第49話 挨拶まわりに行きますか!

 王都への出発準備のため、市場で買い出しだ。


 イベリスから西には、まだ行ったことが無い。途中で村や町があるのかも、わからない。わかっているのは、カルノーサまで歩いて15日ほどということだ。


 カルノーサまでに何があるか聞けば教えてくれる人は数人いるが、のんびり旅をしたいのであえて聞かないつもりだ。歩きながら、マップで色々わかるだろう。


 とりあえず、15日以上は買い物が出来ないと決めつけて、買い出しを進める。


 肉は今まで買ったことが無い。今も十分バッグに入っているので、買い足しは不要だ。


 野菜も色々入っているが、これは買い足しが必要である。特にヤマトオリジナル料理に使うものは、絶対に欠かせない。なぜなら、ユキがキレると怖いからだ……。


 俺はパンが焼けないので、これはしっかり買い足しておく。チーズなども必要だ。他には、調味料も忘れてはいけない。


 もちろん新しい野菜も、しっかり確保しておいた。色々と料理に使おうと思う。


「これで食材は大丈夫かな」


「大丈夫なのです! ショウガンがあれば、もーまんたいなのです!」


「……でたな、ショウガン教の教祖め」


 ユキはショウガンが沢山買えたので、もう準備オッケーなのだ。


「あとは……一応、食器や革袋とかも買い足しておこうかな」


「それも必要なのです。途中で買い物は、出来ないはずなのです」


「そうだよね。どうせバッグには沢山入るんだし、いつもの店にも買い出しに行こう」


「おー、なのです」


 冒険者御用達の雑貨屋で、色々と買い物を済ませた。


 そろそろ夕方なので、宿に戻ろう。歩きながら、出発についての話をする。


「買い出しは終わったね。あとは……お世話になった人達に、会ってから出発したいかな」


「良いと思うです」


「じゃあ明日一日は、みんなに会いに行こうか」


「はいです」


「出発は、明後日にしよう!」


「りょーかいなのです!」


◇◇◇◇◇


「ただいまです」


「はい、おかえり」


「戻りました」


 二人に、明後日出発することを伝えた。


「……そうかい。寂しくなるね」


「お前らには、本当に世話になったな」


「いやいや、お世話なったのは、俺達ですよ」


 二人は新しいメニューが出来たし、テーブルなども新品同様になったことで、俺達に感謝しているようだ。


 俺達はそれ以上に、二人に感謝していることを伝えた。レシピのこと、部屋をとっておいてくれたこと、この宿じゃなかったら俺達の生活は、全く違ったものになっていただろう。


 そのまま夕食を食べて、部屋に戻ることにした。


「あっ、錬金の途中だったんだ」


「今日は大忙しだったのです……ドタバタ」


「本当にドタバタだったね。サクッと終わらせるよ」


「ヤマトさん。ファイトなのです!」


 またユキは、応援を頑張るようだ……。


 残っていたものから使えそうなものを、サクッと錬金した。


椅子2脚 錬金素材 ゴブリンの木槍


テーブル 錬金素材 ゴブリンの木槍


荷車 錬金素材 ゴブリンの木槍


 これらは、俺が見つけたものだ。全て機能無しだった。やはり魔力感知が出来ない俺では、なかなか当たりを引けないようだ。もちろん、Aランクになっている。


 ちなみに荷車だが、荷車だとわかっていた訳ではない。壊れた小さな木の加工品だったのだが、鑑定で壊れた荷車とわかったのだ。自前の荷車も、何かに使えるかもしれないので作ってみた。


 ここからは、ユキの魔力感知にかかったものだ。


マジックテント Aランク 錬金素材 革の切れ端

 空間拡張(中)


魔道ランタン Aランク 錬金素材 鉄屑

 燃費向上(中)


鉄の鎧 Aランク 錬金素材 鉄屑

 重量軽減(中) 魔法耐性(小)


鉄の大盾 Aランク 錬金素材 鉄屑

 重量軽減(大) 打撃耐性(中) 魔法耐性(小)


