幕間(1)





「行方、不明……?」


「うん。実家の方にも帰って来てないって」



 12月31日。大晦日。


 客のいない店内で、英也は店長と話していた。



「このタイミングって、まさかに巻き込まれたんじゃ────!」


「落ち着きなさい」


「でも叔父さん────」


「店長、だ」


「……すいません」



 狼狽する英也に、店長は落ち着いた声色で話す。



「もう既に警察に届け出は出したし、捜査の依頼もしてある。焦る気持ちは分かるけど、あたふたしたって良いことあるわけじゃないんだから」


「……そうですね。けど警察の捜査じゃ心もとないですし、巻き込まれた可能性がなくなったわけじゃない。グループの力も使います」


「それはダメ」


「……何でですか」


「友人の捜索は、私利私欲の範疇に入るでしょ」


「もし本当に巻き込まれていたらどうするんですか! もういつ起こってもおかしくないところまで来てるんでしょう!?」



 英也は唇を噛み、絞り出すように言う。



「───俺らと、関わっていたんですよ?」



 その様子を見ていた店長は、英也と視線を合わせる。



「随分式隆くんに固執するじゃないか。ひょっとして、ようやく彼に感じていた違和感の正体が分かったのかい?」


「………いいえ。けど徐々に鮮明になってきていました」



 式隆と共にいると時折垣間見る、フラッシュバックのようなもの。

 出会ってからずっと感じている違和感。


 だが、英也が式隆の安否に固執する最大の理由は───



「店長。先輩は恩人です。俺はあの人に………まだ、何も返せていないんです」



 だからお願いします、と英也は頭を下げる。


 すると店長はため息をついた。



「本当は話すつもりはなかったんだけど」



 一呼吸おいて、告げる。



「大丈夫。彼は、巻き込まれたわけじゃないから」


「え? それはどういう────」



 一瞬の困惑の後、英也はその言葉に含まれる意味に気付く。



「──待ってください。何を知っているんですか?」


「それは言えない」


「────」



 店長は、話すつもりはなかった、と言った。

 ならこれ以上追求したところで、口を割りはしないだろう。



「…そうですか。じゃあ今日はもう時間なので、お先に失礼しますね」


「うん。また明日」















 店から出て、少し歩いたところに停めてある車に乗り込む。



「お疲れ様。今日も暇だった?」


「まぁね。ごめん、ちょっと電話する」


「はいはーい」



(………グループの力が使えないなら、別のものを使うまでだ)



 幸いその手の捜査には、こっちよりもよほど向いている所とのパイプがある。



『──はい、もしもし』


「よう、久しぶり。ミスターポリアモリー」


『その呼び方止めてもらえます? けっこーダメージあります』


「ごめんごめん。冗談だ」


『それで、急にどうしたんです?』


「───あぁ。ちょっと依頼したいことがあるんだ」



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