第6話 花言葉探偵と枯れない水仙
「どうしてわたしが……お父さんが嫌いだと」
「まず、部屋の掃除がお父様の部屋に行き届いていなかったこと。使う部屋は綺麗にしているのにそこだけが違和感でした」
そして、近所の人たちの証言。
近所の人達は晴陽が死んだことを知らなかった。つまり、葬式が行われていないということだ。そこから、晴陽の死に何か裏があると思った。
殺されたとなれば、埋めた場所から咲き始めた水仙は父にとってこういうメッセージとして受け取れたかもしれない。
私を殺したこと、発覚しないなんて自惚れるな。
「今分かりました。あれは呪いです。お父さんはお母さんを愛していなかった。仕事ばっかりで家には帰ってこないし、病気になった時も、病気がひどくなってからやっと一緒に居始めた。ひどい父! だけどそれを知っていながら一緒に居られなかったわたしも憎い……同罪です……」
吐き出すように言った後、陽水は瞼を伏せた。
ふと、紫苑の脳裏に輝く水仙畑が浮かぶ。
水仙は黄色だった。
そこで気づく。
「水仙は黄色でしたね」
「?」
「花は色によって花言葉が違うことがあります。黄色の水仙も然り」
「それって……」
「黄色の水仙の花言葉は『もう一度愛してほしい』。お母様は仕事で家を空けることが多かったお父様にもう一度愛してほしかったのではないでしょうか。勿論、娘のあなたにも」
「そんなこと……」
「もし、恨んでいるならもっと別の、恨みや呪いを意味する花が咲いているはずです。そうではなく水仙、しかも黄色の水仙が咲いたのには、もっと別の理由があって然るべきです」
その意味は……たとえ自分が死んでも「もう一度愛してほしい」。
「私はずっと、水仙が黄色の理由を考えていました。今の仮説だと辻褄が合うんですよ。それに、水仙が咲き続けたのは、忘れてほしくないからと考えると……」
それは呪いでも恨みでもない。
もう一度愛してほしいことを主張し続けるために咲き続けていたのだ。
陽水はその場に泣き崩れる。
「あくまでも私の推測であり、願望です。真実が知りたければ、お父様に聞いてみてはいかがでしょうか……」
陽水の父が晴陽を殺したのか、は本人に聞いてみないと分からない。もしかしたらそうかもしれないし、死体を布団に包んだだけの可能性も捨てきれない。
だが、全ては二人のうち、どちらかが歩み寄らなければ分からない真実だ。
紫苑の仕事はここまでだ。咲き続ける水仙の意味は分かった。
後は、父と陽水の問題だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます