前編 花言葉探偵は振り返る~Floweriest(花屋)~

第1話 振り返る~エキザカム編~

 紫苑の朝は父の墓参りと新聞のスクラップ帳を眺めることから始まる。前者は長年の習慣だが、後者は最近になって始めた。

 紫苑にはずっと気になっていることがあった。それは紫苑が関わった、花についての出来事だ。

 一つ目は、ある女性の玄関に置かれた謎のエキザカム。エキザカムは女性に恋する内気な男性が置いていたが、その男性は死亡。未解決事件として迷宮入り。

 二つ目は、百合仮面の少女が仕掛けた謎解きゲーム。百合仮面の少女は白百合に襲われて死亡。これも未解決事件として処理された。

 三つ目は、枯れない水仙の意味を知りたいという依頼。依頼人の家族間の問題だったことが判明。その後の詳細は不明。

 紫苑はそれらの出来事とそれに関係する新聞の切り抜きをずっと眺めて考えていた。

 どの出来事にも共通しているのは、花が関わっていること。その中には、花が人知を超えた現象を起こしていることも見受けられた。

 三つ目の出来事以外、一つ目と二つ目の出来事は新聞に取り上げられ、ワイドショーに少しだけ取り上げられていた。新聞でも一面ほどではないが、小さくない記事として載っていた。

 紫苑はスクラップ帳をじっくり見た後、それを閉じた。


(調べるとすれば、まずはエキザカムからか)


 紫苑はスクラップ帳を本棚に戻し、支度をした。



 紫苑が訪れたのは、エキザカムの出来事で重要人物だったあの男性の実家である。紫苑が探偵だと名乗り、あの出来事に関わっていたことを話すと、男性の母親らしき人物が家の中に通してくれた。

 応接間である和室に通され、母親らしき人物とローテーブルを挟んで向かい合って座る。

 その時、母親らしき人物の後ろの仏壇が目に入った。

 仏壇には、父親だろうと思われる白髪交じりの男性の遺影と、紫苑が見たあの男性の遺影が飾られていた。

 母親らしき人物は言う。


「この間、綾歌あやかさんがいらっしゃったの。その方から全て聞きました」


 綾歌は全て話したという。あの男性――敬士たかしとは駅で出会ったこと、CDショップで再会したこと、それからエキザカムの花が毎日玄関に置かれたこと、ずっと会いたかったのにすれ違っていたこと。


「申し訳ございません」

「なぜ、あなたが謝るの?」

「私は、綾歌さんから毎日玄関にエキザカムの花が置かれる謎を解いてほしいと言われました。私は、その謎解きを誤りました。私が間違えなければ、変わっていたかもしれません」

「敬士は……とても内気な子でした。昔から何か伝えることが苦手で、だから花を贈ることでしか想いを伝えられなかったことは容易に想像できました」

「その、エキザカムですが……」


 エキザカム、その花言葉は「愛している」。


「一体、どこで入手したか、ご存じですが?」


 紫苑が敬士の遺体を発見した際、密かにアパートを観察していた。あのアパートには鉢植えはおろか、ベランダもない。日当たりもとても悪く、花が育つような環境じゃない。その中でエキザカムを育てられるはずがない。花束なら買うことができただろうが、綾歌の玄関に毎回置かれていたエキザカムには根がついていた。


「いえ、知りません」

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