革のブーツ Aランク 錬金素材 革の切れ端

 防水機能 移動速度上昇(小) 

 疲労軽減(中)


魔道地図 Aランク 錬金素材 紙の切れ端

 半径150メートルのマップがわかる


 マジックテントは今使っているものと同じで、見た目は一人用テントだ。しかし、中に入ると大人10人は寝れそうで、今使っているものの倍くらいの広さだった。


 性能面は劣り、全自動設置回収がないので、手作業で設置する必要がある。それでも、バラバラなものを組み立てる訳ではなく、折り畳み式なので簡単だ。


 魔物避け機能もないので、以前のボアの見張りのような場面では使えると思う。


 魔道ランタンは、一般的なものだった。


 鉄の鎧、鉄の大盾は装備せずに、バッグに入れておく。鉄の大盾は今の盾の倍のサイズなのに、かなり軽い。いつか、俺のピンチを救ってくれるだろう。


 革のブーツは、雨の日に欲しかった機能が付いていた。防水機能だ。この間の雨で特にブーツが濡れたということもないのだが、若干冷たくは感じていた。防水機能があると、そう感じることもないと思う。


 さらに、移動速度上昇と疲労軽減まで付いているので、今回の旅にはもってこいの性能だ。


 魔道地図という、新しい魔道具も手に入った。これはマップスキルのように、自分周辺の地図がわかるものだ。ただし、マップスキルとは違い、魔物や人は表示されない。マップスキルが無い人には、とても便利な魔道具だ。


 ユキはポーションも見つけていた。鑑定すると、効果の切れた麻痺消しポーションだった。初めてのポーションだ。


 一つ錬金しようと思ったのだが、確認することがある。コマンドのレシピだ。


 予想通りレシピが増えていた。麻痺消しポーションは、麻痺消し薬とアワセ茸で錬金出来る。麻痺消し薬は、シビレ草とギャク苔で錬金可能だ。


 麻痺消しポーションに使う素材は、錬金に使える。つまりシビレ草、ギャク苔、麻痺消し薬、アワセ茸で錬金が可能だ。沢山在庫があるアワセ茸で、麻痺消しポーションAランクを錬金した。


 さらにレシピには、新しいポーションが載っていた。状態異常回復ポーションというものだ。毒消しポーションと麻痺消しポーションで錬金出来る。


 作ってみると、毒、麻痺、視界不良、聴覚不良などの異常を回復するポーションだった。一応Sランクにしてみると、全ての状態異常、体調不良を回復すると鑑定された。


 また世に出せないものを、作ってしまった……。しかも俺達は状態異常無効コンビなので、自分達に使うことはないだろう。


 これで錬金は終了だ。ちなみに拾ってきたものに、変わった錬金素材は無かった。これからも使い勝手が良い端材は、色んな種類を大量にゲット出来た。暫く端材には、困らないだろう。


「ふう、終わりー!」


「お疲れ様なのです!」


 ユキに出来たものを説明した。


「じゃあ遠慮無く、革のブーツは俺が装備するよ」


「どうぞ、なのです。明後日からの旅に、便利なブーツなのです!」


「やっぱり幸運Sランクのお陰で、良いものゲット出来るわあ」


 その後、ユキと明日の予定を話し合った。明日は、しっかりみんなに挨拶をする予定だ。朝からすぐに動けるように、早めに休むことにした。


◇◇◇◇◇


「よーし。じゃあ、挨拶まわりに行きますか!」


「りょーかいなのです!」


 今日のユキは、珍しく寝起きが良かった。今日一日でお世話になった人達に会うので、テキパキ行動してくれたようだ。これからも、毎日テキパキしてくれて良いのだが……。


 まずは、冒険者ギルドに向かった。買い取りカウンターのバルディさんに、声をかける。出発のことだと伝えると、一緒にギルマス部屋に移動した。ギルマスに、明日出発することを伝えた。


