「で、来たわけでーす。はい、魔法のない世界ー」

「えっ」

 デスメタルが言いながら、くるりと右手の人差し指で指し示した眼下には、幾つもの高い建物やらなにか動き回る無数の箱(馬車などとは違う)のようなもの、たくさんの人、人、人。


 というか、移動しましょうかでパッと瞬間移動した先が空って。

 次々と、じいちゃんばあちゃんが落下してんだけど?! 悲鳴と入れ歯にカツラが飛んでる。

 あっ、リンばあさんが、入れ歯を光の球で粉砕した。

 カツラ、必死に追いかけてるな、メテオじいさん。村の最長老である。

 ごめん、みんな見ちゃったよ。や、サッと被って、カツラじゃないんですはさすがに……視線、逸らそうか。うん。

 

 しかし、

 この作者、人物落下させるの好きだよね。

 絶賛、イオンやデスメタルも落下中である。

「はいはい、落ち着きましょうかあ。翼ひらいてー、はためかせてー」

 すってー、はいてー、みたいに言うのやめてくれないかなぁ?!

 ほぉら、みんな、勘違いして息をスーハーしてるじゃん! 紛らわしいからね?!

「ふぉひゃぁぁあ」

 あ、ヒヒじいさんが目をかっと開いて覚醒した。入れ歯なくて泣いてるけど、七色の翼広げて……飛び、だめだぁ、ちっさすぎてとべてねぇぇえ。意味ない覚醒だなぁぁあ!

 急降下するヒヒじいさんを赤い翼はためかせ、姫抱っこして助けるリンばあさん。それに、ヒヒじいさんが頬染めた。

 えっ。

 なに、この図。

 周りから、拍手喝采。いやみんな、早く翼広げてね。落下したまんまだからね。




★★★



 それを黒の瞳をまん丸にして、見つめる少女がいた。


「ミオさん、大変です!」

「なによ、コハル。まだ、クレープ選べてないんだけど」

 ミオと呼ばれたピンク色したソバージュヘアの少女は、呼ばれても振り返ることなく、目の前のクレープのメニューに集中している。

 また、呼んだコハルという艶やかな長い黒髪の少女も彼女に視線を向けることなく、空へ向いたままだ。

「それどころじゃないですよ! 空からじいさまやばあさまがたくさん降ってきます! カツラや入れ歯が飛んでます!」

 その言葉に、やっとミオと呼ばれた少女は振り返って、怪訝な顔をした。

「……あんた、頭の中大丈夫?」

 しかし彼女、コハルには、その言葉は届いてないらしい。

「大変、助けに行かなきゃ! ミオさん、また明日!」

「ちょ、コハル?!」

 黒と白のセーラー服のスカートを翻し、走っていくコハルに呆気になりながら見送る事十数秒。

「……いちごクレープの気分だわ」

 友人の心配より、クレープは勝ったのだった。


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