第50話 いってきます!

 ユキのおすすめ屋台を巡って、昼食と保存食の確保をした。


 次は商人ギルドに行こう。アーノルドさんに取り次いでもらい、ギルマス部屋に移動した。


「こんにちは。……あれ? エルダさんも来てたんですね!」


「こんにちはです」


「あら、ヤマト様、ユキ様、こんにちは。ちょうど、アールに会いに来たところなのよ」


「母さん……。だから、アーノルドと呼んで下さいって、いつも言ってるじゃないですか。まったく……。ヤマト様、ユキ様、すみません。もしかして、決めましたか?」


 アーノルドさんに、明日出発することを伝えた。


「わかりました。先日お貸ししたものは、お持ちですね?」


「はい。バッグに入ってます」


「では、きちんと作動するか試しましょう。グラマスに、出発の報告をお願いします」


 俺はバッグから、密会玉と通信魔道具を取り出し密会玉を起動した。通信魔道具を使ってみた。


「こちら冒険者のヤマトです」


『こちらフォノーじゃ。ヤマト様から秘匿回線とは、オークションのことかの?』


「はい。明日、王都に向けてイベリスを出発します。今は商人ギルドで、アーノルドさんとエルダさんも居ます」


「あなたー。元気にしてますか?」


『元気じゃよ。今日は可愛い声じゃのう』


「もう、アールの前ですよ。ウフフ」


「……はあ。二人とも通信の度に、何やってるんですか! いい加減にして下さい!」


『アール、そう起こるな。ヤマト様、ユキ様、道中気を付けての。何かあれば、いつでも連絡して良いからのう』


「わかりました」


 無事? 通信することが出来た。通信を終了して、二人と色々な話しをした。最後にお礼をしてポテチを渡し宣伝をして、商人ギルドを出た。


「あの獲物を仕留めた二人ですから、大丈夫だとは思いますが……」


「心配し過ぎよ。お二人は自分達より上の冒険者ランクの依頼も、無事にこなしたパーティーよ」


「そうですね。心配し過ぎは、お二人に失礼ですね」


「そうよ。ねえ、アール。これ美味しそうよ」


「確かに美味しそうです。いただきましょう」


パクっ


「美味しい……」


「美味しいわねえ。薬師ギルドでも、広めてくるわ。アールも独り占めしないで、みんなと食べるのよ」


「母さん……もう子供じゃないんですから、それくらいちゃんとしますよ」


「あら、アールはいつまでも私の子供よ。ウフフ」


「……まったく、もう」


◇◇◇◇◇


「次は薬師ギルドと思ってたんだけど、エルダさんにも会えたね」


「じゃあ、教会に行くです?」


「そうだね。教会の屋台も見つけられなかったし、聞きに行こうか」


「色々回ったのに、教会の屋台はいなかったのです……ナンデ」


 教会の屋台は、今日から始めているはずだ。屋台が多い場所に出すと聞いていたのだが、どうしたのだろうか?


 教会に着くと、入り口に屋台が置いてあった。


「あー! お姉ちゃんとお兄ちゃんだー」


「こんにちは。お父さんは居る?」


「呼んでくるから、待ってて」


 マイルスさんを呼んでもらった。


「ヤマトさん、ユキさん、こんにちは」


「マイルスさん、こんにちは」


「こんにちはです」


 屋台のことを聞いてみた。最初はなかなか売れなかったようだが、珍しさもあって数人が試しに買ってくれて、そこから口コミが広がり午前中で売り切れてしまったそうだ。


 今日は初日なので、あまり沢山は作らなかったようだ。俺も知り合いに宣伝してきたことを話すと、感謝してくれた。明日からは、多めに作ってみるつもりらしい。上手くいってくれそうで、ホッとした。


