戦士ギルドにて


「すごい活気ですね」


「この辺は街の中心部だからねー。おっ、あれうまそう」



 魔法都市ダステールの手前にある街、ノルト。


 ダステールはダステ国の主要都市のひとつで、そこに隣接するこの街もかなりの規模を誇っている。

 なおダステ国の首都はここから西に行った場所にあるゼディアという都市だ。

 名前からして首都はダステールじゃないの? と考えるだろうが、そこはいろいろと歴史があるらしい。


 2人は道端で買った豚串のようなものをかじりながら、式隆が世話になっているという〈戦士ギルド〉に向かっていた。なお日奈美は式隆から「所用」としか言われていないため何をしに行くかは知らない。



「んじゃやっぱり29日の夜?」


「はい、本当何だったんでしょうアレ」


「痛みはなかった?」


「痛み、ですか? うーん特には…」


「そっかぁ。…まぁそれはいいや。ちなみに学校は?」


「現役で大学一年生です」


「まじかぁ、これからって時期じゃん。

 …ちなみに俺今年で四年生なんだァ…」


「え、まさか…」


「そう! 卒業&就職はおじゃんさ!

 ははは笑ってくれていいよぉ…!」


「悲しくなるんで自虐やめてください…」



 互いの情報を交換しつつ歩いていると、他の家屋数十戸分くらいの大きさの建物が姿を現した。

 その大きさに驚いている日奈美に「ホラ入るよ」と声をかけて中へと入る。












 戦士ギルド。


 それは戦いを生業にする人々が利用するギルドだ。

 剣士、拳闘士、重戦士、魔法士 etc…


 そんな人々がこのギルドに登録し、強さや功績や貢献度、能力の希少性等によってランク付けされる。

 そしてそのランクによって受けられる依頼や仕事も変わり、成功報酬を得るために励むのである。



 ランクは7段階。


 下から黒晶こくしょう級・白真はくしん級・翠楔すいせつ級・紅彩こうさい級・蒼灰そうかい級・紫水しすい級──




 そして、頂点の透玉とうぎょく級である。


 なお、これらのランクは他分野のギルドにも利用されている。


 これが、日奈美が式隆からざっくり聞かされたギルドの概要だ。










 ギルドの中はいつもより人が多く、それに伴い喧噪も増していた。式隆は中を見回し、目当ての人物を見つけて声をかけた。



「どーも、ダヴィドさん」


「あれ、シキタカ? …昨日の今日で奴隷ってマジかよ」


「いや勧めたのあんたでしょ。同郷よ同郷」


「えっ、ガチで見つけたのか? 運良いなオマエ…。てゆーか金は?」


「……フッ、すかんぴん……」


「うわぁ…あれだけあったのを全額ぅ…?」



 ちょび髭のイケメン、というような風貌の男。

 この男こそ、ノルトを中心としたいくつかの戦士ギルドのマスターを担うダヴィド・ローアである。

 前線からは退いているが、バリバリ現役の強さを誇っているらしい。

 しかしいつもギルドマスターのくせにロビーでだらだらしており、副官に殴られて仕事に引きずられていくのもしょっちゅうである。



「んで何しに来たのさ」


「この子を魔法士として登録させに来た」


「…はぁ?」「えっ聞いてないですよ!?」


「──とまではいかないにしても、適正くらいは測らせてくれない?」



 どうやら式隆は日奈美に魔法士の適正がないか知りたいらしい。



「そんならダステールの魔法士ギルドに行けばいいじゃねぇか」


「コネがない」


「…正論だな」



 ダヴィドは舌打ちをしながら「デールめ」とうなり頭をぼりぼりとかいた。



「しょーがねーなー。器を見るだけだぞ?」


「おっしゃそう来なくちゃ! よっギルドマスター!」


「うっさいわ」



 付いて来い、と上階に上がるダヴィドに付いて行く。

 途中、日奈美は気になった事を式隆に聞いた。



「なんで魔法士ギルドがあるのに戦士ギルドにも魔法士として登録できるんですか?」


「あーそれね。えーっと、戦士ギルドの言う魔法士はあくまで「魔法での戦闘力」がどれだけあるかを見てるんだよ。魔法ってのはそれそのものが産業技術でもある。魔法士ギルドはそーゆーのも全部包括してるっていうか…。あらゆる分野の魔法士を登録・サポートするギルドって感じかな…。説明ムズイなこれ」


