「イオン、あなた、無事に帰ったのね! よかったわ!」

「母さん……」

「よかった、本当によかった」

 涙目で抱きついてきた母に、イオンは泣きそうになった。


 壮絶なジョブチェンジのあと、いったん村に帰る話になった。

 気が重かったが、勇者候補になった時、あんなに喜んで見送ってくれたみんなにはこのことは伝えたい。

 そうイオンがアメリに、デスメタルに言ったのだ。


 嘆きや怒りの声を覚悟していたイオンは、みんながよく戻ったと迎え入れてくれて、また泣きそうになったが


「あのバカ舌な姫さんには、どうやら灸をすえなきゃいけねぇようだなぁ」


「リンばあさん! やってくだされ!」

「リンばあさんの怒りの咆哮、いまこそ!」

「やってまぇぇえ!」


 涙、引っ込んだ。


 みんな、どうした?

 性格変わってない?

 じいさん、ヒヒじいさんが可哀想なひめさまじゃったと、なんか念仏唱え出した。まだ、死んでないよ、姫様。

 その横で、リンばあさんが「うらあ! はぁぁああっ!!」と、なにやら手のひらあわせて光の玉を放ってる。

 いや、てか、なんで出るわけ?

 うん、まあ、あれだ。なんか、どっかで見たことあるけど、スルーだ。スルーしよう。


「へえぇ、活気の良い村ですねぇ。こりゃ、みんなで恋愛天使にジョブチェンジしやせん?」


 なんて事いうデスメタルに、イオンはまさかと手を横に振る。


「いやいや、さすがにみんな、ジョブチェンジとか。ねぇ? み「やってやらぁぁあ!」「ジョブチェンジ祭りじゃ、まつりぃぃい!」「愛の殺戮見舞ってやんよぉぉっ、なあ、イオン!」…い、いえーい」


 めぇ、血走りすげぇな。


「愛憎渦巻く劇にしてやるわぁぁあ」

 

 いや、穏やかな劇でお願いします。


 みんな、デスメタルさんからもらったドリンク一気飲みしちゃったぁぁ。


「「「「「うぉぉぉお!!!」」」」」


 ひい、トラウマ案件な光景すぎる。

 翼、血だらけで生やしてるよ。


 つか、リンばあさん、なんか闘気みなぎってない? 体がむきむきなんだけど。メキメキ言わせながら真っ赤な翼生やしてんだけど。おかしいな、天使って、真っ白な翼じゃないの?

 あれ、みんな、カラフルすぎない? ピンクやら紫まであるよ。

「ああ、ばあさんが……ついになってしもうたぁ。さ、さつりくの天使が、た、たんじょうじゃぁぁ」

 ヒヒじいさん、体育座りで震えてるよ。背中の翼ちっさ! いや、え? 翼七色なの??

 リンばあさんがヒヒじいさんの翼の色見て「ちっ、七色かよっ」って、恨めしげに舌打ちしてるよ、こわっ。


 今日、村のみんなも仲良くジョブチェンジしました。


 そんなことって、ある?


「じゃ、みんなで恋愛サポート、いきましょかー。いえーい」


「「「「「いえゃぁぁあ!!!」」」」」


 「い、いえ、ーい」


 母さん、恥ずかしいならやらなくてよいと思うよ。




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