「そうか。日にちに余裕はあるが、ちゃんと間に合うようにな」


「わかりました」


 それから、二人と色々な話しをした。最後にお礼を言ってポテチを渡し、もちろん宣伝もした。そして、ギルマス部屋を後にした。


「兄貴、不思議な二人だったな」


「そうだな。幸運スキルが珍しいとはいえ、ちょっとな……」


「まあ、言いたくないこともあるさ」


「ああ、でも悪い奴らじゃないだろ」


「それは、間違いないな」


パクっ


「旨いな、これ! 兄貴も食えよ」


「ほう。旨い。本当に不思議な、二人だったな……」


◇◇◇◇◇


 一階に降りると、受付でマリーさんとヴァニラさんが話していた。


「マリーさん、ヴァニラさん、おはようございます」


「おはようです」


「ヤマトさん、ユキさん、おはようございます」


「おはようございます」


 明日、イベリスを離れることを伝えた。


「……そうですか。寂しくなりますね」


「……お二人には、本当にお世話になりました。今も仕事が続けられて、母も元気になって、全てお二人のお陰です。ありがとうございました……ううっ」


 マリーさんの寂しげな顔は、初めて見た。ヴァニラさんは、少し泣いてしまった。


 仕事中の二人の邪魔にならない程度に、色々な話しをした。二人にお礼を言い、ポテチを渡して宣伝もする。そして、冒険者ギルドを出た。


「冒険者のみなさんが町を移動するなんて、よくあることなのに何か寂しいわね……」


「はい……。こんなに寂しく感じたのは、初めてかもしれません」


「ついこの間、成人したからってカードを作りにきたのよ。なのに、色んな依頼をこなして、ダンジョン制覇までして、あっという間に冒険者ランクが上がって驚いたわ」


「凄いお二人です。そして、私の恩人です」


「そうね。でも、助けられただけじゃ駄目よね。私達も冒険者のみなさんを、しっかりサポートして頑張らないと」


「はい! 頑張ります!」


「元気出たわね! あっ、折角だから、これいただきましょう」


パクっ


「……美味しい」


「……凄く美味しいです。今度、母に買って帰ります」


◇◇◇◇◇


「あっ、そうだ。ここからなら門が近いから、守衛さんのところに寄って行こう」


「はいです。守衛さんには、色々助けてもらったのです」


 門に着くと、いつもの守衛さんの姿は見えなかった。


「あれ? 今日は居ないのかな?」


 すると、後ろから声をかけられた。


「どうした? また盗賊でも捕まえたのか?」


「あっ! おはようございます。守衛さんに会いに来ました」


 キョトンとする守衛さんに、明日イベリスを離れることを伝えた。


「律儀な奴らだな」


「守衛さんは、イベリスの町で最初に会った人ですから」


 守衛さんは他の現場にも顔を出してから、いつもの門に来たようだ。今知ったのだが、この人は守衛長さんで、偉い人だったようだ。


 カードを作って冒険者になった時に声をかけてくれたことや、盗賊の時のことなど、色々話しをした。もちろんここでも、最後にお礼をしてポテチを渡し宣伝をした。


「あっ、これは! そうか、お前達がゴミ拾いの冒険者だったのか」


「え?」


「以前部下から、ゴミ捨て場におかしな冒険者が来たって報告があってな。昨日も行ったんだろ?」


「……はい。あの守衛さんは、部下だったんですね」


 話さないと、わからないものだ。ゴミ捨て場の守衛さんと守衛長さんに、繋がりがあるとは……。


 改めて、ゴミのことも含めてお礼をして、町中に向かった。


「面白い二人だな」


「守衛長、おはようございます。……何持ってきたんですか?」


「馴染みの冒険者にもらってな。食うか?」


「ご馳走になります!」


パクっ


「旨いですよ!」


「ああ、旨いな。教会が屋台を出して、売ってるらしいぞ」


「明日休みなんで、娘と探してこようかな……」


◇◇◇◇◇


「そろそろ昼ご飯だね。何処で食べようか?」


「屋台巡りは、どうです?」


「いいね! イベリスの屋台ともお別れだし、保存食も確保しよう。ユキのおすすめは、ある?」


「おまかせあれなのです! れっつごーなのです!」


 屋台を巡って、昼食と保存食の確保をすることにした。

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