 マイルスさんに明日イベリスを離れることを伝えると、寂しいと言ってくれた。マイルスさんが子供達に伝えると、悲しそうだった。


 でもユキが子供達を集めて、また秘密の話をするとみんな笑顔になった。本当に、何を話しているんだろうか……。


 その後、ユキは子供達と遊び、俺はマイルスさんと話しをした。他の場所より少し長めに滞在してから、教会を出た。俺達が見えなくなるまで、子供達は手を振っていた。


 これでお世話になった人達に、挨拶が出来た。と思ったのだが、思い出した。


「ああっ!」


「うきゃ! また大きい声を出したです……モウ」


「応援団先輩達に、挨拶してないじゃん!」


「あっ。忘れて……じゃなくて、いつもは冒険者ギルドに居るのに、今日は居なかったのです……ナゼダ」


「確かに……。でも冒険者ギルドにもう一回行くのは、ちょっと恥ずかしいかも……」


「はいです……ハズイ」


 バッチリ別れの挨拶をしてきたのに、また冒険者ギルドに顔を出すのは恥ずかし過ぎる……。


「依頼中なら町中に居るよな。探すか……でも、もう時間的に依頼を終わって帰ったかも。……ん? 夕食時になったら、可愛い子狐亭に来るんじゃない?」


「ああ! そうなのです。宿で待ってれば良いのです!」


 応援団先輩達に会うために、宿に戻ることにした。


◇◇◇◇◇


「ただいまです」


「戻りました」


「おかえり」


 オリガさんに、応援団先輩達のことを聞いてみた。すると、ここ数日間来ていないらしい。これは予想外だった……。とりあえず、部屋に戻って考えよう。


「先輩達は、何処に居るんだろ……」


「町中の依頼しか受けないはずなので、町に居ると思うのです」


「だよね。……あ、検索すれば良いんじゃん!」


「おお! ヤマトさんには、マップスキルSランクがあったのです!」


 早速検索に、三人の名前を登録してみる。


「よし、出来た。何処だ? ……あれ?」


「どうしたのです?」


「……町に居ない」


「またまたあ、先輩達は外の依頼は受けないのです」


 マップスキルSランクは、半径1キロメートルが表示される。イベリスの町は、しっかり範囲内である。しかし三人の印は、マップ外に表示されていた。


「この表示はマップ外だよ。町のすぐ外じゃなくて、イベリスを離れた感じ」


「じゃあ、先輩達も何処かに移動したです!?」


「……そうかも」


 色んな人に言われたことだ。冒険者は、態々町を離れる連絡などしない。どうやら先輩達は、イベリスを出たようだ。


「そっかあ。仕方ないね……」


「お互い冒険者なのです。また、何処かで会えるはずなのです」


「そうだね」


 残念ながら応援団先輩達は、もうイベリスには居ないようだ。これで、挨拶まわりは終了だ。


 少し部屋で休んで、夕食に向かった。


「あら、来たわね。今日はレナードが、食べてもらいたいものがあるそうよ」


「なんとっ! それは、楽しみなのです!」


「だね。でも、何だろね?」


 気にしながら待っていると、レナードさんが料理を持ってきてくれた。


「はいよ。お待たせ」


 テーブルには、見覚えがある料理が置かれた。


「うひょー! レナードさんの、ハンバーグなのです!」


「……ついに、完成したんですか?」


「ああ、お前達が出発する前に間に合ったぞ。また新しいメニューとして、ウチでも出せる。お前達のお陰だ。ありがとな」


 そう言って、レナードさんはレシピを書いたメモを置いて、厨房に戻って行った。


「「いただきます」です」


パクっ


「うまうまなのですう……ニッコリ」


「うん。美味しい! やっぱりレナードさんは凄いなあ。また、レシピも貰っちゃったよ」


 俺が記憶から引き出した料理をレナードさんは、さらに美味しく改良したのだ。ただ美味しくしただけじゃなく、ちゃんと食堂で出して損をしないように、食材を考えて作っている。流石はプロの料理人だ。