「まぁそうだな。ちなみに魔法士認定をするのはそっちだから、先に戦士ギルドに魔法士として登録は無理だぞ」


「えっ、そなの!?」



 ダヴィドに口を挟まれつつ、並んでいる部屋の一室に入る。

 そこには天井に届きそうな高さの石柱があった。一見縦長の直方体だが、てっぺんは四角錐の形になっており、表面には何やら文字が刻まれている。



「これは…」


「なんかエジプトの古代文明とかにありそうだよねー」


「何訳分かんねぇことを…。ほれ嬢ちゃん、ここ立ちな」



 ダヴィドに示された石柱の前にある魔法陣の中心に立つと、石柱の脇に立っていた女性から「何も考えず目を閉じて、力を抜いてください」と指示される。


 日奈美は言われた通り目を閉じて脱力する。


 すると魔法陣が光り、それに続くように石柱も光を放つ。

 およそ10秒ほどその状態が続き、「もういいですよ」という声に目を開けた。



「…どうでした?」



 式隆が聞くと、石柱に手を当てていた女性が答える。



「…とんでもない器です。当ギルドの蒼灰級魔法士をも上回るほどの」


「やりぃ! 良かったな! これはすげぇアドバンテージだぞ!」


「マジか。オマエんとこの故郷なんかヤバいんじゃね?」


「よく分からないんですけど、私も役に立てるってことですかね?」


「そりゃあもう!」














 式隆と日奈美がお礼を言いながら出て行ったあと、ダヴィドは鑑定魔法士のウーノに聞く。



「で、実際どうだったよ」


「話した通りですよ。正直嫉妬してます。ただ…」


「ただ?」


「…シキタカ君のようなはなかったです」


「なるほど。あくまで一般的な視点で測れる範疇だったと」


「はい」



 ミカミシキタカと名乗る青年。

 彼は一週間ほど前にこのノルトに現れた。


 旧友であるデールの紹介状を持っており、そこには彼視点から見たミカミシキタカの戦闘能力が書かれていた。この内容にダヴィドは正直驚いた。

 が手放しで「強い」と書くほどの男らしかったからだ。


 戦士ギルドには、最低限の強さがあるか見極めたうえで登録させる決まりがある。

 その見極めは引退した各分野の元高ランク戦士が行うが、この男は見たことのない戦い方でベテラン拳闘士に肉薄した──どころか押していた。


 おまけに器を測定した際には──



「…何も分からなかったんだよな?」


「はい。ただ視た時も言いましたが、何かに包まれるような悪寒がありました」



 紹介状に書かれた内容によると、身体強化魔法を使えるらしいので、それなりの器を持っているのは確かなのだが…。



「やっぱり分からんってのは怖いねぇ」
















 日奈美は上機嫌で歩く式隆に聞く。



「器ってなんですか?」


「あぁ、正確には『魔力の器』なんだ。その人間が持つ魔力の絶対量の上限と言い換えても良い」


「三上さんはどうだったんですか?」


「あー…。なんか濁された。ただ結構なものだとは言ってたかな」


「どうして私は大きいんですかね?」


「さぁ? 器は鍛錬で成長させることができるらしいけど個人差あるみたいだし、正確な要因は調べても分からなかったよ」



 それより、と言葉を切って式隆はジト目になる。



「『三上さん』はちょっと他人行儀でイヤかな。これからは旅仲間になるんだし、名前で呼んでほしい」


「…結構恥ずかしいこと臆面もなく言いますね…」


「『旅の恥は搔き捨て』ってヤツさ。…ん? 意味違うかコレ」


「じゃあ…式隆さんで」


「おう。あ、君のことはどう呼べば良い?」


「日奈美で良いですよ」


「オッケー。…ん? うぉ野菜やっすいな!? ちょっと待ってて買ってくる!」



 そう言って式隆はすぐ横の八百屋に入っていく。


 野菜の値札を見ると、やはり知らない文字だが意味は分かる。

 てゆーか野菜とかこっちと同じなのか、などとぼんやり考えていると──



「へい! そこの黒髪のお嬢さん! 寄ってかない?」



 少し離れたところから突然声をかけられた。




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