第2章 旅と出会い

第51話 急な女神モード……

 イベリスを出発し、西に向かって歩く。まずは、ダンジョン都市カルノーサを目指す。


 道があるので、基本的に道なりに進んでいる。道と言っても、綺麗に舗装されている訳ではない。沢山の人や馬車が通っているので、踏み固められて道になっている感じだ。


 それでも道には、大きな石などの障害物は無いので、ある程度の整備がされた道なのかもしれない。


 イベリスから西には、カルノーサや王都アリッサムがあるので、人や馬車の往来は多く感じる。


「結構、人や馬車とすれ違うんだね」


「やっぱり、大きな町がある方向だからだと思うのです」


「そうかもなあ。今までは森や洞窟に向かったり、村に向かったりだったもんね……」


 人が少ない方に向かっての移動ばかりだったので、人とすれ違ったり、馬車に追い抜かれたりと、今までに無い体験だった。


「とりあえず、道なりで大丈夫だよね?」


「それで、大丈夫だと思うのです」


 ユキと話しながら、マップを見つつ歩いていた。昨日検索した応援団先輩達の印は、まだマップ外にある。


「応援団先輩達は、マップ外なんだよなあ。見てたら気になるから、一旦オフにしようかな」


「その方が良いのです。先輩達とは、また会える気がするのです! ……アタルヨ」


「確かに、会える気がするね。んじゃ、一旦オフっと……オッケー」


 一旦、先輩達のことは忘れて、これからの予定に集中した。


「王都に到着しなきゃいけない日まで、何日あるか計算しながら旅をしなきゃね」


「はいです。遅刻はダメダメなのです!」


 折角獲物が高値になるチャンスを、逃してはいけない。しかも、かなり注目されていて、人も沢山集まるらしいので、ブーイングどころでは済まないだろう……。


 オークション開催日は、アーノルドさんから連絡を受けた次の日から数えて60日後だ。そして、王都の商人ギルドグラマスのフォノーさんに会うのが、その3日前までである。


 なので、オークション3日前を到着日に設定して、カウントダウンしていこうと思う。今日は55日前である。これが0になった日には、王都でフォノーさんに会っていなくてはいけない。


「順調に移動出来たら、25日かかるから……30日余裕がある感じかな」


「じゃあカルノーサで、ダンジョンに行けるです?」


「もし移動で遅れたとしても、20日はカルノーサに滞在出来るかな」


「楽しみなのです!」


 カルノーサのダンジョンの話を聞いていなかったら、イベリスでゆっくりしていたかもしれない。


 しかし、ドロップ品が魅力的すぎた。イベリスのレストランで食べた、あの食材たちが手に入るかもしれないのだ。


 結果バタバタと出発を決めた感じだが、それでも準備もしっかり出来たし、お世話になった人達にお礼も出来たし、問題無いだろう。


 ユキと予定などを、色々と話しながら歩いた。イベリスを出て、数時間歩いている。そろそろ休憩にしよう。


「少し休憩しようか」


「はいです」


 道を外れたところに移動して、休憩の準備をしようとするが、その時に道を通る人を見て、俺は何かを感じがした。それが何かを考える。


 歩いている途中でも木にもたれながら休憩していたり、大きな石に腰かけて簡単な食事をしている人達を見かけた。


 道を外れたところでなら、休憩や食事をしても通行の邪魔にならないので、大丈夫なのだろう。馬車も同じようにして、馬を休ませている光景もあった。


 歩きながら思ったが、この道はある程度の人通りがあるので、道を外れたところでも人目につく。あえて注目している訳ではないが、休憩してるなあと目に入ってくるのだ。


「……あ、そうか」


「ん? どうしたのです?」


「えーっと……椅子とテーブルの使用を禁止します」


「へ? 急に何です? 椅子で休んだ方が、良いと思うのです」


 俺は間違いに気付き、ユキに理由を説明した。今まで見てきた休憩していた人達は、椅子やテーブルなんて使っていなかった。木にもたれたり、大きな石に腰かけて休憩していた。


 何故かというと、椅子やテーブルなんて普通は持ち運んでいないからだ。もしかしたら、馬車や荷車で運んでいる人が居るのかもしれないが、徒歩の人間は態々持ち運ばない。


 徒歩で荷物も少ないのに椅子やテーブルを使っていたら、それは大きなものが入るタイプの、高価なマジックバッグを持っているからだ。


 つまり、今ここで俺達が椅子とテーブルを使って休憩していたら、見ず知らずの人達に「高価なマジックバッグ持ってますよー」と宣伝しているようなものなのだ。


 もしそれで、マジックバッグを狙ってくるような輩に見つかったら、面倒事にしかならない……。


 俺の場合は、マジックバッグではなくスキルなので、盗まれることはない。しかしそのスキルが、錬金袋Sランクという本来なら存在していないものなので、もしバレると余計に面倒なことになるのだ。


「な、なるほどです……モウテン」


「本当、盲点だったよ……。今までは、人気が無い森とか洞窟とかだったからさ。全く考えてもいなかったわ……」


「……あっ! テントを出すのはどうです?」


「それも考えたんだけどさ。テントは折り畳みで小さいけど、雨でもないのに休憩で態々出すのは目立つかなと……」


「……確かに目立つかもです。みんな地面や石に座ってる人ばかりなのです」


「という訳で、解決策が思いつくまで人目があるところでは、椅子とテーブルの使用を禁止します」


「ガーンなのです……マジカ」


 ちょっとしたことなのだが、経験上椅子で休んだ方が少しは疲れを癒せるのだ。出発そうそうに問題発覚とは、全く旅慣れしてない証拠だろう。


「ん? 折り畳み?」


「テントのことです? さっきヤマトさんが言ったのです」


「何だっけ……。折り畳みって、何処かで見た気がする。うーん……あっ! わかった!」


 ステータスパネルを操作して、錬金袋の中身を確認する。


「……あった! これならいけるか!?」


「ヤマトさん?」


「ちょっと待ってね。解決策発見かも」


 錬金袋に入っていたのは、ゴミ捨て場で拾ったものだ。先日色々錬金した時に、特に使い道が無さそうだから、錬金せずに素材にしようと思ったものだ。


 それをサクッと錬金して、バッグから取り出した。


「ジャーン。折り畳み椅子発見!」


「なんとっ! それなら小さいので、普通の荷物で持ってる人も居ると思うのです……ナイス」


「だよね。まさかこんなに大事な使い道があるとは、考えもしなかったよ。錬金素材に、するつもりだった……」


「あ、危なかったのです……セーフ」


 折り畳み椅子は、ゴブリンの木槍で錬金した木製の椅子だ。でも座面にはクッション素材が使われていて、地面や石に座るより断然座り心地が良い。


 大きさは普段使っている椅子より、かなり小さくて座面の位置も低い。地球のアウトドアで使う、折り畳みの背もたれが無い椅子を思い浮かべる形だ。これなら、今の状況での休憩にはバッチリだ。


 折り畳み椅子をしっかり二脚持っていて、さらに折り畳みテーブルまで発見した。出発直前にゴミ拾いをしたからか、幸運スキルSランクが炸裂したのだろう。


 早速、作りたての折り畳み椅子を使って休憩だ。実に座りやすい。魔道水筒で水分補給をして、ゆっくり体を休めた。


「てか、実は良いもの持ってましたあ、とか凄く都合が良いのも、あるあるなんだよなあ」


「ヤマトさんのスキルは、記憶から選ばれたスキルなのです。あるあるを沢山知っているから、スキルが良い感じに働くのかもです」


「そうなのかなあ。まあ、とても助けになるスキルに感謝しかないけどね」


「そのスキルを記憶から選ばれるようにしたのは、あたしなのです! ……エヘン」


「勝手なことして、フェリシア様に説教くらってたけどねー」


「はうっ、説教は勘弁なのです……キツイ」


 休憩を終えて、また移動を始めた。特に問題も無く移動して、昼時を迎える。


 道を外れたところで、折り畳み椅子と折り畳みテーブルを準備して昼食を食べた。昼食は、保存食で済ませた。といってもバッグのお陰で出来立てなので、通りすがりの人にじっくり見られたら多少怪しいのだが……。


 それでも、野営で料理をするパーティーがいない訳ではないので、そこまで気にされることもない、と思いたい……。


 変な視線も感じずに、無事に食事が終わった。


 その後特に何もなく順調に移動し、野営の時間になった。折角なので、野営では料理がしたい。


 しかし、ウチのような2人パーティーで、荷物が少ないのに料理をしていたら、マジックバッグ持ちと気付く人もいるだろう。


 野営で料理をするパーティーもあるのだが、それは4、5人組のパーティーで食材や調理器具を分担して持ち歩いているから、成り立つ話なのだ。


 なのでテントを出して、道から見えないテントの裏に隠れて料理を作った。今回作った料理は、出発前にもらったレナードさんのレシピからだ。


 周りに人が多いと、料理が出来ない可能性も今後ありそうなので、保存食も含めて多めに作ることにした。レナードさんのレシピの指示通りに作れば、味は間違いないので多めに作っても問題なく美味しく出来るのだ。


 その証拠が、こちらである。


「ヤマトさん! レナードさんの料理と、同じ味なのです! ウマウマなのですう。……ううっ、思い出してちょっと寂しいのです……グスン」


「何だか最近よく泣くね。ユキは、大人じゃなかったっけ?」


「ヤマトさん。大人でも泣くことはあるのです。そんな、からかうようなことは言ってはいけないのです」


「うっ、急な女神モード……。すいませんでした」


「素直に謝れるのは、良いことなのです」


 このようにレナードさんのレシピ通りに作った料理は、ユキが女神モードになるほど美味しいのだ! ……すいませんでした。


 食事を終えて片付けをして、休むことにした。寝る時は、今まで通り見張りも立てずに、マジックテントの魔物避けとユキの気配察知に頼ることにした。


 全く旅慣れてなくて、ちょっとしたトラブルもあったが、無事に旅の初日は終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る