 とても美味しい食事を終えて、部屋に戻った。明日は、王都に向けて出発だ。早めに休んでおこう。


◇◇◇◇◇


「うーん。イベリス最後の朝だなあ」


「すぴー、すぴー、出発、ですう」


「今日は出発だから、すぐ起きてテキパキ動いてくれたら、良いけど……」


「すぴー、すぴー、大丈夫、ですう」


「……もう、起きてない? まあ良いけど、起こすか。……えい!」


「うきゃ! ヤマトさん、おはようです! さあ、出発しましょう!」


「お、おはよう。とりあえず、朝食に行こうか……」


「はいです!」


 今日のユキは、矢鱈とテンションが高い。とりあえず準備して、まずは朝食だ。


「あら、おはよう」


「おはようです!」


「オリガさん、おはようございます」


「起きたか。ほら朝飯だ。今日はウチからのオゴリだ」


「レナードさん、ありがとうございます」


「ありがとうです!」


 ここでの食事とも、暫くお別れである。また色々旅をして、戻ってきたい場所だ。


 食事を終えて、一旦部屋に戻る。忘れ物などを確認して、準備万端だ。


「さて、忘れ物も無いし大丈夫かな?」


「はいです! 忘れ物無しです! もーまんたいなのです!」


 ユキは出発が楽しみなのか、朝から元気過ぎる。


「あら、行くのかい」


「はい。お世話になりました。またイベリスに来たら、絶対に来ます」


「……」


(あれ? ユキが今度は静かだな)


「そうだ。カルノーサにも寄るんだろ? あそこにも良い宿があるよ」


「何ていう宿ですか?」


「行けばわかるよ」


「ん?」


「……オリガさん。ありがとうなのです……ううっ、うわああん」


「あらあら、あんたは本当に子供っぽいね。あたしまで泣いちゃうよ……」


 ユキがオリガさんに抱きついて、泣き出してしまった。朝から元気だったのは、寂しさを誤魔化す空元気だったようだ。


「ヤマト。これ持ってけ」


「ん? レナードさん、これは?」


「レシピだ。色々書き出しておいた。道中作ってみろ」


「ありがとうございます!」


 ユキが落ち着くまで少し待ち、宿を出た。




「じゃあ、いってきます!」


「いってきますです!」


「二人とも気をつけてね。いってらっしゃい」


「じゃあな。また来いよ」


 二人は店の外まで出てくれて、俺達が見えなくなるまで、見送りをしてくれた。俺達は何度も振り返り、手を振った。


 門を出て振り返り、イベリスの町を見た。


「最初に来たのが、この町で本当に良かった」


「はいです」


「じゃあ、行こうか!」


「れっつごーなのです!」


 王都アリッサムでのオークションに向けて、二人の旅が始まった。




◇◇◇ 数日後 ◇◇◇


「こんにちはー」


「いらっしゃい。食事かい?」


「すいません、違いますー。お届けものですー」


「届けもの?」


「こちら、ヤマトさんとユキさんからですー」


「えっ!? レナード来て!」


「ん? どうした?」


「こちらも一緒に、預かってますー」


「手紙?」


「はいー。料金は、頂いてますのでー。では、失礼しますー」


◆◆◆◆◆


 レナードさん、オリガさんへ


 本当にお世話になりました。二人にお礼がしたくて、ユキと相談して決めました。タオルを贈ります。


 このタオルは、俺達が狩った雨羊あめひつじの毛を使っています。雨羊の毛は、水を凄く弾く性質があります。でも仕立て屋さんの技術で、ギャク苔を使うと水を凄く吸う性質になるそうです。 このギャク苔も、俺達が採取したものです。


 レナードさんは、いつも頭にタオルを巻いていて、オリガさんもエプロンの腰のところにタオルをかけていたので、タオルなら二人に使ってもらえるかなと思いました。


 いつかまた、イベリスに来たら食事に行きますので、使ってくれていたら嬉しいです。


 二人とも、元気でいて下さいね。また会いましょう!

 

 ありがとうございました! ヤマト


◆◆◆◆◆


 レナードさん、オリガさん、ユキなのです。レナードさん、いつもおいしいごはんをありがとうです。オリガさん、いつもあたしのはなしをきいてくれて、ありがとうです。タオルは、あたしのきんちやくぶくろ巾着袋とおなじデザインなのです! あたしのおきにいりと、おそろいなのです。こぎつね子狐ししゆー刺繍がポイントなのです。またごはんをたべにいくのです。またね、です!


◆◆◆◆◆


「あの子達は、本当にもう……」


「まったくな……。しかし、手紙でもヤマトは大人っぽいというか堅苦しいし、ユキは子供っぽいな」


「本当に、不思議な子達だったわね。あら、このタオル、ウチの宿の名前も刺繍されてるわ」


「肌触りも良いな。いくら自分達が狩った獲物の素材でも、こんな良いもの作れば高いだろうに……。でも、折角だから使わせてもらうぞ」


「そうね。あの子達、また帰ってくるかしら?」


「その時は、旨い飯を作ってやるさ」

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