第5話 本当に知りたかったこと
近所の人に聞き取りを行った後、紫苑はもう一度陽水の家を訪ねた。
紫苑の突然の訪問に陽水は驚いた表情をしたが、一瞬で真顔に戻る。
「あの……」
「一つだけ確認したいことがあります。ここでは話しづらいので歩きながら」
陽水は頷き、紫苑と並んで歩く。
豪邸が豆粒の大きさになった距離で紫苑はやっと口を開いた。
「あなた、お父様が大嫌いですね?」
陽水の顔が強張る。紫苑はすぐに補足した。
「正直に答えたからって私は誰かに口外しません。ただ、水仙の謎が分かるかもしれないだけです」
陽水は立ち止まり、黙り込んだ。紫苑も立ち止まり陽水の様子を見守る。少し経った時、陽水は言った。
「あいつは……母を殺した! 病気で苦しんでいたお母さんを窒息死させたんだ。布団にぐるぐる巻きにして、庭に埋めた!」
三年前、陽水が外から帰って来た時、母の晴陽の寝室には老人の父と布団に包まれた母の晴陽がいたという。
あまりの状況に陽水は何事か、訊けなかった。
恐怖のあまり、固まってしまった。
どういう状況か、知りたいはずなのに言葉が出なかった。
陽水はそのことをずっと後悔していた。
その後、母の晴陽を埋めた場所を中心に枯れない水仙が咲いた。
(やはりそうか……)
うすうす気づいていたが、紫苑の口で言うことは憚られた。
最初から違和感を覚えていたのだ。
なぜ陽水が『土の中からの叫び』だと言ったのか。
本当は知っていたのだ。土の中に何が埋まっているのか。だが、分からなかいことがあった。
陽水はそれが知りたかったのだろう、その土から生えた水仙の意味。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます