第15話:佐奈の救出。

「一か八か・・・」


神羅はそう言うと校庭で佐奈からもらったボールを蛾非に向かって投げた。

不意を突かれた蛾非はボールを避けようと後ずさってなにかにつまづいて

バランスを崩して後ろに転けそうになった。


その一瞬の隙をついて阿加流姫は三日月丸をひっさげて蛾非に向かって飛んだ。

蛾非は、すばやい動きで三日月丸の一閃をよけたが手に持っていた短刀は

三日月丸によってはじき落とされた。


「くそ、おまえら、なにもたもたしてるんだ、のろま、いけ!!」


「神羅、こいつらを引き止めてる間に、お友達を助けて・・・」


「分かった」


神羅はすぐに佐奈のもとに駆け寄り蛾非が落とした短刀を拾って佐奈の縄を

切って佐奈を助けた。


すると一匹の傀魔の太い腕が神羅を襲ってきた。


「比古神君、危ない」


佐奈の声に神羅は振り向きざま新月丸で傀魔の腕を受け止めた。

というより、そのままカイライの腕がボトッと落ちた。

傀魔は自分から切られに来たようなものだった。


すかさず神羅は傀魔のもう一本の腕も、いっきに切り落として攻撃を止めた。

両腕を飛ばすのが理想的でそうすれば腕が邪魔にならず首が切りやすいからだ。


神羅はもう新月丸を思いのままに操れるようになっていた。


「いける」


神羅はそう思った・・・。


が、今度のカイライは腕を切られても再生するのが早かった。


「アカル・・・こいつは切ってもすぐ再生する・・・」


そう言って見ると阿加流姫はもう一体のカイライを難なく倒していた。


「新月丸はあくまで護身用の刀、雑魚の傀魔ならまだしも

再生能力が早い傀魔は、急いで首を落とさないと堂々巡りです」


「三日月丸なら多少は再生を遅らせることができるかもしれません」


「私が傀魔を倒しますから、神羅はできるだけ自分とお友達を守ってください」


「分かった・・・さあ、佐奈」


傀魔がもたついてる間に神羅は佐奈を連れて職員室の入り口まで下がった。

阿加流姫が何か呪文を唱えると三日月丸の刃先が太く長くなった。

阿加流姫は大きくなった三日月丸を気合を込めて一気になぎ払った。


「消えてしまえ!!」


三日月丸は燕返しのように上に下に美しい光の弧を描いたかと思うと、

傀魔の首が両腕ごと胴から離れて飛んでいた。


「すごい・・・一気に首を落とした」


傀魔を相手にしてる間に蛾非は職員室から消えていた。

いつまでも、もたついてる敵ではなかった。


「逃げ足の速いやつ・・・」


阿加流姫は憎たらしそうにそう言った。


「あれが千年も人の魂を食らって生きてる化け物か・・・」


「板額先生・・・偽物だったの?」


神羅にしがみついていた佐奈が言った。


「佐奈、大丈夫か?」


「比古神君・・・いつもこんなことしてるの?」


「そうだよ・・・これが俺の仕事、使命だよ」


「逃がしましたね」


阿加流姫が残念そうに言った。


「ああ、せっかくあの女の正体が分かったのに・・・」


「大丈夫です、そんなこともあろうかと蛾非が消える前に匂いをつけて

おきました」

「どこに逃れても、その匂いを辿ればすぐに分かります」


「さすが、アカル・・・タダでは転ばないか・・・」


「蛾非が弓を使わなかったのは佐奈さんを人質に取っていたのと、この

部屋が狭かったからでしょう」

「私たちにとっては逆に有利だったかもしれませんね」


「そうだな、とりあえず二人とも無事でよかった」


「さ、もうここに用事はありません・・・人間界に戻りましょう」


今夜起きたことは佐奈にとっては大きなショック、もしかしたらトラウマになる

かもしれない・・・。

こんな現実があることを知った佐奈に神羅はすべてを打ち明けなければ

いけないと思った。


そうじゃないと、おそらく佐奈は理解はできないまま恐怖だけが心に

深く残ると思った。


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る