第7話 Q&A(Jonquil(水仙)編)

 キュー(紫苑)

  三年間、枯れない水仙なんてありえない。

  一体誰が? 何の目的で?



 A《アンサー》


 三年前のある日。余命がなかった母の晴陽はずっとこう思っていた。

 この人生、何だったのだろうか。

 家族がいてもずっと独りぼっちで、ずっと見捨てられてきた。

 だからせめて、最期だけは、一瞬だけでもいい、あなた達に振り向いてほしかった。

 手紙を書き終えた晴陽に、柔らかそうな青年――花屋は言う。


「本当にしますよ」

「構いません」

「後悔しませんか? あなたが花になることに」

「構いません」


 これでもう一度、家族が振り向いてくれるなら。

 そう思って晴陽は目を閉じた。



 晴陽におつかいを頼まれた父が家に帰って来た時、晴陽の全身から水仙が生えていた。まるで晴陽の体を養分にして水仙は成長していた。

 父はあまりの状況に凍り付いた。声も出なかった。

 しばらくしてから正気に戻った父は、晴陽の傍にあった手紙を開く。


 どうか、この私を庭に埋めてください


 父は手紙を握りしめた。そして、行動に移した。

 もし、陽水が早く帰ってきた場合を考慮して、この姿を見てショックを受けないよう、晴陽を布団で包み、庭に埋めた。

 埋めている時、父の目から涙が溢れて止まらなかった。


 不器用だから、晴陽のことを優先できなかった。

 意地っ張りだから、晴陽のことが愛おしくても、それを言葉にして伝えられなかった。

 愛している、と言えなかった。


「ごめんよ……ごめんよ……」


 だからせめて、忘れないように庭に小屋を建てて晴陽の遺品を入れよう。

 小屋に行けば君に会える。


 愛するために、いつでも思い出せるように。

 愛していたのは、父も同じだったのだ。

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